目上の人に対して『拝見しました』と伝えるのは適切な表現でしょうか?『拝見』を用いるときに気を付けたい言い回しや注意点、シーンに合わせて言い換えしたい類似フレーズも紹介します。
「拝見しました」の意味
『拝見しました』は目上の相手に対して使える敬語表現です。詳しい意味や『拝読しました』と何が違うのかをチェックしましょう。
見たことを伝える謙譲表現
『拝』の字が持つ意味は『謹(つつし)んで』です。自分を下げて敬意を示すときに使われる漢字であり、行動を表す漢字の前に付けることで謙譲語となります。『拝見』は『見る』という動作をへりくだって表現する語です。
『拝見』自体が謙譲語のため、『拝見しました』だけで目上の相手へ敬意が伝わります。逆に同僚や部下など、へりくだる必要のない相手に対しては使いません。
「拝読しました」との違いは?
似た言葉の『拝読』は、謹んで読むことを意味する言葉です。本の著者や資料の作成者・メールの送信者など、文章を書いた相手へ読んだと伝えるときに使います。
・作成いただいた資料を拝読しました。
・調査報告書を拝読したところ、何点かご質問したい点がありご連絡いたしました。
『拝見』は目で見るもの全体に対して使われるのに対し、『拝読』は使える対象が読むものに限定されているのが特徴です。
注意が必要な言い回し
『拝見』を用いる言い回しの中には、注意が必要なフレーズがあります。文法的に間違いではなくても、相手に違和感を与える言葉は使い方を気をつけましょう。
「拝見いたしました」
『拝見いたしました』は文法的には二重敬語ですが、慣習的によく使われている表現です。『拝見』は見る対象に対して・『いたす』は聞き手に対して敬意が向かうため、謙譲語が重なっていても許容される言い回しとされています。
ただし同じ種類の敬語が重なるため、間違いだと考える人もいるのが事実です。ほとんどの人にとっては違和感のない表現ですが、言葉遣いを気にする相手へは使わない方が無難でしょう。
『拝見しました』とシンプルに伝えれば、敬意が伝わるだけでなく違和感を与える心配もありません。
「拝見させていただきます」
ビジネスシーンでよく使われている『拝見させていただきます』も『拝見いたしました』同様に、謙譲の語が重なっているフレーズです。同じ種類の敬語を重ねるとくどい印象があり、言いたいことが伝わらなくなるデメリットもあります。
また文化庁によると『(お・ご)〜(さ)せていただく』という表現を使うのは、『許可を受けて行う』『そのことで自分にメリットが生じる』という二つの条件が満たされている場合のみとされています。
特に相手が許可していないのに『拝見させていただきます』を使うと失礼に感じられてしまう場合もあるため、こちらも『拝見します』に言い換えるのが適切です。
シーンによって使い分けが必要な類似表現
『拝見しました』の類似フレーズは多くあります。中でも状況によって使い分ける必要がある表現をチェックしておきましょう。正しい使い分けで印象アップを目指せます。
「確認いたしました」
資料などの内容をチェックしたときには、『拝見しました』より『確認いたしました』が向いています。『拝見』は全体的に見ることを意味しますが、『確認』は内容が合っているか精査することも含むためです。
ただし『確認いたしました』を使えるのは、自分が任されている仕事や、同僚・目下の相手から受け取ったものに限ります。
他の人が担当している仕事や、目上の人の仕事に対して『確認いたしました』を使うときは、何を確認したのかまで具体的にしましょう。例えば下記のように使います。
・会議室の準備状況を確認いたしました。
・資料に誤字脱字がないかを確認いたしました。
・添付の請求書を確認いたしました。
「見させていただきました」
『拝見しました』と同じ意味で『見させていただきました』を使うこともあります。『見る』に『させてもらう』の謙譲語である『させていただく』をプラスした言い回しです。
よく使われている表現ではあるものの、『拝見させていただく』と同様、許可されて行い恩恵を受けるときにしか使えません。
例えば立場がかなり上の人から展示会などに呼ばれ、中のものを見る権利を与えられたときは『見させていただきました』でも違和感はないでしょう。
しかし日常的なビジネスシーンで上司に「資料を見た」と伝えたいとき、「資料を見させていただきました」を使うのは不自然です。
「拝見」は相手の行動に対して使わない
『拝見』を使うときは、行動の主に注意する必要があります。誤った使い方と正しく言い換えるためのフレーズを押さえておきましょう。
「拝見していただく」は間違い
へりくだって相手に敬意を伝える『拝見』は謙譲語であり、自分の行動に対して使う言葉です。相手から受け取ったものを見るときには問題なく使えます。
しかし相手が見る・見たことを表すときに、「拝見していただけますか」「拝見いただきありがとうございます」などと用いるのは誤用です。
『拝見』を使ってよいのか迷うときは、見る人が自分なのか相手なのかを考えれば判断しやすいでしょう。
代わりに「ご覧になる」を使う
相手に見てもらうときには『見る』の尊敬語である『ご覧になる』を使いましょう。「他の商品もご覧になりますか」「新作はもうご覧になりましたか」という使い方が代表的です。
またメールや資料など読むものについては、『お読みになる』も使えます。例えば上司に取引先からのメールを読んだか確認したいときは、「〇〇社からのメールはお読みになりましたか」と尋ねるのが適切です。
まとめ
謙譲語の『拝見しました』は、そのままで目上の相手へ使える丁寧なフレーズです。より丁寧に見える『拝見いたしました』『拝見させていただきます』は、謙譲の意味が重なっている点に注意しましょう。
類似表現の『確認いたしました』『見させていただきました』は、使うシーンによって使い分けが必要です。
また『拝見』はそれだけでへりくだって相手を立てる言葉のため、自分が見るときにしか使えません。相手に見てもらうときには、尊敬語の『ご覧になる』を用います。
『拝見』の使い方を正しく理解し、失礼のないやり取りを目指しましょう。