直近5年間で30館以上の図書館が新規開館している。そのすべてが、図書館としての機能だけでなく、公民館、生涯学習施設などを併せ持つ「複合施設型」だ。
全国で続々と開館するきっかけを作ったのが、東京・武蔵野市の『武蔵野プレイス』の成功だ。同館は年間来館者が想定の80万人を上回る195万人を達成。建築ジャーナリスト・磯達雄氏が解説する。
「基本計画の前にプロポーザル(公募)が実施され、建築家や専門家による審査で設計担当を決めた『武蔵野プレイス』は、民間企業の介入によりカフェを常設するなどのアイデアが取り入れられ、これまでになかった快適性が高まりました」
そんな複合型図書館で注目を集めるのが、今年7月にオープンする『石川県立図書館』だ。旧館の老朽化をきっかけにリニューアル。閲覧スペースが狭く、交流の場がないという問題の解消を目指した。より開かれた図書館を目指して公募を実施し、円形劇場の連想させる開放的な空間にした。
一昨年末開館した『那須塩原市図書館「みるる」』は、地域の人によるワークショップから生まれた。過疎化を問題視していた那須塩原市は、中・高校生から子育て中の親まで幅広い層の声を集計。それを踏まえ、内部にカフェやギャラリーなどの多様な場所を作ることで若い親子の交流促進を狙った。結果、地方都市ながら利用者をリニューアル前から2割以上も増加させた。
『小牧市中央図書館』も同様にワークショップを開催して地域の声を吸い上げたという。
本があるところで人々が出会い、集まることによって地域をつくる。図書館が街の交流拠点になる未来もそう遠くないかもしれない。
円形劇場のような空間に約500席の閲覧席!
石川県立図書館
幾重にもめぐる書棚で円形劇場のような空間を形づくり、膨大な書物群に浸れる。文化交流エリアには、様々なイベントや休憩などに活用できるエントランスホールや階段広場のほか、正面のガラス扉を開放することで屋内外の広場を一体的に利用できる仕掛けもある。
[住]石川県金沢市小立野2-43-1 [開]9:00~19:00 [電]076・223・9565 [休]毎週月曜日
〈 ここがスゴい!〉デジタル工房やキッチンなどの体験施設が充実
図書館の本などで学んだ知識を実際に体験できる、キッチン付きの食文化体験スペース、3Dプリンターを備えたものづくり体験スペースなども内部に設ける。
「思いもよらない本との出会いや体験によって人生の1ページをめくることができる場所」としてこの夏誕生する。
巨大な「本棚」がワクワク感を増幅させる!
那須塩原市図書館「みるる」
JR黒磯駅から徒歩1分という好立地でグループでの利用が可能なアクティブラーニングスペースもあり、講演会や会議などを通した情報交換が可能だ。本を介した交流の場としての機能を兼ね備えている。観光地のひとつとして、那須塩原市への集客力向上に貢献も。
[住]栃木県那須塩原市本町1-1 [開]10:00~21:00、土日祝は〜18:00 [電]0287・63・9031 [休]毎週月曜日
〈 ここがスゴい!〉図書館を通る自由通路「みるるアベニュー」
駅前広場と街中を図書館内の通路でつなぐ。内部は巨大な本棚でゆるく仕切られ、図書館とカフェやギャラリーを区切らず、好きな場で読書ができる。
市民ワークショップを開催し、多様な居場所を創出
小牧市中央図書館
本施設の設計の際に市民ワークショップが繰り返され、多くの要望があったカフェスペースを導入。飲食可能で、本を手にお茶を飲みながらゆったりと過ごせる「居心地のいい滞在型の図書館」だ。段状にテラスがつながる地元の山・小牧山をほうふつとさせる外観が特徴だ。
[住]愛知県小牧市中央1-234 [開]9:00~21:00 [電]0568・73・9951 [休]毎月最終月曜日
〈 ここがスゴい!〉4層の吹き抜けを中心に異なる設備が連続する
2021年度に「建築(公共施設)・土木・景観」の部門でグッドデザイン賞を受賞。4層の吹き抜けが開架スペースを視覚的に結び、地元の風景を担う図書館となった。
取材・文/小西 麗