電動キックボードが、いろいろな意味で話題を呼んでいる。
従来型の二輪車よりも軽量で小回りが利き、細い道も難なく走ることができる電動キックボード。しかし、日本の公道でそれを走らせるのは危険ではないかという声もある。
首都圏では、既に電動キックボードシェアサービスの貸出ポートがあちこちに点在する。現状は運転免許証が必要だが、それさえあれば気軽にシェアサービスを利用することができる。
また、そう遠くないうちに大都市圏以外の地方都市でも電動キックボードを見かけることになるだろう。
ここで注意すべきは、やはり「安全性」である。
電動キックボードは練習が必要
現代人にとって、電動キックボードはまだポピュラーな乗り物ではない。
二輪車のようにシートに座る姿勢で乗るものではなく、徹頭徹尾立脚した姿勢を維持する。
これは急制動の難しさが指摘されているが、いずれにせよ今現在の人類にとってはまだ慣れた乗車姿勢ではない。電動キックボードを乗りこなすには練習が必要、ということだ。
では、どこで練習をすればいいのか?
電動キックボードシェアサービス『LUUP』は、首都圏を中心に安全講習会を開催するようになった。
これは損害保険大手東京海上ホールディングスとの共催で、電動キックボードの試乗、練習、そして交通法規について一般利用者が学ぶことを目的にしている。
今回はこの安全講習会に参加してみた。
LUUPのキックボードは「小型特殊車両」
横浜・ドックヤードガーデン。この日は曇天ではあったが、土曜日だったため多くの家族連れがここを訪れていた。
Covid-19の猛威は、徐々にではあるが確実に過ぎ去りつつある。ワクチンの接種が進んでいるためか、マスクさえ着けていれば自由に外出しても危険性は少ないという意識がどことなく見受けられる。
そんな賑やかな雰囲気の中、ドックヤードガーデンではLUUPの電動キックボードが勢いよく地面を蹴っていた。
「このイベントでは、一般利用者の方々に電動キックボード走行時の注意事項等を説明しています」
そう語るのは、LUUP政策渉外部長の池上翔氏である。
LUUPのキックボードは個人所有のそれとは別の交通ルールの下で走っている。なぜかと言えば、LUUPは経済産業省の「新事業特例」の認可を受けているからだ。
現状、電動キックボードはモーター出力によって原付一種・二種のどちらかに区分される(それに応じた速度制限も課される)。
つまりこれを公道で走行させるには、原付免許もしくは小型二輪免許が必要ということだ。
しかし、LUUPの車両は小型特殊自動車に区分されている。速度制限は15km/h。二段階右折は禁止、そしてヘルメットは任意という要件である。
なお、保険は事業者即ちLUUPが加入している。
LUUPのサービスは専用アプリに運転免許証を登録した上で、交通法規に関するテストに全問合格しなければ利用できないようになっている。
さらに電動キックボードの走行ルールは、それ自体が新しい乗り物故に極めて特殊。安全講習会には、そのあたりを広く周知する意味合いも多分に含まれているのだ。
始動とカーブが結構難しい!
今回筆者は、小学生以来の幼馴染みであり臨時助手のIくんと共にドックヤードガーデンを訪れた。
まずはIくんが電動キックボードに乗車。彼にとって、これが人生初の電動キックボードである。
まずは左足をボードに乗せ、右足で地面を蹴って右手位置にあるアクセルレバーを押す。
停車状態でアクセルレバーを操作してもモーターは作動しない仕組みだ。
この一連の動作は、文字で書くほど簡単ではない。慣れの問題と言われればそれまでだが、電動キックボード初心者のIくんはどうしてもふらついてしまう。
なお、Iくんは休日にスポーツカーを乗り回すのが趣味のカーマニアなのだが、電動キックボードはイマイチ乗りこなせない模様。
「俺、四輪は乗れるけど原付には怖くて乗れないんだよ! 澤田はバイク乗りだから、キックボードくらい簡単に乗れちまうだろ?」
Iくんにそう迫られ、筆者も電動キックボードに乗ることに。
左足をボードに乗せて脚力で数メートル走らせた瞬間、筆者はIくんの気持ちがよく分かった。
勢いをつけた状態からアクセルレバーを押す、という動作が怖い! 勢いよく飛び出したら対応できないのでは、と考えてしまうのだ。
ゆっくりゆっくりゆ〜っくりと、アクセルレバーを動かしてモーターを起動させる。ようやく両足をボードに置けるだけの自走速度が出た。
そこから最高時速15km/hを出そうとしてみるも……やっぱり怖い!
また、体重移動の要領が掴めていないためカーブに一苦労する。練習を重ねていけば始動もカーブも問題なくできるだろう、ということは察することができる。
が、いずれにせよ未経験者がぶっつけ本番で乗るものではないな……と筆者は感じてしまった。
「これ、ある程度練習しなきゃ公道で乗れないよね」
Iくんも筆者と同じ感想を持ったらしい。
保険商品は「開発中」
この安全講習会は東京海上ホールディングスとの共催であることは上述した。
今回は東京海上のスタッフにも、その場で話を伺うことができた。
「個人で所有する電動キックボード向けの傷害・損害保険に関しては、今の時点では具体的なプランが固まっていません」
保険とは、膨大なデータの集合体でもある。どれほどの頻度で事故が発生するのかを把握し、それに基づいた保険料を算出する。
しかしあまりにも事故が多ければ、保険商品自体が成立しないかもしれない。
故に「電動キックボードの安全講習会」は、保険会社にとっても大きな関心事なのだ。
そして、2年後には改正道交法の施行が待っている。最高時速20km/h以下の電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」に区分され、16歳以上であれば免許・ヘルメット不要で乗車できるという内容だ。
つまり、電動キックボードがより自転車寄りの乗り物になるということである。
それに向けた保険商品は現在、自賠責・任意共に開発中といった具合だ。このあたりで明確な答えを読者の諸兄諸姉に提示することは、今の筆者にはできかねる。
具体的な保険料を算出するには、未だデータ不足といったところだ。
安全あってこそ
が、それでも電動キックボードは確実に普及している。
個人所有の車両もシェアサービスの車両も、近いうちに「身近な乗り物」になっていくはずだ。いずれにせよ、我々は新しい交通法規を覚えなければならないようだ。
同時に、「電動キックボードの乗り方」を知っておく必要もある。繰り返すが、これは初心者がぶっつけ本番で乗れるものではまったくない。
最高時速20km/h以下どころか、現行のLUUPの車両(最高時速15km/h以下)でも慣れないうちはフラフラしてしまう。
それを免許なしで乗れるようにするのはやはり危険ではないか……という声もあるはずだが、そのあたりはシェアサービス事業者もよく理解している。
LUUPは進出先の都市で、今後も安全講習会を開くとしている。
電動キックボードは便利な乗り物だが、それは安全あってこそのものである。
【参考】
LUUP
取材・文/澤田真一