楽天NFTには未来のお宝が眠っている(楽天提供)
2022年がNFT元年になるかもしれない!
1993年のJリーグ発足当時に人気を博した「Jリーグカード」をご存じだろうか。カルビーが販売していた「Jリーグチップス」を購入するとついてくるおまけだが、そのカードがコレクターの間で人気を博し、高値で取引されるようになり、現在に至っている。
こうしたマニアにとって耳寄りな話なのが、「NFT(ノン・ファンジブル・トークン=代替不可能な固体)」だろう。NFTという単語だけ聞くと全く想像がつかないかもしれないが、Jリーグカードの売買をデジタル上で行えるシステムとイメージした方が分かりやすいかもしれない。
そもそもカードのような物理的なものは、顧客に届けるうえで輸送が必須。しかも中古流通による利益というのは得られない。だが、NFTはデジタル上のやり取りになるため、輸送費が一切、かからない。
「デジタルだとホンモノかニセモノかの見分けがつかない」という不安を抱く人もいるだろうが、NFTはデジタルデータに高度な技術を駆使した証明書が発行されるものなので、ニセモノをつかまされる心配は一切ない。転売することができるため、売った本人も権利を販売した大元の事業者にも新たなお金が入ることになるのだ。
すでに欧米では有益なこのシステムへの関心が高まっている。パリサンジェルマンのキリアン・ムバッペのデジタルNFTカードが二次流通市場で約6万5000ドル(約830万円)で落札されるような現象まで起きている。グローバルで見ると、NFT市場は約1兆3000億円という規模まで拡大。日本では「2022年がNFT元年になる」という見方もある。今、NFTを知っておくことが近未来のビジネスチャンスにもつながるのは間違いなさそうだ。
NFTの売買を手軽にした楽天が始めたサッカーの新サービス
しかしながら、これまでのNFTの売買は暗号資産(仮想通貨)などを通じて行われるケースが大半で、新たなウォレットの開設、高額な手数料が必要になっていた。だが、今年2月からNFT事業に参入した楽天は、楽天IDを持つ利用者のクレジット決済を可能とし、NFTへのハードルを大いに下げた。楽天チケットなど他のサービスと連動した特典も受けやすく、これまでNFTに全く縁のなかった一般ユーザーでも手軽にトライできるような形に仕向けたのである。
JリーグNFTは今、注目の新商品だ(楽天提供)
そのうえで、2月25日から第一弾としてULTRAMAN(円谷プロ)のプレミアムデジタルアートを販売したところ、開始数時間で完売。定価7800円の商品が2次流通で数十万円に到達し、いきなりNFTの威力を発揮した形だ。
そして4月からはJリーグにも参入。「FC東京・松木玖生の開幕戦プレーシーン、セレッソ大阪・清武弘嗣の今季開幕戦ゴールシーン、サガン鳥栖の藤原悠汰の第2節ゴールシーン」セットが好例だが、3選手の名シーンを集めたパックを6種類・各300ずつ定価4950円で売り出した。4月12~17日の申込期間に応募者が殺到。大変な反響となった。
同パックの選定に携わった楽天グループ株式会社 コミュニケーションズ&エナジーカンパニー メディア&コンテンツ事業IPマネジメント事業部の菊池辰也シニアマネージャー、この商品化の狙いを説明する。
松木玖生や鈴木唯人のプレーはお宝化確実!
「もともと”サッカー小僧”の自分にとって、プロサッカー選手のプレーはアート。その素晴らしい逸品を所有する喜びを多くの方に感じてほしいというのが、JリーグのNFTを手掛けた最初の思いです。
この2年間コロナ禍が続き、日本代表も2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア最終予選で苦しむ中、何とかサッカー界の応援をしたいし、生の感動を多くの人と共有したいという思いもありました。その一助になるようなものを届けたいと、選手選考やプレーの選定に関わったつもりです」
菊池氏の言うように、商品化された選手を見ると、2021年JリーグMVPのレアンドロ・ダミアン(川崎)、2019年MVPの仲川輝人(横浜)などそうそうたる面々が並んでいる。青森山田高校から鳴り物入りで今季開幕からスタメンに定着している松木、今年1月の日本代表候補合宿に参加した鈴木唯人(清水)ら有望な若手などは、1~2年のうちには海外移籍すると目されるだけに、Jリーグ時代のプレー映像はお宝化するのも時間の問題と言えそうだ。
加えて言うと、Jリーグは目下、DAZNが独占放映権を獲得し、放送しているため、テレビが中心だった時代のように録画できる機会が激減した。そういう意味でも、NFTを通じてオリジナルのプレー集を保有しておく価値は高まったと言っていい。30年前のJリーグカードがブームを起こしたように、近い将来、NFTを通じて入手した動画に大きな価値がつくことも大いに考えられるのだ。
「ファン・サポーターが持ちたいもの」を吟味して商品化
「『今、ファン・サポーターの方々が持ちたいものとは何か』を考えて、松木選手や鈴木選手、上田綺世選手(鹿島)らをリストに入れることになりました。とはいえ、知名度があるかないかに関わらず、本当に価値あるプレーばかりだと我々は考えています。
実は僕自身も菊池さん同様、根っからの”サッカー小僧”で、少年時代はサッカー雑誌の付録についていたフィリッポ・インザーギ(元イタリア代表)のポスターを部屋に貼っていたほど。そういう人間ですから、清武選手や仲川選手の一挙手一投足を見るだけでワクワクしますし、その感動をみなさんと共有したいと強く思っています。NFTに興味を持った方が集まる新たなコミュニティを作れたら理想的。そんな願いを込めて、取り組んでいます」と楽天グループ株式会社 コミュニケーションズ&エナジーカンパニー メディア&コンテンツ事業 IPマネジメント事業部の砂子達也氏も力を込めている。
第1弾の商品は2022年シーズン序盤戦の選手のプレー集だったが、今後は名勝負や名ゴール・名シーン・チームの歴史ものなど、バリエーションを広げ、より価値をあるラインナップを作り上げていく考えだという。ちなみに、5月下旬に第2弾の販売が予定されているとこのことだ。
「例えばテクニックにフォーカスするなら、同じ楽天グループのヴィッセル神戸のキャプテンを努めているアンドレス・イニエスタ選手のプレーに注目するのも一案でしょう。イニエスタ選手の芸術的プレーに魅了されるファンは少なくないですし、それをお宝として保有したいというニーズも高いと思います。
音楽を載せたり、アーティストとのコラボでNFTの商品価値を高めていく形も考えています。Rakuten NFTにしかない希少価値の高い商品を世に出すことで、Jリーグやサッカーへの関心を高め、人気向上につなげ、さらに二次市場での販売によって大元のJリーグに利益還元がなされるのは、非常にいい循環だと考えています」(菊池氏)
5月下旬には第2弾の販売予定!
確かにお宝商品が単に保有者自身の満足感につながるだけでなく、Jリーグ全体の利益となり、ひいては選手を取り巻く環境の向上や地域活性化、人々の楽しみにもつながるのであれば、これ以上いいことはない。NFTにはそれだけの大きな可能性があるということだ。
それを気軽に売買できるようにした楽天の取り組みは、やはり特筆すべき点。「NFT元年」とも言うべき今、こちらに目を向けることはやはり重要だ。これまで「自分がデジタル音痴だから」と消極的だった人も、サッカーという切り口を通して新たな学びを進めていくいい機会になるはず。ぜひ一度、チェックしてみてほしいものである。
取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。