ドローンの国家資格化でどう変わるのか
2021年3月に航空法の一部改正を盛り込んだ法律案が政府内で閣議決定され、ドローン(無人航空機)の操縦ライセンスが国家資格化される方針が打ち出された。
これにより、いままでは第三者がいる上空で操縦者が機体を視認できない目視外飛行(レベル4)をすることは原則としてできなかったのだが、操縦ライセンス(一等資格)を取得すれば、国の認証を受けた機体を操縦する場合に限り可能になる予定だ。
国土交通省「無人航空機のレベル4の実現のための新たな制度の方向性について」より
国土交通省の関連資料:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kogatamujinki/kanminkyougi_dai15/siryou1.pdf
この国家資格制度が導入されれば、配送業務や災害救助など、さまざまな分野でのさらなる活用が期待されるのではないだろうか。ところで現状では、ドローンを飛ばす際に、どのような規制やルールなどがあるのだろうか?
現在のドローン規制
現在は、ラジコンの飛行機やヘリコプターなどと同様の扱いとなっており、それらの中でも機体本体の重量とバッテリーの重量の合計が、200g以上(※)のものが「無人航空機」と呼ばれ、航空法により飛行が規制されている場所やルールが決められている(下図参照)。また、航空局に対して場所や飛ばし方についての許可・承認が必要となる。
国土交通省「ドローンの飛行ルール」より
国土交通省の関連資料:https://www.mlit.go.jp/koku/content/001414567.pdf
ちなみに現在、重量が200g未満(※)のいわゆるトイドローンについては、今回の国家資格や航空法の規制の対象にならないのだが、「小型無人機等飛行禁止法」により、国が指定した場所での飛行は禁止されているので注意が必要だ。さらに、公園など自治体の条例で禁止されている場所などもある。
またトイドローンは、おもちゃ感覚でネットなどで手軽に購入できてしまうのだが、コントローラー(プロポ)の使用する周波数や技術適合者マークの有無によって、電波法で違法となるものも多いので気をつけたい。
さらに、ビジネスで活用される産業用ドローンの周波数は5.7GHzとなっており、これを業務で利用する場合、「第三級陸上特殊無線技士」と呼ばれる無線免許が必要となる。
※2022年6月20日の無人航空機の登録義務化により、航空法の規制対象が100g以上に引き下げられる。
ドローンの機体登録義務化
無人航空機登録ポータルサイト(国土交通省)のトップ画面
そして、上でも少し触れたとおり操縦ライセンスの国家資格制度の導入に先駆けて、2022年6月20日からドローン(無人航空機)の登録が義務化される。さらに、それにともない、それまでは航空法の規制対象が重量200g以上だったものが100g以上に引き下げられ、機体登録もそれに準ずることとなる。
この制度は、基本的に屋外を飛行させる全ての無人航空機(重量100g以上)の機体登録が義務とされ、国土交通省発行の登録記号を記したラベル等を貼り、「リモートID」機能を搭載する必要がある。(義務を怠ると、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられる)
これは、近年ドローンの活用が進む一方で急増している航空法違反事案や事故を防ぐ狙いがある。特に、空港周辺における無人航空機の飛行とみられる事案により滑走路が閉鎖され、定期便の欠航等により航空の利用者や経済活動に多大な影響が及ぶ事態が発生しているという。
■無人航空機登録ポータルサイト
https://www.mlit.go.jp/koku/drone/
ドローンの操縦ライセンス(国家資格)取得方法
現在、国土交通省が想定している操縦ライセンス制度の運用イメージが下の図のとおりだ。操縦ライセンスには、一等資格(第三者上空飛行に対応)及び二等資格に区分され、その取得には国の指定を受けた民間試験機関で直接試験する場合と、国の登録を受けた民間のドローンスクールの講習を修了して、学科・実地試験の全部又は一部を免除の上、試験を実施する方法がある。
さらに、ライセンスの有効期間は3年となっており、更新の際は登録更新講習機関が実施する講習を修了しなければならない。これは、どんどん進化するドローンの性能などに対する知識を最新のものにアップデートさせるためだと思われる。
国土交通省「レベル4飛行の実現に向けた新たな制度整備等」より
国土交通省の関連資料:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kogatamujinki/kanminkyougi_dai16/siryou1.pdf
ドローンを使った仕事はどんなものがあるのか?
年内には、操縦ライセンスが国家資格化されビジネスでの活用の幅がさらに広がるドローンなのだが、その仕事には現在どんなものがあるのかピックアップして紹介していこう。
■空撮カメラマン
ドローンの活用といえば、多くの方が思い浮かべるのが、この空撮カメラマンではないだろうか。テレビドラマや映画、CMでのシーンはもちろんのこと、音楽ライブや音楽PVに登場するドローン映像。さらに、観光や企業、不動産におけるPR動画に加え、街並や文化遺産などの資料動画、スポーツ競技やイベントの記録動画などなど、その需要はかなり幅広いものとなっている。
■測量士
ドローンの活用分野として、今後伸びることが予想されているもののひとつが測量。そのドローンを使う測量方法には、「写真測量」と「レーザー測量」の2つに大別されるが、いずれの方法も、従来の測量方法に比べると短時間で広範囲の測量ができるため、人員を削減することが可能。また、人の立ち入りが難しい場所などでも、上空から測量できるのも大きなメリット。ただし、測量士もしくは測量士補の国家資が必要。
■農薬散布
高齢化により深刻な労働力不足となっている農業に明るい希望をもたらしているのが、このドローンでの農薬散布。いままでは猛暑の中、広大な農地に農薬散布するのは大変な重労働だったが、ドローンを使えば短時間で済ませることができると依頼が急増しているとのこと。
■警備
警備会社の大手セコムが、早い時期より世界初の民間防犯用の自律型小型飛行監視ロボット「セコムドローン」のサービス提供を開始したことで話題に。ドローン導入により、人手不足の解消や警備員が犯罪に巻き込まれるリスクの軽減ができる上、搭載された高性能なカメラやセンサーにより不審者や異常を発見しやすくなるというメリットも。
このほかにも、ビルや橋などの建物の点検や気象観測、物資輸送などなどドローンの活躍の場は、まだまだたくさんある。
さて、インプレスの『ドローンビジネス調査報告書2022』によれば、2021年度の日本国内のドローンビジネスの市場規模は2308億円と推測され、2020年度の1841億円から467億円増加(前年度比25.4%増)。さらに、2022年度には前年度比34.3%増の3099億円に拡大し、その後もライセンス制度が導入されれば益々市場規模も拡大するであろう。
一方、日本トレンドリサーチの「ドローンの活用に関するアンケート」によると、ドローンの免許(国家資格)を80%以上の人が「取得したいと思わない」と答えており、その理由に「ドローンを使用するような環境にいないから」「資格を利用する場がなさそう」などをあげている。
確かに、現時点では自分の身近でドローンを活用するようなシーンを想像することは難しいかもしれない。今後の国家資格化によってドローンを活用した新たなアイデアや職種が続々生まれることを期待したい。
取材・文/土屋嘉久(ADVOX株式会社 代表)