男性更年期は性の悩みだけではない! ビジネスに支障をきたす場合も
コロナ禍による自粛、リモートワーク、ストレスで男性更年期の症状を訴える人が増えているという。
男性更年期というと、性の悩みと思われがちだが、ほとんどの人が仕事での悩みを抱えているらしい。
その症状は後編で詳しく説明するが、いくつかピックアップすると「イライラする」「当たり散らす」「些細なことですぐ腹を立てる」「緊張しやすい」「精神的に落ち着かない」「意欲が湧かない」「落ち込み」等がある。
これらの症状が仕事中に出てしまったら、ビジネスでの損失は計り知れない。仕事の成果を上げる意欲を失い、部下に当たり散らして信用を失い、そんな自分に嫌悪して生きる気力を失ってしまうことも……。
しかし、そもそも更年期とは女性特有の症状で、男性にはないものだといわれてきた。
だが、コロナの影響がなくても、日本では30歳以上の男性の約2割が何らかの更年期症状を持っている、と男性更年期のスペシャリストである国際医療福祉大学成田病院 腎泌尿器外科教授の久末伸一先生は説く。
男性更年期の症状は、うつ病にとてもよく似ていて、性機能だけでなく、心と体のつらさがハンパなく、仕事に支障をきたすほどだという。その詳しい内容を久末先生にうかがったので読者のみなさんとシェアしていきたい。
メンズヘルス専門医が解説する男性更年期の実態
調査会社の報告によると約一千万人以上が男性更年期に該当
30歳以上の男性の約2割が男性更年期の症状を持っているとは……。具体的にどれくらいの人数なのか気になります。
「調査会社の報告によると、約一千万人以上が男性更年期に該当すると考えられています。ですが、30代の方で男性更年期という概念を知っている人は、まだ2~3割程度だと思います」
この10年くらいで、男性にも更年期があるということを我々も認知してきたように思います。
「おっしゃる通りです。医学的にも認知されてきたのは、まだ20年くらい。それまでは、男性に更年期はないと考えられていました。
女性は50歳前後で卵巣の活動がストップし、女性ホルモンが完全に出なくなります。そのような劇的な変化が女性には起こる。
ところが、男性は加齢と共に男性ホルモンはゆっくり減少していきますが、生涯ゼロになることはありません。そういった劇的なことが起こらないので、更年期は女性特有なものだと考えられてきました。
じつは、男性ホルモン(アンドロゲン)には何種類かあって、主なものがテストステロンといいます。テストステロンに何もくっついていないフリーの状態を、遊離テストステロン(フリーテストステロン)と呼んでいます。
さらに、アルブミン(タンパク質の一種)とくっついているテストステロンもあります。この結合は離れやすく、細胞の中に取り込まれやすいテストステロン。
ところが、SHBG(セックス ホルモン-バインディング グロブリン:性ホルモン結合グロブリン)という大きなタンパク質とくっついたテストステロンは、結合すると離れにくいタイプ。大きいので細胞の中に入っていけないのです。
それ故に、男性ホルモンとして働けません。いくら男性ホルモンが体の中にあっても、SHBGにくっついているものばかりだと、相対的にテストステロンが少なくなります。
加齢と共にSHBGが増えることがわかってきたので、それが男性更年期の原因であると。その解明から、男性にも更年期があるという考えが広まり、研究されるようになってきたのです」
男性更年期により、3つの大きな変化が起きる
男性更年期には、どのような症状があるのでしょうか?
「男性ホルモンの低下により、3つの変化が起こります。心と体と性の問題です。
心の問題としては、ヤル気の低下、うつっぽくなる。体の問題は、疲れやすい、筋力の低下。性の問題は、朝勃ちしなくなる、性欲の低下です」
何歳くらいから症状が出てきますか?
「男性ホルモンのピークは20歳くらい。そこからだんだん下がっていきます。早い人ですと、30代前半で更年期の症状が出てくる方もいらっしゃいます。
その若さでは、まさか自分が男性更年期だなんて考えないので、大抵は心療内科を受診されます。しかし、なかなか治療がうまくいかなくて、泌尿器科の男性更年期外来を受診される方も。
ですが、男性更年期で受診される方のボリュームゾーンは50~60代です」
男性更年期のピークは50~60代ですか?
「本当のピークは70~80代です。しかし、ご高齢の男性は滅多に男性更年期の外来にいらっしゃらない。そもそも、ヤル気が出なくても、家でのんびりしていられる方が多いですから。
受診される方の多くは、50~60代の働き盛り。仕事がキツくて……という方がほとんどです。あとは、パートナーの方に引っ張られて来る方も多いです。朝起きられなかったり、仕事に行けなくなったり、様々な不調が出てくるので、パートナーの方が男性更年期なんじゃないかな、と気づく。男性本人が気づかなくても、最近調子が悪そうだとわかるんですね」
男性更年期とうつ病の見極めはできるのか?
男性更年期の症状に、うつっぽさがあるそうですが、我々がうつ病と男性更年期を見極めることはできますか?
「更年期とうつ症状はとても似ているので、見極めることはほとんどできないです。できるとしたら、採血して男性ホルモン値を調べることですね。
うつの患者さんは、女性のほうが男性の4倍多いというデータがあります。うつ病の最悪なパターンは自死。しかし、女性のほうがうつ病が多いのに、うつ病の男性のほうが自死する人は4倍多いのです。
厚生労働省の調査でも、40~50代の男性に自死が多いというデータが。ちょうど更年期の症状が出やすい年齢です。私は、男性の自死に更年期が関与していると考えています。
心療内科や精神科の医師は、自死を阻止するエキスパート。うつ病の薬は自死する気力を奪うものですが、すべてのヤル気が落ちたりします。泌尿器科の男性更年期外来は、男性ホルモンを補充してヤル気を復活させます。どちらの症状かわからないときは、同時に受診するのもいいと思います」
コロナ禍で男性更年期が増えているそうだが、具体的にどのような事例で増えたと判断されたのでしょうか?
「医学的な検証はこれからですが、私は大いに関係あると思っています。
コロナの自粛期間中は、ほとんどの患者さんが病院に来るのを控えていました。私の外来も同じで、男性更年期だけでなく、前立腺ガンの患者さん等も激減。
しかし、コロナの自粛明けに、どの患者さんがいちばんいらっしゃったかというと男性更年期の方。前立腺ガンでも前立腺肥大症でも頻尿でもなく、群を抜いて多かったのが男性更年期の患者さんだったのです。ストレスで相当つらかったんだろうな……と。ストレスは男性ホルモンを減少させる大きな要因ですから」
生まれつき男性ホルモン値が高いか否かは薬指の長さでわかる
同じ仕事量、状況下であっても、男性更年期になる人とならない人がいます。その差はなんですか?
「生まれつき男性ホルモン値の高い人は、更年期の症状が出にくい傾向にあります。ホルモンには個人差がありますが、目安となる20歳時のピーク値を推測する方法があります。
それは、人差し指より薬指が長いか否か。診察では、手のひら側から見て、指先から指の付け根までの長さを測定します。指の長さは、胎児期に母親のお腹の中で浴びたテストステロンの量によって決まるからです。
具体的に説明すると、テストステロン・シャワーを大量に浴びた場合は薬指が人差し指より長くなり、テストステロンが少なかった場合は、その逆になります。
ですから、男女で指を見せあっていただくとわかると思うのですが、男性は薬指が人差し指より長い傾向にあり、女性は薬指と人差し指が同じくらいの長さであることが多いのです。
薬指の長い人は、生来の男性ホルモン値が高く、リスクを伴う行動を好むので、経営者には薬指の長い人が多いといわれています。また、そのような人は更年期の症状が出にくい傾向にあります。
私も診察するとき、薬指と人差し指の長さを比較して、元々のテストステロンが多いかどうかを知るための参考にしています」
顔の骨格や身長からも、生来の男性ホルモン値を推測できる
「じつは、顔の骨格にも、薬指と人差し指の長さの比と同じような影響が出ているのです。
それは、アゴの幅が広がっていて、上唇の上側と眉間までの距離が短い顔型の人。いわゆる四角っぽい顔ですね。そのような人も、生まれつき男性ホルモン値が高い傾向にあるのです。
さらに、身長からも生来の男性ホルモン値が推測できます」
高身長のほうが、生まれつきの男性ホルモン値は高そうですが。
「逆です。身長が低い男性のほうが、生来の男性ホルモン値が高いといえます。
子供が成長すると背が伸びますが、大人になったときにホルモンが身長の伸びを止めるのです。その止めるホルモンとは、エストロゲンという女性ホルモン。
男性の体にも女性ホルモンが流れています。男性の場合、アロマターゼという酵素がテストステロンをエストロゲンに変換します。
女の子で生理が早く来る早熟な子は、思春期以降、あまり背が伸びません。それは、女性ホルモンが出てくるので、骨端線(こつたんせん)(※)が閉じるからです。
※)骨の末端の近くにある骨端線には軟骨細胞が存在し、これが伸びることで骨が長くなり身長が伸びる。
男の子は思春期にテストステロンがブワーっと出てくるのですが、エストロゲンに変換した女性ホルモンも増えるので、骨端線が閉じ、身長の伸びが止まります。
逆にいうと、テストステロンの分泌が少なめだと、骨端線が閉じないので身長は伸び続けて背が高くなります」
ウクライナのゼレンスキー大統領は男性更年期になりにくいタイプ!?
生来の男性ホルモン値が高いと思われる有名人って誰でしょう?
「生まれつき男性ホルモンが多い人は、メンタルが強く、挫折しても這い上がるガッツがある。テストステロンは判断力や決断力を高める作用があるので、社長になる方は男性ホルモン値が高い傾向にあります。
ソフトバンクの孫正義さんや楽天の三木谷浩史さんは、典型的な顔の骨格をなさっていますね。
ヴラジーミル・アレクサンドロヴィチ・ゼレンスキー ウクライナ大統領
また、ウクライナのゼレンスキー大統領も、生来の男性ホルモン値が高い方ではないかな、と。エラが張っているし、上唇の上側から眉間までの距離が短い顔の骨格、さらに身長は170cmだとか。外国の方にしては低いと思います。おそらく男性更年期になりにくいタイプかもしれません。
さらに、生来の男性ホルモン値が高い人は、正義感が強く、嘘をつけない性格の人が多いのです。その点でも、ゼレンスキー大統領の印象に近いかもしれませんね」
日本人男性で、身長が低い・高いの線引きは何cm?
「それは、これからの研究課題なので、現在、何cmが低い・高いという医学的目安はないのです。しかし、これはあくまでも私個人の見解ですが、身長が160cm台の男性は低いといえるかもしれません」
現代のイケメンは、顔がシュッとした面長で高身長の人が多いような……。
「彼らは、人当たりがよくて優しい性格である傾向が強いです。女性的なコミュニケーション能力が高いので、会社の人間関係も良好なのでは?
ただし、強いストレスや不規則な生活が何年も続くと、40~50代になって気分の落ち込み、ヤル気の喪失、ダルくて疲れやすいなど、仕事に支障の出る更年期症状が出やすいかもしれません。
私の外来で男性更年期の治療をしている人も、面長で高身長の人が多いのです」
続いて「対策編」では、男性更年期になりにくくなる食事・運動・睡眠などのセルフケアと、外来での治療法について紹介していこう。
久末伸一(ひさすえ・しんいち)先生
国際医療福祉大学成田病院 腎泌尿器外科教授。医学博士。札幌医科大学卒業。順天堂大学 泌尿器科准教授、千葉西総合病院 泌尿器科部長等を経て現職。前立腺摘徐、腎部分切除術、膀胱摘徐、腎盂形成のロボット支援手術資格を有し、これまでに約700件のロボット支援手術を執刀。男性性機能障害と男性更年期障害の外来診療を行っており、男性ホルモンの重要性を鑑みた治療を行っている。男性更年期に関しては多数のメディアで取り上げられ、オピニオンリーダー的な役割を担っている。
関連情報
https://naritahospital.iuhw.ac.jp/departments/renal-urological-surgery/index.html
取材・文/藤田麻弥(ウェルネス・ジャーナリスト)
雑誌やWebにて美容や健康に関する記事を執筆。美容&医療セミナーの企画・コーディネート、化粧品のマーケティングや開発のアドバイス、広告のコピーも手がける。エビデンス(科学的根拠)のある情報を伝えるべく、医学や美容の学会を頻繁に聴講。著書に『すぐわかる! 今日からできる! 美肌スキンケア』(学研プラス)がある。