目上の人や大切な顧客などとのやり取りで、『賜(たまわ)る』という言葉を使用することがあります。定型文のように使われる表現ですが、正しく意味を理解できているか、実は不安という人もいるでしょう。意味を確認するとともに、具体的な使用例を紹介します。
「賜る」とはどんなときに使える言葉?
『賜る』は、恭(うやうや)しく上品な印象を与える言葉で、ビジネスシーンでもよく使用されます。特に、目上の人とのやり取りでは、上手に活用したいものです。まずは意味をきちんと把握しておきましょう。
「もらう」「与える」の意味を持つ
『賜る』には、下位の人が高位の人から物事を『もらう・受ける』意味と、高位の人が下位の人に『与える・授ける』という意味があります。前者は謙譲語、後者は尊敬語です。
ビジネスシーンでは、目上の人や顧客から何かをしてもらう場合に使われます。その場合、丁寧語の『ます』をつけて『賜ります』とすることが多いでしょう。
「承る」と「受け賜る」の違い
『承(うけたまわ)る』 のおもな意味は、話や用件などを『聞く』、指示や申し入れなどを『受ける』の二つです。 自分の立場を下げる謙譲語として使う点では『賜る』の使い方と同じですが、その用法に違いがあります。
『受け賜る』が物や事象全てを対象とできるのに対して、『承る』はメールや対面でのやりとりに用いられ、物の授受には使いません。
・(正)お申し込みを確かに承りました。
・(誤)貴重なお品を承り、ありがとうございます。
『受け賜る』は、『受ける』『もらう』という似た意味の単語が続く表現です。このような言葉を『畳語(じょうご)』といい、 意味を強調する効果があります。
・出産にあたって、素敵な品を受け賜りました。
・やりがいのある職場への異動を受け賜りました。
「賜る」の言い回しと例文
『賜る』を使い慣れていない人は、その上品なイメージから、ともすると使いにくく感じてしまうこともあるでしょう。
しかし、ビジネス文書でもよく用いられるため、さまざまな人と接する上ではスムーズに使えるようにしたいものです。
ここでは、『賜る』の代表的な言い回しについて見ていきます。
「賜りますよう」
『賜りますよう』は、謙譲語の『賜る』に丁寧語『ます』を付け、柔らかい表現の『よう』を足した表現です。『よう』を足すことで、穏やかで角が立たない言い回しになります。
『賜りますよう』は以下のように使いましょう。
・今回のプロジェクトではご指導賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
『賜りますよう』に『申し上げる』という謙譲表現を続けると、より相手を立てる言い回しにできます。
「いただきますよう」と言い換えられる
『いただく』も、何かをして『もらう』という意味を持っています。謙譲語としての意味も含んでいるため、目上の相手にも使用できる言葉です。
『頂く』と漢字で表記するか迷うこともありますが、『ご理解いただきますよう〜』などと補助動詞として使う場合は、平仮名で表記するのが一般的です。
・恐れ入りますが、メールをご確認いただきますようお願いいたします。
「賜りたく」「賜れれば」も使える
ビジネスシーンで使う表現に数多くのレパートリーがあれば、作成する文書のクオリティーも向上させられます。『賜る』から派生した『賜りたく』『賜れれば』という表現も、使い勝手が良いので覚えておきましょう。
『賜りたく』は、どうかそうしていただければという思いを端的に表現でき、くどい言い回しを避けられます。
・高いご見識によるご助言を賜りたく存じます。
『賜れれば』も、同様の意味合いの言い換えとして使用できます。ただし、『賜ることができれば』はやや冗長な印象となるので避けましょう。
・私どもの結婚式で、一言ごあいさつ賜れれば幸いです。
ビジネスレターのあいさつでの使われ方
仕事をする上で、顧客とのやり取りは不可欠な業務です。利益を生んでくれる相手であるだけに、失礼があってはいけません。
自社のことを気に掛けていただくことに対する感謝の気持ちや、自分たちの努力を評価してほしい思いを伝えるフレーズを身に付けておきましょう。
「ご高配を賜り」
『いつもお世話になります』という書き出しを使うことは多いでしょう。それに代わる表現として、『ご高配(こうはい)を賜り』は、多くのシーンで活用できる言葉です。
『高配』は、配慮が高い、つまり行き届いた親切な振る舞いや気持ちを指します。常に気に掛けてくれることに対する感謝を込めて、以下のように文書で使用します。
・平素はご高配を賜り、社員一同深く感謝申し上げます。
「ご愛顧を賜りますよう」
『顧』は、周囲を見渡すことや思いを巡らす・心を向けるさまを示しています。そのような意味から、『愛顧』とは愛情をもって心に掛ける様子であり、贔屓(ひいき)にする状態を指しているのです。
『ご愛顧を賜りますよう』とすれば、『よい取り引き(関係)を』という意味で使用できます。従来の顧客にも、新規開拓を目指す相手にも活用できる言葉です。
・弊社サービスの効果を信頼していただき、ご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。
・このたびは、発注数増加のご契約をおまとめくださり感謝いたします。引き続きご愛顧賜りますようお願いいたします。
まとめ
ビジネスシーンでは『してください』『してもらいたい』と、誰かに要請をする場面は多いものです。目上の人や顧客にお願いする際には、敬意を払って相手に失礼のない表現を使う必要があります。
『賜る』は品位を感じさせる言葉であり、正しく使えば気を悪くする人はいないでしょう。スマートな表現で依頼や要請をするためにも、上手に活用したい言葉です。