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渋谷が東京随一の「焼売タウン」と化している理由

2022.05.28

焼売酒場

 宇都宮・浜松・宮崎の3都市が毎年三つ巴で消費量日本一の座を争っている餃子に比べると、シュウマイって、何かパッとしませんよね。

 料理として餃子とシュウマイは何が違うかっていうと、これが意外と難しい問題で、多くの人は、餃子は焼いて作るもの、シュウマイは蒸して作るもの、と思っているようですが、中国では焼くよりは蒸した餃子のほうがはるかにポピュラーですし、蒸すはずのシュウマイが漢字で書くと何で「焼売」なの? って話もあります(中国語では「焼」という字は、加熱するっていう程度の意味らしいですけどね)。まあ、一番正解っぽいのは、皮が分厚くて皮を味わうのが餃子、皮が薄くて餡を味わうのが焼売、ってことではないでしょうか。

 日本で先に普及したのは、焼売のほうです。焼売は、明治時代から横浜や神戸の南京町で軽い前菜として食べられていました。そんな軽い前菜を初めて看板メニューにしたのは、1899年に横浜・伊勢佐木町にオープンした『博雅亭』という中華料理店(1980年閉店)。それから29年後の1928年、横浜駅で餅や飲料を売っていた売店『崎陽軒』の社長・野並茂吉が、南京町で人気が高まっていた焼売を列車内でつまむ軽食として売り出します。『崎陽軒』の焼売が画期的だったのは、(1)女性や子供も一口で食べられるよう、サイズを小さくしたこと。(2)普通、豚肉と玉ネギだけで作られる餡に、干した貝柱を加え、冷めても旨味が残るようにしたこと。(3)「シュウマイ」では発音しにくいというので「シウマイ」と表記したこと──このイノベーティブな「シウマイ」のおかげで、崎陽軒は焼売界のトップに躍り出ます。

 が、焼売を日本全国に普及させた原動力は、何といっても学校給食でしょう。焼く・炒めるより、個体に分かれたものを並べて一気に作れる蒸し料理のほうが大量調理に向いているので、学校給食の調理場では、昔から蒸し料理が幅を利かせていました。

 そこに目をつけた冷凍食品のニチレイが、1950年代後半から、学校給食用の冷凍焼売を開発して供給。おかげで、焼売は給食にしばしば登場するようになります。ただ、ニチレイが供給した焼売は、子供たちがショートケーキ感覚で食べられるようにと、上にグリーンピースがのせられており(嘘のような本当の話です)、多くの子供はこのグリーンピースが原因で焼売を嫌いになってしまうという悲劇がありました。

 その隙を突いたのが餃子です。餃子は、第2次世界大戦後に大陸から引き揚げて来た人たちが、満州の「鍋貼児」という料理を真似て、安い羊肉をミンチにして臭み消しのためにニンニクを入れて皮で包んで鉄板で焼いたところ、そのパンチの効いた味が肉体系労働者のスタミナ源として支持され、闇市で広まったもの。つまり餃子は、戦後の、それもストリートの生まれ。1960年代半ばまで、日本の普通の家庭では、焼売が食卓にのぼることはあっても、餃子はほとんど食べられていませんでした。

 ところが、70年代を境に餃子人気が高まり、焼売を駆逐してしまったのです。したがって、町中華でも焼売を出している店は、たいてい1960年代から続く老舗です。

 長く不遇をかこった焼売が再びおかずの主役として見直されたキッカケは、2016年に味の素が発売した冷凍食品『ザ★シュウマイ』↓小栗旬がCMでマジ喰いしているコレです。何たって、袋のままレンジに入れるだけで蒸したての焼売ができるこの画期的冷凍食品、1コの大きさが崎陽軒のシウマイの1.5倍くらいあって、CMのとおり食べごたえも十分。売り上げは前年比2ケタ増で伸び続けているそうです。

『ザ★シュウマイ』

 また、『ザ★シュウマイ』の発売に先立つ2015年、駒込に、焼売をウリにした中華『野田焼売店』がオープン。店名に「焼売」をうたった店は、ここが走りでしょう。2018年にはTBSの『マツコの知らない世界』で焼売が取り上げられ(この時、『野田焼売店』も紹介されています)、ブームが加速化します。

 2019年には、『野田焼売店』が東京ガーデンテラス紀尾井町の2階に新たな本店を出店。同年、それまでも焼売を出していた『ミニヨン坂ノ上』という渋谷のビストロが、『焼売酒場 小川』としてリニューアルオープン。この頃から「焼売酒場」を名乗る、焼売で酒を飲ませる店が一気に拡大します。

「焼売酒場」が特に目立つ町は渋谷です。渋谷には昔から台湾料理『麗郷』とか、町中華『兆楽』(宇田川町交番前の、上に激安ソープの『角海老』が入ったあの店)とか、旨い焼売を食べさせる店があったのですが、コロナ禍の2021年、百軒店から道玄坂上にかけて、『渋谷半地下酒場』『KAMERA』『焼売酒場 道玄坂』と、焼売をウリにした若者向けの居酒屋が連続オープン。いずれも、蒸籠(せいろ)から立ち上る湯気がいい雰囲気を醸しており、渋谷は今、東京随一の焼売タウンになっています。

 これらニュースクールの「焼売酒場」に対し、『崎陽軒』が小型化する前のオールドスクールな焼売を出し続けているのが、1944年に日本橋で創業した『小洞天』です。この店の焼売の大きさは、味の素の『ザ★シュウマイ』のさらに1.5倍はあって、ランチの880円の定食は焼売4コだけですが、十分お腹いっぱい。このサイズの焼売もありだなぁ、と思わせてくれます。そもそも味に自信がないとあの大きさにはできないでしょう。焼売酒場の焼売も、もう少し大きくしてもいいのではないかと思います。

焼売酒場

『焼売酒場 小川』

『焼売酒場 小川』は、かつて渋谷で人気ビストロ『ミニヨン』を3店経営していたマニフィーが、2019年、青学向かいから並木橋に下りる八幡通りの坂の途中にあったビストロをリニューアルして出店した、「焼売酒場」と名乗る走りの店。店内はジャパニーズレトロ。ウリは、岩中豚を使った焼売とダッチオーブンで焼いた卵焼き。焼売は醤油と粉山椒で食べる独特のスタイルです。◆住所:渋谷区渋谷 3-1-10◆電話:03・6427・3560

『KAMERA』

『KAMERA』は、2018・19年のミシュランガイドでビブグルマンマークを獲得した三軒茶屋『ビストロリゴレ』の亀谷剛シェフと、IT企業を数多く起業させた目良慶太が組んで、昨年10月、渋谷の百軒店に出店した焼売酒場。店名は、亀谷+目良で「カメラ」。ウリはフレンチの技法を使った無添加熟成焼売。円山町のラブホ街の入り口で蒸籠から湯気を立ち上らせる店構えが、いかにもな感じです。◆住所:渋谷区道玄坂 2-20-5 ◆電話:050・3552・4065

焼売酒場焼売酒場

【秘訣】誰もが知っている料理1点に絞り、それで酒を飲ませる

取材・文/ホイチョイ・プロダクションズ

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