相手にしっかりと理解してほしい場合などに使用する『ご承知ください』という表現は、「どこかそっけなく感じ、目上の人に使ってよいか迷う」という声を耳にします。そこで、適切な使い方や言い換え表現について解説します。
「ご承知」の意味と注意点
物事を間違いなく伝えたいときに『ご承知ください』と記し、注意をうながすことがあります。よく使用される表現ですが、正確な意味を理解せず、何となく使っている人も多いようです。
事情を聞き入れ理解すること
『承知』は事情を知ること、または、知っていることを表す言葉です。『承』には『さずかる』という意味があり、知識を与えられる様子を示しています。
「明日おいでになることは承知しています」とすると、先方が来ることを既に知っているということになります。
また『他者の事情を聞き入れる』という意味も持っています。簡単に内容や結果だけを理解するのではなく、周辺状況までを含んだ意味合いを有しているのです。
「当社への納品期日に間に合わないことは承知した」の場合、その理由も含めて受け止めている様子が伝わります。
一方で『承知しない』となると、『知らない』という意味の他に『許さない』の意味もあります。「次に失敗したら承知しない」とした場合、『再度のミスは許さない』という表現になります。
「ご承知おきください」は使える?
『ご承知おきください』という表現も、よく見受けられます。相手を敬う丁寧な表現である一方で、ビジネスシーンにおいては配慮が求められる言い回しです。
活用法に間違いはありません。やや一方的なイメージはありながらも、丁寧に理解をうながしているといえる表現です。ただし、文法的な正しさとは別に、使う相手によって注意が必要ではあります。相手によっては、不快感を覚えるケースもあることを意識しておくべきでしょう。
ちなみに、『ください』は漢字で表記せず平仮名とすることが適切です。
目上の人には別の表現のほうが無難
『ご承知おきください』は、『知る』で置き換えると『知っておいてください』となります。そのように考えると、受け取り方によっては圧迫感を抱かれることもあります。
元来『承』は、強制の雰囲気を感じさせる言葉です。目上の人や大切な顧客からすると、高慢な印象を持たれてしまう危険性があります。
『ご承知おきください』は、尊敬語を含む丁寧な表現であると同時に、相手の受け止め方を考慮しなければならない言葉です。誤解のリスクを考えると使用は控え、別の表現を選択することが無難といえます。
「ご了承ください」も目上に使うときは注意
『ご了承(りょうしょう)ください』も『ご承知ください』と同じような意味で用いられることの多い言葉です。
『了』には『終わる・悟る』の意味があり、『了承』という言葉は『事情を理解し尽くす・相手の意向すべて受け入れる』ことを示しています。
例えば、相手に理解を求めるときに「今回のミスのいきさつをご了承ください」など表現すると、『伝えたことをそのまま納得してください』という意味に捉えられる可能性があります。
それよりも「このような対処でよろしいでしょうか?」という表現を用いる方が適切です。そのため、確認の意味で使用することは避けましょう。
知って理解してほしいときの言い換え表現
相手に自分の伝えたいことをよく知ってほしい場合に、『ご承知ください』に換わる表現について紹介しましょう。
「お含みおきください」
『お含みおきください』は、知っておいて欲しいという気持ちを、ソフトにかつ品位を感じさせながら伝えられる表現といえるでしょう。十分な敬意も示しており、使いやすい言い回しです。
また『含む』には、一部として持っているという意味の他に『心にとめておく』とする意味も備わっています。
事前に察知しておいてほしい場合などで「万が一の事態もお含みおきください」とすると、トラブルが発生する可能性を柔らかく伝えることができます。
「ご理解賜りますようお願いいたします」
『もらう』の謙譲語である『賜る』を用いて『ご理解賜りますようお願いいたします』とすると、非常に丁寧な表現となります。
『賜る』には『目上の存在から与えられる』という意味があり、この言葉を向ける相手は自分より格上という理解によって成り立っています。
その上で丁寧語を活用しながら表現することで、相手を最大限に尊重しつつ依頼・要請する言葉です。
謝罪の意味が込められたフレーズ
ビジネスでは、お願いをする機会が多いことと合わせて、謝罪の意を示す場面も少なくありません。そのような場合に使えるフレーズについて紹介しましょう。
「ご容赦いただきたく存じます」
謝る場面では、大いに気を遣うものです。一つ間違うと、かえって相手の神経を逆なでする恐れがあるため、言葉選びは慎重に行わなければなりません。
『すみません』では軽々しく感じられそうなときは『ご容赦(ようしゃ)いただきたく存じます』とすると、謝罪の意に丁寧さが加味されます。
『赦』には許すという意味があり、受け入れる『容』と合わせることで『謝罪を受け入れてください』という意思を伝えています。一例に「このたびの手違いにつきご容赦いただきたく平にお願い申し上げます」のような使い方があります。
「あしからず」「恐れ入りますが」を付ける
やむにやまれぬ事情によって起こった状況への謝罪などには『あしからずご容赦を』とする使い方もあります。
台風で交通手段がなくなり、約束していた訪問が不可能になった場合などに「あしからずご容赦いただきたく存じます」のように使います。
『あしからず』だけでは伝えきれないと思う場合は、『恐れ入りますが』という表現を文頭に置くパターンもあります。
「恐れ入りますが、あしからずご容赦くださいますようお願い申し上げます」は、心からおわびしている様子がうかがえます。
まとめ
捉え違いや誤解がないように内容を伝えたい際に、よく用いられる『ご承知ください』は、間違いではないものの注意が必要です。
一方的な意思表示と思われないように、より適切な言葉を選び、完成度の高い表現で意思表示していきましょう。