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無重力生活はデメリットだらけ!?未来の宇宙移住時代になると「重力」に価値が生まれる?

2022.05.06

2022年現在、我々人類の中で、宇宙に住んだことがある、宇宙で生活したことがある人は少ない。当然、宇宙で無重力体験をしたことがある人も少ない。

しかし、そう遠くない未来において、我々人類は、宇宙へと移住し生活する時代が来ることが予想されている。この宇宙への移住に際しては、当たり前のように存在していた、重力のある地球で生活してきた人間にとっては、この重力の大切さ、重要さに気付くことだろう。

つまり、この重力に想像以上の価値があるということなのだ。では、宇宙移住時代にこの重力というものはどのように扱われ、考えられるようになるのか、今回は、そのような話題について触れたいと思う。

我がまだ当事者意識のない無重力に対するデメリットとは?

2022年現在、我々人類の中で、宇宙に住んだことがある、宇宙で生活したことがある人は、限られている。それは精鋭の宇宙飛行士たちだ。頭脳明晰、的確な判断と意思決定力、問題解決力などの能力に長けた宇宙飛行士たちのお陰で、これまでに宇宙に関して多くの知見を得ることができている。そのなかで、今回は特に重力についてフォーカスしたい。宇宙という重力がないという環境下で生活することは、地球という1Gという重力環境下で、大昔から生活してきた我々人類にとって意外と不便なこと、マイナスなことが少なからずあるということだ。

例えば、無重力環境下では、骨折しやすくなると言われている。1Gの重力の地球上では、運動によって骨に荷重刺激が加わり、骨にカルシウムが蓄積される。しかし一方、無重力の宇宙では、骨への荷重負荷がかからないため、骨からカルシウムが放出され、骨粗鬆症患者の約10倍の速さで骨量が減少してしまうという。

NASAのデータによれば、足の付け根の骨の大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)の骨強度は1ヵ月に平均2.5%減少、6ヵ月間の宇宙滞在で平均15%減少するとの報告があり、帰還後に転倒すると、骨折するリスクが高まるという報告もある。余談であるが、国際宇宙ステーションISSでは、宇宙飛行士が1日2、3時間エクササイズ、筋トレをしている。それは、筋肉の減少を抑える目的だろうが、骨の強度を保つことも兼ねているのだ。

宇宙無重力環境での骨折のイメージ

また、宇宙空間で、人が長期間滞在すると発病する可能性のある目の病気がある。それは、白内障、緑内障、網膜剥離、そしてSANS(サンズ)だ。SANS(サンズ)とは、宇宙飛行士の約半数に、眼球の後ろにある脳と眼が繋がる「視神経乳頭(ししんけいにゅうとう)」という部位の神経がむくんだり、近くが見えにくくなるなどの症状が出るいう目の病気のこと。

宇宙に長期滞在した宇宙飛行士の大体8割に視力の低下が見られたが、この原因はずっと不明だった。京都大学の掛谷一弘博士が、この原因となるメカニズムを突き止め、2018年に発表。原因は、微小重力環境下で、大脳が頭蓋骨内で上の方に移動してしまうこと。大脳が上の方に移動してしまうと、眼とつながっている視神経が引っ張られてしまって、眼球後部平坦化、視神経鞘の拡大が起こっていることがわかったという。

つまり、無重力環境下で頭蓋骨内で上部へと浮き、移動し、脳とつながっている視神経が引っ張られる。引っ張られた視神経は、網膜とつながっているので、網膜剥離を誘発しやすくなる、また、硝子体(しょうしたい)も、視神経が引っ張られることで変形してしまい、硝子体(しょうしたい)を覆っている視神経から圧力がかかるので、眼球内の眼圧が上がることで視神経が障害され、目が見えづらくなる病気である緑内障が発病しやすくなると定性的に理解できる。

他にも、胆のう結石が起きやすくなるという。無重力空間で、体を動かす機会が減る。地球という重力がある環境下で使っていた筋肉は使われなくなり、代謝がうまく行われなくなり、代謝が低下して、代謝機能障害を起こしやすくなるのだ。そして、食事から摂取した糖質、脂肪、タンパク質などをうまく処理できなくなってしまい、胆のう結石は、脂質の取りすぎなどから生じる要因もある病気であるため、無重力環境下で胆のう結石が発病しやすくなるという。

このように先駆者の宇宙飛行士たちのお陰で得られた医学的な知見を数点紹介したが、他にもたくさんあるだろう。

月よりも火星、火星よりも1Gスペースコロニーのほうが価値が高い!?

我々人類が宇宙へと移住する時代になったとき、突然無重力での生活がスタートする。いままで普通に行ってきた、トイレ、料理、お風呂(シャワー)、食事、睡眠、性生活も重力がなくなったせいでガラリと変わる。むしろいままでと同じようにはいかないのだ。

そのため、できるだけ重力があるところへ移住する、そのような考えが我々人類には生まれるだろう。例えば、重力だけにフォーカスすると、おそらく月よりも火星、火星よりも1Gスペースコロニーのほうが価値が高くなることが予想される。月の重力は1/6G。火星は1/3G。火星の方が重力が大きい。もし火星へと人類が移住し火星の地上へと家を建てて住み出すとしたら、1Gスペースコロニーのマンション1室のほうが価格が高く、次に火星のお家、月のお家、そして最後は無重力のスペースコロニーだろう。つまり、未来の宇宙移住時代の不動産取引において、重力が1Gに近いほうが高価格で売買されるということだ。

高価値となる1Gスペースコロニー(画像はイメージ)

他にも、1Gルームとかいうレンタルルームのビジネスも生まれそうだ。筋トレやヨガなどのエクササイズなどを1Gルームに入って行ったり、仮眠ルーム、一時的に体をケアする時間を得られるルームなどそんなビジネスも十分考えられる。つまり、重力が、金額として価格がつき、取引されるのだ。

また、まだ人類が体験していない出産などはどのようになるのだろうか。1G環境下でのお産になるのだろうか。それとも無重力環境下でも出産は可能なのだろうか。医学的な詳細は不明だが、このあたりも重要な話の一つだろう。

他にも、スポーツ競技などはどうなるのだろうか。オリンピック、パラリンピックは?野球は?ゴルフは?それとも新しいスポーツが誕生するのだろうか。そんな心配をしてしまうのは筆者だけだろうか。

未来の宇宙移住時代には、重力に対してアニミズム的に宗教観が生まれそうだが、おそらく重力がある場所、重力がある時間は、我々人類にとって価値がある空間になることだろう。

いかがだっただろうか。いきなり宇宙移住時代へと突入する我々人類が、無重力という環境に慣れ、味方にするのにどれくらいの年月がかかるのだろうか。我々生物としての進化も必要だろう。もし、我々が無重力に医学的にも利便性においても順応することが完全にできたとしたら、いずれこの価値観は消滅するのだろうか。

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。新刊「ビジネスモデルの未来予報図51」を出版。各メディアの情報発信に力を入れている。

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