ファッショントレンドには、かつて流行ったものが時を経てまた流行する、というセオリーがありますが、いまの30代以上にとっては「ついこの間」のように思い出される、2000年前後に人気だったファッションが、今「Y2Kファッション」として若者を中心に人気なのをご存じでしょうか?お腹見せの短めトップスやミニ丈のボトム、ボリュームのある靴などを取り入れているところがポイントです。
Y2Kとは、西暦2000年になる際に年号のカウンターが0になってしまうことでコンピューターが誤作動してしまうという「Y2K問題」でも使われていた言葉。ファッションにおいては、2000年前後に流行ったファッションを差しています。
今回は現在ブームとなっているY2Kファッションについて、そして今後の浸透について、ファッションジャーナリストの宮田理江さんに伺いました。
Y2Kファッションの潮流は2019年頃から登場
--今のトレンドはいつ頃からその気配はあったのでしょうか。
はっきりしたブームの始まりは断定できませんが、Y2Kファッションは2019年頃から出てきたように思います。「アルマーニ エクスチェンジ」は2020年に「Y2K」コレクションを出しています。
ファッショントレンドの流れを言うと、コロナ禍が広がった間は、ノスタルジーに浸るようなムードの装いが多く出てきました。その理由としては、不安を遠ざけたいという意識から、コロナ禍がなく、世の中に勢いがあった「よい時代」を思い出して、現実逃避したいという気持ちが働いていたと思われます。たとえば、パワフルな70年代、華やいだ90年代にかけてのファッションに注目が集まりました。もちろん、当時のままではなく、現代的にアップデートやアレンジはされています。
--なぜY2Kが選ばれたと考えられますか?
70年代のヒッピー風スタイルや80年代のバブルファッション、90年代の裏原ストリート系などがリバイバル。ファッショントレンドはおおむね「20年周期」で繰り返されると言われています。そのセオリー通りに、今回は約20年前にあたる2000年前後の「Y2K」が息を吹き返した格好です。気持ちが暗くなりがちな今だからこそ、元気をもらえるようなファッションが様々なブランドから提案されました。
ただ、コロナ禍のときは外出が減って、おうちファッション、ご近所ルックが主流に。エンターテインメントやモノ消費でも、ノスタルジーがトレンドになりました。昭和レトロなインテリアや雑貨、家電、そして音楽も。TikTokでは昭和の名曲が人気を集め、「シティポップ」が見直されています。
昭和レトロブームで「アデリアレトロ」のグラスもブームに。写真は1970年代に発売されたグラスシリーズ復刻版の脚付きデザート深型 1,980 円(税込)。ヴィレッジヴァンガードオンラインで発売中。
「20年」というのは、前の流行が忘れ去られて、新しい形で復活するのに要する時間といわれます。「はやって、飽きられて、忘れ去られて」の段階を経て、20年後に復活するわけです。Z世代にとっては生まれる前のことで新鮮に感じるのでしょう。同様にファッションに関しても20年前という、自分たちが生まれる前のスタイルは、一周回って目新しく映るようです。若い頃に着ていた母親とのつながりを感じる人もいるようです。
長い間、だぼっとしたオーバーサイズやメンズ風ジェンダーレスファッションなどを着ていたZ世代にとって、パンチの効いた華やかファッションはかなり意外感があります。SNS映えを考えても、Y2Kファッションの押し出しの強さは魅力です。キャッチーで元気で、ちょっとネタっぽいところも、Z世代に受けている理由と思われます。
--確かに、あえて昔のイラストやアニメ風のモチーフを取り入れたロゴやキャラクターのトレーナーなど、1点投入するだけで与えるインパクトは強烈です。
グローバルでオンライン展開をしているファッションブランド「SHEIN」は、Y2Kファッションなどを楽しめる、ハローキティコラボの春夏コレクション『SHEIN x Hello Kitty and Friends 22 SS Series』を2022年5月30日まで限定で展開中。「SHEIN X Hello Kitty and Friends クロップシャツ&ボディコンスカート価格:¥1,278(税込)
2022年春夏のキーワードは「ジョイフル」「健康的」
--2019年頃から始まったと思われるY2Kファッションのトレンドですが、2022年の春夏シーズンはどう変化していますか?
22年春夏は「ジョイフル(Joyful)」というキーワードがファッション界では登場。そこに含まれているのは、“自分本位でもっとおしゃれを楽しもう”という感覚です。昔は「おしゃれは我慢(して着るもの)」と言われていましたが、今は楽しくて、しかもおしゃれという「いいとこ取り」がポイント。心地よさや機能性、着回しなどを兼ね備えているのが特徴です。
「健康的」という点も今回の傾向です。Y2Kファッションでお腹を見せたり、ミニ丈で脚を見せたりしても、いやらしさはオフして、あくまで健康的なイメージの「ヘルシーセクシー」がキートーンです。スポーティーやアウトドア風のアイテムと上手にミックスするのがコツ。肌露出はしていても足元はごつめのブーツだったり、スニーカーで合わせて軽やかに見せたり。
バケットハットやキャップなどでスポーティー感やストリートテイストをミックス。古着のオーバーサイズの羽織物などでリラックス気分を添えるような着こなしも人気です。単に肌を露出するのではなく、相反するテイストをミックスするのが今風です。
--2000年当時と異なるのはどのあたりでしょうか?
当時は「アムラー」という言葉があった通り、「ミニスカート×厚底ヒールのロングブーツ」といった決まったパターンをみんなが真似るようなトレンドでした。しかし、今は自分流の着こなしを好む人が増えて、アレンジの余地やバリエーションが広がっています。例えば、ミニスカートにスニーカーでもいいし、ブーツでもいいし、ルーズソックスと合わせてもいい。他人との「かぶり」を嫌う意識も強まって、ますますミックススタイリングで独自色を出して攻め込んでいく傾向が強まっているのも、当時との違いです。
今どきY2Kファッションの見極めポイントとは
--30代以上の読者の場合、20年前のファッションは自分が着ていたり、子どもの頃みたテレビなどで強い印象を持っている人も多いと思います。Y2Kファッションのうち、同じようなアイテムでも今はここが違う!というポイントを教えてください。
●クロップド丈トップス
2000年頃はいわゆる「チビT」がはやりました。サイズが小さめの半袖Tシャツを着てお腹をチラ見せ。今は、バリエーションも増え、バンドゥ(チューブトップ)やブラトップなどのシルエットも豊富になっています。
AMATERAS Crop Top Wide Cut Tracksuit(WHT)
¥12,980(税込)
●ブーツカットデニム
2000年頃はプレミアムデニムというLA発の1本3万円代の高級ラインの美脚系ブーツカットが人気でした。今は70代風の古着っぽいシルエットが受け入れられています。
●ミニボトムス
ミニスカートもショートパンツともに人気。2000年頃は白のルーズソックスやストレッチヒールブーツで合わせていたけれど、今季はボリュームのあるブーツやスニーカーで足元に量感を出すスタイリングが支持されています。フェミニンやガーリーなイメージを強調していた当時とは違って、今はタフさや元気感、ジェンダーミックスなどを意識するように変わってきています。
ルーズソックスもカラーバリエーションが豊富になってきました。
●ヘアアクセや大ぶりピアスイヤリング
2000年頃はポップなイメージでしたが(日本でいうとシノラー系)、今はパールモチーフやゴールド、キラキラ輝く宝石のようなビジューなど、ゴージャスでエレガントなタイプも登場。ラグジュアリーブランドからも様々なデザインが提案されています。
<パール&ゴールド>
Q-Pot.ハチ ト バロック淡水パール ネックレス S・¥39,600/M・¥41,800、
ハチ ト パール ピアス ¥17,600円(1piece)、クイーンビー&バロック淡水パール ネックレス(Q-pot.髙島屋新宿店限定) ¥100,100
●ロゴデザイン
有名ブランドのロゴを目に飛び込ませるような使い方は、かつてのわかりやすいアピールポイントでした。今は、アート風や、デフォルメされたり、シックに演出したりと、こなれた印象のロゴデザインが出てきています。
<ロゴ&厚底>
UGG MAXI SLIDE LOGO ¥18,700(税込) ソールの厚さは6.3cm
<厚底>
CHARLES & KEITH アンクルストラップ プラットフォーム ウェッジ ¥6,900 (税込)
マミアン 厚底 プラットフォーム トング サンダル ¥8690(税込)
●2022年秋冬のトレンドはどうなる?最新コレクションから予想
--秋冬もこの傾向は続くのでしょうか?
Y2Kファッションは秋冬以降も勢いが続く見込みです。主なブランドにとって、Z世代は大事な「次の顧客」のため、継続的に提案を重ねていくからです。Y2Kは一過性のトレンドではありません。ファッションビジネス全体の「若返り」の取り組みとも言えるでしょう。
ビッグシルエットは変化球のような形で進化が続きます。たとえば、横幅はオーバーサイズなのに着丈がクロップド丈だったり、オーバーサイズのジャケットの中にぴたっとしたインナーを着てボリュームコントラストを出したり。
肌見せの装いに、スポーティーやアウトドア、ストリート、古着などのテイストをミックスする着こなしも盛り上がりそうです。
●異性の目線を意識せず 自分らしく・自分本位でいられるスタイルを重視
--Y2Kファッションについて、とくにZ世代が惹かれるのはどういった理由が考えられますか?
遊び盛りの年頃でありながら、コロナ禍でブレーキを掛けられ、パーティーに代表されるおめかしやお出かけのチャンスも奪われてしまいました。そんな状況下で知った、2000年当時の「ブリンブリン(Bling Bling・弾けたゴージャス感を指す形容詞)」なファッションはある意味、うらやましくも映ったことでしょう。雰囲気だけでもまねてみたいと思えたかもしれません。当時のようなグラマラスで開放的なライフスタイルを、装いを通して疑似体験してみたかったという思いもあるようです。
フューシャピンクやネオンカラーに代表される華やかな色は、気持ちを盛り上げてくれる効果があります。感染対策のため外出を控える地味めの日々は、そうしたポジティブな装いへの呼び水になった可能性があります。
UGG DISCO CROSS SLIDE ¥18700(税込)
UGG DISCO KNOT SLIDE ¥18700(税込)
2000年頃との違いは、女性の場合、かつては「男性からの目線」をいくらか意識するところがあり、ミニスカートや肌見せもセクシー感を帯びていました。しかし、今のZ世代は他者から「モテ」ようとしているのではなく、もっと「自分本位」です。ファッションで自分のマインドを上げたい、自分らしさを示したいという感じでしょうか。かつての安室さんのような、絶対的なお手本が存在せず、SNSでたくさんのおしゃれパターンを見て、自分なりに練り上げていくところも、「上から目線」を好まないZ世代の意識にマッチしているようです。
取材・文/北本祐子