2020年6月に資生堂からデビューした、グローバルスキンビューティブラド「BAUM(バウム)」。資生堂の中でもプレステージ領域に位置づけられており、メイン商材である化粧水は7,150円(税込)と高価格帯だ。
ブランド設立当初は、30代をボリュームゾーンと想定していた「BAUM」だが、リリースから2年弱を経て蓋を開けてみると、実際により反響が大きかったのは20代、しかも3割ほどは男性ユーザーだという。若い世代はコスパのいいプチプラ、経済的に余裕が出てきた30代でちょっといいものを…というのがファッションや美容では通説だったはずだが、高価格帯にも関わらず20代をひきつけている理由はどこにあるのだろうか。バウムジャパン マーケティング部 ブランドマネージャーの伊東あかねさんにお話を伺った。
左から/バウム アロマティック ルームスプレー 100mL 5,500円(税込)、バウム ハイドロ エッセンスローション 150mL 7,150円(税込)、バウム オイルコントロール エマルジョン 100mL 8,800円(税込)
「世界に通用するナチュラルブランド」として誕生した「BAUM」
「BAUM」は「樹木との共生」をテーマに掲げたスキン&マインドブランド。樹木のもつ「貯水」「成長」「環境防御」の3つの働きに着目し、年齢や性別を問わず、すこやかな肌をサポートする。全化粧品は90%以上を自然由来の素材から製造しているほか、商品パッケージに木製家具メーカー・カリモク家具とコラボレーションし、家具の製造工程で発生し木材を再生利用しているのも、大きな特徴だ。
――「BAUM」の誕生の経緯から教えてください。
伊東あかねさん(以下、敬称略):この「BAUM」のプロジェクトは2018年ごろにスタートしました。当時、弊社(資生堂)の中に「ナチュラル」というカテゴリーのブランドがあまりなかったので、「世界で通用するナチュラルブランドを作れ」という会社からのミッションが課されたのです。
どんな人たちに使っていただきたいブランドか考えたときに、若い世代の方たちの価値観がかなり変わってきていて、エシカルやサステナブルなどに消費の仕方が変わってくるだろう点を、当時からヒントのひとつと捉えていました。
そこから、持続的に繋がったり、何かに貢献する欲求を満たすような価値観を大切にしているお客様に向けたいと考えた結果、日本で継続的に使っていける資源として、樹木を選んだという背景になります。
ジャケ買いからギフト需要へ
バウムジャパン マーケティング部 ブランドマネージャー 伊東あかねさん
――価格帯からして30代以上向けのブランドかと思いきや、20代の反響が多いとか。
伊東:そうなんです。価格帯としては「BAUM」はラグジュアリーゾーンですよね。意識としては、20代・30代をしっかり取りこんでいきたいと設計してはいたのですが、実際にここまで20代が多いというのは、私たちも想定外で。もっと30代がボリュームゾーンになるだろうと思っていたんですよね。
――その理由をどう捉えていらっしゃいますか。
伊東:20代のターゲットの方たちのライフスタイルや感覚的な部分にすごくうまくはまったというのが、実際のところだと思います。最初は見た目というか“ジャケ買い”的にパッケージから入っていったのがおそらくきっかけで、その方たちのニーズに合う“保湿”という肌悩みにきちんと対応できているので、結果的にはスキンケアのど真ん中のところに20代の方が多くなったのかなと思います。
――ナチュラルブランドなので、がっつりエイジングケアをするとかではなく、保湿はしっかりできるという点と、ビジュアルのかわいさややコンセプトがしっかりはまったと。
伊東:そうですね。あと、Instagramで話題が広がったというのも、大きな要因かもしれません。一度購入していただいた方が、ギフトでまた他の誰かにプレゼントするという連鎖も非常に大きいのも、このブランドで驚いた点です。自分が使ってよかったものが、どんどんギフトとして買われていくという、20代のギフト需要が日常化しているのも強く感じました。
――ユーザーのリピートの状況はいかがでしょう。
伊東:バウム ハイドロ エッセンスローションという化粧水が一番リピート率が高いのですが、やっぱり若い世代の方は、お手入れを複雑にしたくなくて、シンプルに1本で潤うこのローションがいい、という選ばれ方をしていますね。とは、木製のパッケージを使用していますが、レフィルをカチッと取り外しができるので、ゴミを出さないというサステナブルな観点からもレフィルをお買い求めいただく方が非常に多いです。
――ユーザーの男女比率はどれくらいですか。
伊東:店頭や会員登録では性別は明確に取っていないのですが、LINEアカウントがリンクしているので、だいたいの感じでいうと、全体の3割くらいは男性かなと見ています。20代、30代前半ですね。あとは男性の場合は、女性より化粧品に対する選択肢が多くないので、一度決めていただくと、ずっと使い続けていただける傾向、あとパッケージを揃えたいという傾向を感じますね。
――今後の販売戦略はどうしていく予定ですか。
伊東:やっぱり20代・30代の方が多いので、その方たちの生活圏の中でどうブランドが露出するかということを意識していきますね。Instagramなどで、化粧品という文脈だけでなく、ライフスタイルの切り口やギフトの切り口も交えて、いろいろなメッセージを伝えていかれるような投稿の仕方や広告の回し方を工夫していきます。
――現時点でのブランドの課題はありますか?
伊東:20代・30代の方って、私たちが思っている以上にサステナブルや先のことを考えて消費されているなというのを、非常に強く感じています。なので、コミュニケーションしていく中で、ブランドが言っていることに「自己矛盾を起こさないように」というのを意識しています。
――というのは?
伊東:お客様が求めていることに誠実にブランドを成長させていきたいと考えているので、現在のようにギフト需要が高くなってくると、ラッピング用に「包装紙が欲しい」とか「箱が欲しい」という声をお客様からたくさんいただき、それにお応えしたい気持ちはあります。でも、一過性の華美な包装をしても、いずれゴミとして捨てられてしまう。なので、ゴミを出さないとか、環境を守るというようなブランドの思想を、商品と一緒に啓蒙していきながら共感していただいて、お客様と未来について一緒に考えていく機会を持っていきたいなと考えています。
コンセプトの立案から露出方法、販売方法まで、じっくりと丁寧にコミュニケ―ションを重ねた結果、想定ターゲットの中でも、少ないボリュームで考えていた20代に「刺さる」ブランドとして育ってきた「BAUM」。未来を見据えたグローバルブランドとしてリリースし、より新しい価値観や感性を持つ下の世代にヒットしたことは嬉しい誤算だろう。ここから「BAUM」のコンセプトがより上の世代にも広がっていくのか、男性の割合が増えるのか、はたまた海外ユーザーが増えるのか。一歩先の未来を見据えてスタートした「BAUM」の今後の展開も見つめていきたいところだ。
BAUM
https://www.baumjapan.com/
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取材・文/安念美和子