2030年までに全車をBEV化すると宣言したボルボ。その過程の中でイメージリーダーの一翼を担うのが「XC60リチャージ・プラグインハイブリッド」だ。PHEVとして燃費効率と航続距離を高いレベルでバランスさせたこの車の、本質的な幸福感とはなんなのか?
これからのクルマに求められるプレミアム感
家具好きの義母に付き合い、スウェーデン製ビンテージ家具を探しに行ったことがある。いや、正確に言えば、国も年代も関係なく、使い勝手のいいチェストを探しに行っただけ。ところが、その途中で出会ったスウェーデンのTingstroms社のチェストに目を奪われた。チェストとシートが一体型になった、そのチェストベンチは、強烈に存在感を主張してきた。吸い寄せられるように近寄ると、1970年代のビンテージ商品とあった。
ビンテージならではの上質なローズウッド材とベンチの座面に柔らかなファブリックを使ったチェストベンチは、色使いも全体のフォルムも実に魅力的に映った。なによりも過剰な装飾を排したスッキリとしたフォルムは、日本家屋に置いても収まりがいいだろうと、イメージがどんどん広がる。英国家具も悪くはないが、個人的にはシンプルにしてクリーンでありながら、独特なエレガンスを発散する北欧家具が、やはり好みである。そしてビンテージには、時間の経過という温もりがそこに加わり、味わいが増す。見たり座ったりしているうちに、しばらくその場から動けなくなった。
残念ながら、この時は購入に至らなかったが、数日後、気になってショップに電話で確認すると、すでに人手に渡っていた。決断できなかったときの胸が詰まるような悔しさが、しばらく残った。
それにしても、なぜ北欧の物に魅力を感じるのだろうか? この疑問はボルボのステアリングを握る度に浮かんでくる。強烈な押し出し感があるわけではないし、正直、威張りが効くわけでもない。圧倒的なパフォーマンスで他車を威嚇するわけでもない。プレミアムブランドでありながらも、けっして目立つ存在ではない。だが、気が付くとボルボという存在の中で「実に平和で、穏やかな時間を過ごしている」ことに気が付くはずだ。
そしていつも「この平穏が欲しくてボルボに乗るのか」という結論に行き着くのである。自己顕示欲をさりげなくかわしてくれるクレバーさと、クリーンでエレガントな佇まい。ささくれだった部分をあまり感じさせない、そんなプレミアムブランドに進んで乗りたいと思う人たちにとっては、唯一無二の存在かもしれない。
中でも「ボルボXC60リチャージ・プラグインハイブリッドT8 AWDインスクリプション」は、そんなボルボの象徴的なポジションにある。スーパーチャージャーを備えた2Lの直列4気筒ターボエンジンに、2つのモーターを組み合わせ、さらに外部充電が可能なリチウムイオン電池を搭載したプラグインハイブリッド車だ。システム合計で450馬力オーバーを達成する電動車でありながらも、ブランドのクリーンなイメージをリードする1台。もちろん、そんな単純なロジックだけで、このクルマを定義付けようというわけではない。
さりげなさと上質さと、そしてそこはかとないエレガンス。最新であっても、そこに息づくのは北欧ならではの品格であり、この「徹頭徹尾の穏やかさ」があるからこそ、速く走ろうなどという、強迫観念も抱かなくて済む。そこには、あのビンテージ家具から得られた穏やかな空気感があった。ひょっとすると近未来のクルマに求められるのは、単なる数値的な環境性能ではなく、こうした感覚では無いだろうか。
システム合計450馬力オーバーのハイパワーモデルである事を忘れさせるような穏やかな表情。
ハデさとは異質なエレガントでクリーンなイメージを全身から感じ取れるデザイン。
XC90よりひとまわりコンパクトで日常使いには重宝するミッドサイズSUV。満充電ならモーターで40.9km走れる(WLTCモード)。
ACC(アダプティブクルーズコントロール)、パイロットアシスト(車線維持支援機能)、そして衝突回避被害軽減ブレーキ、歩行者・サイクリスト検知機能などの安全装備などは標準装備。
エアサスペンションと適度な硬さのシートによって滑らかでゆったりとした乗り心地を実現。タログ上の燃費値(WLTCモード)は12.6km/L
PM2.5 除去率95%のキャビン。後席の足元のスペースにはゆとりを感じる。後席も快適な居住性をしっかりと確保している。
フラットな床とスクエアな壁によってデッドスペースの少ない505リッターの容量を持つ荷室を実現。
センターコンソールには縦長の9インチディスプレイを装備。音声操作が可能なグーグルシステムを導入。
(価格)
9,590,000円(税込み・発売当時)
※現在、国内でT8は発売されていません。
<SPECIFICATIONS>
ボディサイズ全長×全幅×全高:4,710×1,900×1,660mm
車重:2,160kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速AT
(エンジン)
排気量:1,968cc
最高出力:233kw(318PS)/6,000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2,200~5,400rpm
(前モーター)
最高出力:46PS(34kW)/2,500rpm
最大トルク:160Nm(16.3kgm)/0~2,500rpm
(後モーター)
最高出力:87PS(65kW)/7,000rpm
最大トルク:240Nm(24.5kgm)/0~3,000rpm
問い合わせ先:ボルボ・カスタマーセンター 0120-55-8500
撮影/尾形和美
TEXT : 佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。