商船三井のグループ会社であるMOL TURKEY DENIZCILIK VE LOJISTIK TIC. A.Ş.(MOL Turkey=商船三井トルコ)は、トルコの船舶解撤ヤードからの中古舶用品を越境ECサイトで販売するサービスを開始した。
2022年3月末より始めたこのサービスは開始早々、アンティーク品や船舶好き、中古舶用機器などに興味を持つ各方面から問合せが増え、新たなビジネスの可能性が広がっているという。
その背景にあるものは何なのか。海運業界の事情も含め、ご紹介しよう。
客船のスクラップが増えた理由
このビジネスが始まった背景には、2019年末からの新型コロナの感染拡大がある。これにより世界中で客船の運航が止まり、運航会社はコストのかかる長期停船を避けるため、解体の決断をせざるを得なかった。
解体が決まると、船舶はインドやバングラデッシュ、パキスタン、中国などの解体ヤードに運ばれることが多く、近年はトルコの解撤量が増え2021年に解撤された船舶は112隻。世界3位の規模にまで発展した。
解体後の船舶のリサイクル・リユース率は90%
船舶の解体作業では、通常、船首部分から5~30トンほどのブロックに切断したのち、最終的に1㎡ほどの大きさにして製鉄所で鉄として再生。装備されていた機械や、食堂で使っていた食器や家具は、そのまま中古品として90%近くがリサイクル・リユースされている。
もちろん船舶の種類によりリサイクルできるものの割合は異なり、客船の場合は他の商船より多い傾向がある。ただし、構造が複雑なため、一般的な商船の解体が約6か月かかるのに対し、客船は約1年と手間がかかる傾向にある。
思い出の品の活用法
一方、リサイクル・リユースに適さないけれど、捨てる(廃棄物にする)のはもったいないものの代表が装飾品だった。その多くは解体作業のオフィスなどに飾られ、海運業に携わる人たちの思い出の品として保存されるものもあった。要は売りものにならないけれど、もったいないから飾っておこうという考えだ。
しかし、鉄道や航空機の世界では引退した機材の備品は、マニアがお金を出して買っている。もしや、船舶マニアにも同じことが言えるのではないかと考えたのが、商船三井トルコ社長の片田聡さん。
その船の歴史を紹介しながら販売すれば、行先のなかった装飾品たちが生き残ると販売サイトを立ち上げた。将来的にはインドやバングラデッシュからの出品も引受け、世界最大のプラットフォームにすることも視野に入れている。
高い反響にびっくり
反響は思いのほか高かった。まだ出品数の少ない段階で、購入はもちろん、解撤ヤードに蔵置されている船舶用機器の調達が可能かとの問合せも舞い込んだ。
この原稿執筆時点でサイトを覗くと、六分儀、ポケットコンパス、太陽カレンダー、ランプ、傾斜計、気圧計、温度計などがあり、価格は80~290USDで設定されている。
各商品をクリックすると個別情報ページが立ち上がり、船名、材料、状態、大きさなどを見ることができる。写真も複数あるので商品の把握もしやすい。
参考までに、重さ1㎏の商品を購入した場合の日本への送料の目安はUS40~50ドルほど。実際の使用はできないものがほとんどだが、部屋のインテリアとして新たな使い道は無限に広がると思われる。
世界の貿易量は時代と共に増大し、それを担う船舶の量は1990年代に2000万トン/年だったのが、2000年代には4000万トン/年。2011年には1億トン/年を越えた。近年は少し減っているものの、船舶の耐用年数から考えると、今後も解体される量が増えていくことが予想されている。
商船三井のような日本の船会社は、20年を過ぎたくらいで中古船として売却することが多いため、これまで解体に関わることは少なかった。しかし、持続可能な開発目標SDGsの観点から、船舶がその役目を終える時のことを考え、何をしていくべきなのか模索した答えのひとつが、リサイクルや廃棄物の削減にも繋がる、このECサイトの開設だったといえる。
片田氏からのコメント
最後に、ECサイトの運営など、前出、片田聡さんからのコメントをご紹介しよう。
3月30日のプレスリリースを機に、インドや中国などのリサイクル業者からの問い合わせも増え、このECサイトが役に立つ可能性を強く感じました。シップリサイクル品取引の世界最大のECプラットフォームにしたいとの思いはありましたが、本当に実現できるのではないかと思い始めました。
もちろん、このような品々のリユース促進での事業ではありますが、皆さんの生活を支える巨大な船が、解体されて、リサイクルされているという事は一般的にはあまり知られておらず、こうしたシップリサイクルの状況をこの活動を通じて、多くの皆様に知って頂くことが重要だと考えています。
また、収益が出るようなレベルになれば、トルコの海事産業の振興に役立てればと思っています。更に、販売のプラットフォームが軌道に乗れば、様々な物を販売することが可能になるため、トルコや世界の品々や、日本の素晴らしいものを販売できるようにしていきたいと考えています。
皆様からもこのECサイトの活用に関して、ご提案を頂ければとても嬉しいです
協力:商船三井/商船三井トルコ
取材・文/西内義雄