友人に貸していたものを返してもらったものの、確認したら壊れていた…というケースはよくあります。
安価な本などであればまだしも、着物や電子機器などの高価なものである場合、相手に修理費用を請求したいところです。
今回は、貸し借りの目的物を壊した者の法的責任や、相手に修理費用などを請求する方法などをまとめました。
1. 「貸し借り」に関する3種類の契約
法律上、貸し借りについては「消費貸借」「賃貸借」「使用貸借」という3種類の契約が存在します。
①消費貸借
借りた物と同じ種類・品質・数量の物を返す内容の契約です。したがって借りた物は、一度処分してしまっても構いません。
お金の貸し借りに関する契約(金銭消費貸借契約、ローン契約)などが、消費貸借に該当します。
②賃貸借
有償で物を貸し借りする契約です。契約終了時には、借りた時と同じ物を返さなければなりません。
不動産の貸し借りに関する契約などが、賃貸借に該当します。
③使用貸借
無償で物を貸し借りする契約です。契約終了時には、借りた時と同じ物を返さなければなりません。
友人同士で物を貸し借りする際、対価の授受が行われない場合には、使用貸借に該当します。
2. 賃貸借・使用貸借の目的物が破損した場合の取扱い
友人同士で物を貸し借りする場合、「賃貸借」または「使用貸借」のいずれかに該当するケースが大半です。有償であれば賃貸借、無償であれば使用貸借となります。
賃貸借・使用貸借の目的物が破損した場合の取扱いに関する、民法上のルールは以下のとおりです。
2-1. 賃貸借の場合
賃貸借では、賃借人が目的物を受け取った後に損傷が生じた場合、以下の要領で原状回復義務の範囲が決まります(民法621条)。
① 通常損耗・経年変化
賃借人は原状回復義務を負いません。
② ①のほか、賃借人の責に帰することができない事由による損傷
賃借人は原状回復義務を負いません。
③ ①②以外の損傷
賃借人は原状回復義務を負います。
したがって賃貸借の場合、賃借人の責に帰すべき事由による損傷のみ、原状回復(=賃借人による修理等)の対象になります。
たとえば、賃借人のミスによって着物が破けてしまった場合や、電子機器を落とした際に壊してしまった場合の損傷などは、原状回復義務の対象です。
2-2. 使用貸借の場合
使用貸借の場合、以下の要領で原状回復義務の範囲が決まります(民法599条3項)。
① 借主の責に帰することができない事由による損傷
借主は原状回復義務を負いません。
② ①以外の損傷
借主は原状回復義務を負います。
賃貸借とは異なり、使用貸借では通常損耗および経年変化について、原状回復義務の対象から明示的に除外されてはいません。
使用貸借の対価が無償であることに伴い、通常損耗・経年変化の原状回復を借主に課すかどうかを、個々の契約解釈に委ねたものと解されています。
したがって使用貸借の場合、借主が故意または過失によって目的物を壊した場合に加えて、通常損耗および経年変化によって目的物が損傷・劣化した場合についても、貸主は借主に対して修理等を請求できる可能性があります。
3. 修理・損害賠償の請求を行う際の主な手続き
賃貸借・使用貸借の目的物の損傷について、借主が原状回復義務を負う場合、貸主は借主に対して、以下のいずれかの請求ができます。
①目的物の修理を請求する
②貸主が自分で目的物を修理したうえで、修理費用を請求する
各請求は、以下の手続きによって行うことが可能です。
3-1. 示談交渉
借主と貸主の間で直接協議を行い、原状回復の方法などを取り決めます。
トラブルを深刻化させず、迅速に解決できる可能性がある点がメリットです。
3-2. 民事調停
簡易裁判所に民事調停を申し立てることも考えられます。
調停委員が借主・貸主双方の主張を公平に聴き取り、調停手続きを通じて和解を目指します。
客観的な立場からの仲介を得て、冷静にトラブル解決に向けた話し合いができる点がメリットです。
参考:民事調停手続|裁判所
3-3. 支払督促
修理そのものではなく、修理費用の支払いを請求する場合には、簡易裁判所に支払督促を申し立てることも考えられます。
裁判所が借主に対して修理費用の支払いを督促し、一定期間が経過すると「仮執行宣言付支払督促」が発送され、貸主は強制執行を申し立てられるようになります。
借主から異議が申し立てられなければ、迅速に強制執行の手続きを取ることのできる点がメリットです。
参考:支払督促|裁判所
3-4. 訴訟(少額訴訟)
借主と貸主の主張が大きく食い違っている場合には、訴訟による解決を目指すほかないでしょう。
訴訟では、裁判所の公開法廷において、貸主側が修理費用等の請求権の存在を立証する必要があります。
なお、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に限り、「少額訴訟」の手続きを利用できます。
少額訴訟は、原則として審理が1日で完結し、かつ控訴が認められないため、迅速に結論を得られる点がメリットです。
参考:少額訴訟|裁判所
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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