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【深層心理の謎】派手な動きをするオンライン広告はむしろ逆効果になる理由

2022.05.02

 目と脳は積極的に休ませるべきなのだろう。ただでさえ情報過多の世の中である。しかしながら電車の窓から外を眺めても目に入るのは看板や屋外広告ばかりではあるのだが――。

広告について考えながら駒込の商店街を歩く

 今の我々の日常生活はあらゆる種類の広告に包囲されていることは疑問の余地もない。電車に乗っていても車内は中吊りをはじめ、ドアの上の液晶ディスプレイでも広告映像が常に流れている。

 これ見よがしの広告が多いと、案外ドアの窓に貼られた小さく控えめなステッカー広告に目が誘われたりもする。開運法の書籍の広告などをよく見かける。

 ともあれ窓の外に目を向けて街を眺めてみても、結局のところ視界に入るのは看板や屋外広告ばかりである。もはや現代の生活は広告から逃れられないということだろうか。

 某所からの帰路、JR山手線を駒込駅で下車した。夜8時を過ぎて周囲はすっかり暗い。広告に囲まれた電車を降りてなお、ホームと駅構内に設置されたさまざまな広告に包囲されている。普段は何気なく見過ごしてはいるが、ホームから見える雑居ビルの壁もまた広告スペースと化しているのだ。

 ハイボールとたこ焼きを売りにした居酒屋の派手な屋外看板にも目を奪われつつホームを進み、駅の東口改札を出てひとまず左に進むことにした。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 鉄道の駅や繁華街に広告が溢れているのは言うまでもないが、それに輪をかけて急増しているのがご存知のとおりインターネット上の広告だ。ネット上の広告は画像や映像だけでなく、あまり通信に負担をかけないアニメ広告も増えていて、ひとたびポータルサイトにアクセスすればありとあらゆる種類のネット広告を目にすることになる。

 そしてネット広告においては表現様式の多様化にとどまらず、各種のデジタルマーケティング技術も日々進化している。我々は物理的に広告に包囲されているだけでなく、個別の消費行動をかなりの程度追跡されているのである。

 先日、仕事の合間に何気なく某ショッピングサイトで腕時計のバンドをいくつか見ていたことがあったのだが、その日の夜になってそのショッピングサイトから「時計バンドをお探しですか?」というメールが届けられていて、おすすめのバンドがいつくか紹介されていたことがあった。自分が何に興味を持っているのか、まさに“筒抜け”になっていることがよくわかる出来事である。

 駅の東口から延びている「さつき通り」を進む。駅を出てすぐ左側には派手な店構えの居酒屋があり、通りの少し先には煌々とした照明で彩られたパチンコ店が構えている。この居酒屋の場所には以前は確か某立ち食いそばチェーン店があったはずだ。それにしてもこの居酒屋の派手な外観は、あの立ち食いそば店のシンプルで地味めな店構えとは対極である。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 今の心境としては賑やかな場所はあまり訪れたい気分になれない。そんなこともあって本来なら池袋まで行くところを駒込で途中下車することにしたのだ。少し歩いてどこかで軽く夕食にしてみてもよい。通りを進んでみることにしよう。

動きのある目立つオンライン広告は今や逆効果!?

 仕事の大半でパソコン画面に向き合っている身にとって、外を出歩いている時くらいは目を休めたいと思う。派手なネオンの看板や広告などもあまり目にしたくはないし、ましてや映像が流れる電光掲示板などは言わずもがなである。

 もちろん気力も体力も充実していて何か積極的に楽しみたいという気分の場合は、ある程度刺激的でインパクトのある表現にも目が誘われるのだろうが、そんな気分にもなれない時には“目障り”になってしまう。

 最新の研究でも派手で動きのある表現のアニメーション広告をユーザーが避けていることが報告されている。オンライン上で動きがあって目立つ広告はユーザーにとって“目障り”であり、避ける対象になっていたのである。


 本研究ではアイトラッキングを通じて、アニメーションと広告の双方向性が視覚的行動に与える影響を調査しました。

 ユーザーは、研究チームによってプログラムされたアプリを使用するように求められました。このアプリでは、2つの機能を交差させて得られた4種類の広告刺激が表示されました。

 媒介分析の結果は、広告の固定数の予測因子としてアニメーションとの双方向性を示しており、注意力が高まっていることを示しています。

 さらに、アニメーションに対する双方向性の悪影響が見られ、認知的作業負荷の概念と相加効果の欠如に従って、複雑すぎる広告刺激を回避する傾向が強調されました。

※「Inderscience」より引用


 イタリア、聖心カトリック大学の研究チームが2022年4月に「International Journal of Internet Marketing and Advertising」で発表した研究では、ネットユーザーは過度に刺激的で複雑なオンライン広告を避ける傾向があることを明らかにしている。これはオンラインマーケティングやオンライン広告をデザインする人々にとって重要な意味を持つ研究結果だ。

 研究チームはアイトラッキング技術を用いた実験で、ユーザーがモバイルアプリケーションでアニメーション広告をどの程度活用しているのかを検証した。

 目立つアニメーション広告は、アプリ内マーケティングツールとして一般的になっており、マーケターはユーザーが静的な広告よりもアニメーション広告に注目する可能性が高く、さらに商品購入に繋がる可能性が高いと想定している。しかしながらこの種の広告は現在かなりの飽和状態にあり、多くの魅力的なクリエイティブコンテンツやアプリケーションと競合しなければならなくなっている。

 そして研究チームの検証の結果、多くのユーザーがそうした気を散らすような過度に刺激的なコンテンツにあまり関与しなくなっている実態が示されたのである。派手で動きがあって目立つオンライン広告は、今日の飽和したオンラインマーケティングにおいて今や逆効果であることが示唆されることになったのだ。

 今回の結果を受けて研究チームは、今後は「インタースティシャル広告(interstitial advertisements)」が企業にとってますます有効になる可能性があることに触れている。インタースティシャル広告とは、ページ移動時にページとページの間に独立ページとして表示する広告のことで、自然なタイミングで表示されるのが特徴だ。

  さらに研究チームは消費者が広告を通じて直接利益を得られる報酬型の広告も今後注目されてくることに言及している。いずれにしても従来型の目立つことに主眼を置いた戦略は通用しなくなっており、新たなアプローチを採る必要に迫られていることになる。時代の気分はある種の“癒し系”や“引き算”に向かっているということになるのだろうか。

町中華の落ち着くお店で「ちょっと一杯」

 通りを進む。起点付近の派手な一角を過ぎれば、住宅街の中の商店街という落ち着いた様相になる。飲食店は多いものの薬局や不動産屋もあり、接する路地を少し進めば住宅街だ。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 十字路を越えたところに中華料理店があった。いわゆる“町中華”のお店である。店先の佇まいも実に落ち着いた感じで、かなり老舗のお店であることがひと目でわかる。入口の脇に置かれた電光看板には「ラーメン」、「五目麺」、「ギョウザ」、「各種定食」の文字が記されていて、いくつかのメニューの写真が店先に貼り出されている。こうしたお店でゆっくりと夕食を食べるのもいいだろう。入ってみよう。

 お店の人がコップに入った水と紙おしぼりを持ってやってきたのだが、そのタイミングで思わずウーロンハイを注文してしまった。店に入る前までは飲むつもりはなかったのだが、一杯くらいはいいだろう。

 ざっとメニューを見て、ウーロンハイがやって来たところで「鶏ときゅうりの豆板醤和え」と「純レバー炒」を注文する。飲みながら少しこうしたものをつまんでから、タイミングを見計らって半チャーハンで締めるという手筈にしたい。

 キュウリの和え物がやってきた。続けてレバー炒めもきた。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 和え物はさっぱりしていてお酒によく合うし、レバー炒めはしっかりと濃い味つけで食べ応えがある。ウーロンハイをちびちび啜りながらゆっくり食べることにする。

 情報量が多い広告も店構えも、自分の側に興味や受け止められるエネルギーがなければ結局のところ“目障り”になってしまうことが示唆されているわけだが、特にコロナ禍を経ている今後は“情報過多”なものであったり、“過剰演出”のようなものは避けられる傾向が強まるのかもしれない。

 コロナ禍によって否応なくそれまでのマインドセットと経営戦略が場合によっては180度方向転換を余儀なくされる事態を迎えているわけだが、今後はエネルギーや食料についても今までのような認識が通用しなくなってくるのかもしれない。実際にガソリン価格は近年にはなかったレベルの価格に上昇しているし、食品価格もすでに値上げがはじまっている。

 こうした傾向が続けば好むと好まざるとに関わらず“情報過多”や“過剰演出”は、避けられると共に衰退していくだろう。長らく続いた“飽食の時代”が終わりに近づいていそうなのだが、その次の時代に求められているのは、必要のないものは消費しないという“引き算”の消費行動だと思える。

 くれぐれも余計な一品を注文することがないようにしたものだが、今ここにいる自分にはこの後に「半チャーハン」が必要だ。それは決して過剰カロリーでもないし、ましてや惰性でもないはずである。その可能性がゼロであるとは言い切れないのだが、少なくとも今はそう信じたい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

文/仲田しんじ

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