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【深層心理の謎】ダーウィンの進化論を否定する者ほど偏見が強い傾向あり

2022.05.11

 気持ちよさそうに温泉に浸かるサルを見れば、羨ましくて思わずひと風呂浴びたくなってくる。温泉で癒されているサルの気持ちは我が身のように共感できるが、それはやはり同じ先祖を持つ生き物だからだろうか——。

大塚駅前を歩きサルの“入浴シーン”が思い浮かぶ

 今だ信州だ——。そろそろ旅が意識されてくるということになるが、駅の通路に貼られているポスターが長野県への旅を推していた。雄大な山と緑の山道の写真に「今だ信州だ」というフレーズが記されている。

 長野県には数えるほどしか行ったことはない。バイクツーリングで訪れた以外には、たぶん小中学生時代の「移動教室」や「林間学校」などで行ったことはあるような気もするが、あまり憶えてはいない。それでも長野県や信州と聞けば山などの自然のイメージが真っ先に来る。

 某所からの帰路、JR山手線を大塚駅で降りた。もう夜8時を過ぎている。どこかで「ちょっと一杯」にしてみてもよい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 駅の南口を出る。広々とした駅前広場があり、その外側には都電荒川線の線路が延びている。今は「東京さくらトラム」と呼ばれるようにもなっているが、その線路は大塚駅の南口側から大きなカーブを描いて、JRの高架線の下にある都電の駅から北口側へと通じている。まるでUターンをしているようなカーブで、やや不可解な感じも受けるがいろんな経緯や道路事情などもあってこのような軌跡を描いているのだろう。

 通りの通行人のほぼ100パーセントはマスクをしていた。もちろん今の自分もマスクをしているのだが……。

 目下の感染症禍はまだ予断を許さないが、G.W.は近場で楽しんだという向きにも徐々に遠出が意識されてきているのかもしれない。駅構内で見たポスターは長野県の観光キャンペーンの告知であったが、長野県観光という言葉で個人的に思い浮かぶのは、雪が降る中に気持ちよさそうに温泉に浸かっているニホンザルの姿だ。あんな風に雪の中で温泉に入ってみたいものだとも思う。確か場所は長野県の地獄谷温泉だったはずだ。

 サウナはともかくとして、そういえば温泉には久しく行っていない。丸2年以上は訪れていないだろう。近場にある温泉施設はずいぶん前に営業を再開しているが、何だかゆっくり入れそうには思えなくて足が向かない。

 それでも地獄谷温泉に浸かるサルの姿を思い浮かべれば温泉、特に露天風呂に浸かる爽快さがよみがえってくる。極楽気分を味わっているであろうサルにはじゅうぶん共感できるのだが、その共感は海を越えているようで、海外の旅行好きの間ではこの地獄谷温泉のサルは「スノーモンキー」として知られた存在であることを何かの記事かニュースで見たことがある。

 温泉に入る動物にはほかにもカピバラなどがいるが、やはりカピバラよりもサルの入浴シーンのほうが感情移入できる。それはやはり生物として同じ“先祖”を持つからだろうか。

 地球上のすべての生物の起源は単細胞生物などに端を発するのだろうが、最も近い“先祖”を我々人間とサルは共有している。温泉に浸かったサルがどれほどの心地よさを感じているのか正確にはわからないものの、カピバラよりもサルの入浴シーンのほうがはるかに共感できるというものだ。

ダーウィン進化論を否定する者ほど偏見が強い傾向に?

 信号が青になり通りを進む。飲食店の営業時間に制限がなくなったこともあり、夜が更けてからの街の人出はかなり増えてきた。まだまだ気は抜けないとは思うが、夜に飲食できるようになってとにかくよかった。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ともあれ我々にはサルと同じ先祖がいるのだが、この広い世の中にはそれに異論を唱えている人々がいる。人間は“神の子”であり、ダーウィンが言うようにサルと同じ先祖から進化した存在などではないというのだ。

 最新の研究ではさまざまなグループに対する差別や偏見と、ダーウィン進化論への信念の間に有意な関係があることが報告されていて興味深い。人間はサルから進化したものではないと信じている者ほど、ある種のグループに対する差別や偏見が強いというのである。


 研究者たちは進化論への信念はその共通の祖先のために、すべての人類と人々の同一性を高める傾向があり、偏見の少ない態度につながると理論付けました。

「自分自身を動物に似ていると感じる人は、グループ外のメンバーや、汚名を着せられ、疎外された背景を持つ人々に対して、より向社会的または前向きな態度をとる傾向がある人々でもあります」

「基本的に進化論を信じることは、所属するグループに関係なく偏見が少なくなり、これらすべての代替となる説明をコントロールすることに関連しています」

「宗教を人生の重要な部分と見なすかどうかに関わらず、進化論への信念は神や特定の宗教への信念やその欠如とは関係なく、(一方で)偏見が少ないことに関係しています」

※「University of Massachusetts Amherst」より引用


 マサチューセッツ大学アマースト校の研究チームが2022年2月に「Journal of Personality and Social Psychology」で発表した研究では大規模な調査を通じて、ダーウィン進化論への不信は、アメリカの黒人、移民、LGBTQコミュニティに対する偏見、人種差別主義的態度、差別的行動の支持に関連していると結論づけている。人間はサルから進化したものではないと考える者ほど、差別主義や偏見が強い傾向にあるというのである。

 研究チームは世界各地の地域を対象とした8つの研究と、3つのオンライン調査のデータを分析してダーウィン進化論への信念と、さまざまなグループの人々に対する偏見や人種差別主義的態度、差別的行動との関係を探った。その結果、ダーウィン進化論を信じることは、所属するグループに関係なく、差別主義を低下させ偏見が少なくなることが示されたのだ。

 データ分析によって「人類の進化論への不信が、他の関連する構成要素と比較して偏見の推進要因であり、最も一貫した予測因子であることを間違いなく示しました」と論文は述べている。

 ダーウィン進化論についてはこれまで、適者生存と優生思想を肯定する“社会的ダーウィニズム”として理論化され、人種差別、偏見、同性愛嫌悪を強める“装置”であると考えられてきた歴史的経緯がある。

 しかし今回の研究ではそれとはある意味で真逆であり、人間がサルから枝分かれして進化したことを認めることは、各種の差別や偏見を弱める働きがあることが突き止められたのである。

 今のところ差別や偏見について何か考えを巡らせる気持ちはないのだが、温泉に浸かっているサルを見て気持ちよさそうだと共感でき、特にダーウィン進化論に異論がないということであれば、自分の中にある差別主義や偏見について、それほど心配はしなくてよさそうにも思える。もちろん偏見を一切持っていないのかと問われれば程度問題ということにはなるのだが…。まぁ温泉にはまだ行く気になれないにしても、近々またサウナにでも行くとしようか。

“食堂飲み”でサザエの歯応えを堪能する

 通りをさらに進む。コンビニとカフェを過ぎると、右手に延びる路地の入口に建つ「サンモール大塚商店街」のアーチに差しかかるが、今日は真っすぐ進むことにする。入りたい店がなければまた戻ってきてもいい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 いつかは寒い時期に地獄谷温泉を訪れてみたいものだが、今のところは何の目途も立たず漠然とした願望だけだ。そういえばかつて秋口に日帰りのバイクツーリングで長野県を訪れ、信州街道や富岡街道、コスモス街道とも呼ばれるエリアの国道254号、さらに大門街道(国道152号)を走って白樺湖と諏訪湖を見物したことがあった。

 その時の帰路に立ち寄った国道20号沿いの道の駅には温泉施設が併設されていて入浴したことを思い出す。源泉の温泉で、露天風呂からの景観が良かったのを憶えている。思い返せば長野県で温泉に入ったことはあったのだ。

※「白樺湖」(筆者撮影)

 わずかな滞在ではあったが長野県の思い出がよみがえってくる。しかしここは夜の大塚だ。どこかの店に入って「ちょっと一杯」やりながら何かつまむとしよう。

 通りの反対側には餃子チェーン店や洋食チェーン店などの飲食店が10店近くも並んでいそうな賑やかな区画がある。しかしこちら側の歩道にもポツポツと店があり、少し先には巣鴨で有名な食堂の看板が見えてきた。久しぶりにこの店で“食堂飲み”をしてみてもよいのだろう。

 半地下に降りる階段を降りて入店する。奥行きのある店内だ。お店の人に案内されて2人掛けのテーブル席に着いた。店内の壁には専用に作られた木製の短冊メニューが架かって並んでいて、店の奥の調理場との間を仕切る天井近くの壁には黒板が架かっており本日のおすすめ的なイレギュラーなメニューがチョークで書き記されている。また壁にも黒板が架かっていて、本日の刺身盛合せのネタとして「さざえ、たこぶつ切り、まぐろ」とあった。この盛合せでいいだろう。

 コップのお水を持ってきた店員さんに瓶ビールと刺身盛合せの単品、アジフライをお願いした。すぐに瓶ビールがやってきたのでマスクを外し、さっそくコップに注いでひと口飲む。ひとまず落ち着くことができた。

 刺身がやってくる。何度か注文したことのあるメニューだが、サザエが含まれているのはたぶん初めてだ。口に運びコリコリとしたサザエの歯応えを堪能する。確かにこういう食感だったと確認しながらゆっくり味わう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 鉄道会社的には長野県、つまり信州旅行をキャンペーンしているわけだが、確かにコロナ禍の中での旅行としては大自然に囲まれ、“密”になり難そうな山間部への旅は相応しいといえそうだ。

 次に味わうタコブツの歯応えはサザエとはまったく異なるが、これはこれでいい。ビールをちびちびやりながらマグロもじっくり味わうことにしよう。

 旅の楽しみのメインのひとつはやっぱり食だろう。長野は“海なし県”だけに海の幸を期待するのはお門違いということになるが、ツーリングで訪れた長野ではほうとうを食べたことを覚えている。ほうとうは信州というよりは甲州、つまり山梨県の名物で自分が食べたローカルチェーン店も基本的に山梨県内で展開しているのだが、例外的に諏訪インター近くにも店を構えていて、そこで豚肉ほうとうを頂いたのだった。文句なしで美味しい食べ物である。

 もちろん信州ではほかにも美味しいものはまだまだあるのだろう。次に長野県に行ける日がいつになるのかわからないが、食べてみたくなった信州名物を見つけることができれば、胃袋からの指令によって(!?)案外その日が来るのは近いのかもしれない。

文/仲田しんじ

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