ブログやSNSでは、共感した曲の歌詞を転載して読者にシェアしたり、歌詞に関する感想を述べたりするユーザーが数多く存在します。
しかし、著作権者等の許可を得ずに歌詞を転載すると、その方法によっては著作権法違反に該当する可能性があるので注意が必要です。
今回は、歌詞をブログやSNSに無断転載することについて、著作権法との関係での問題点や、違法・適法のボーダーラインなどについてまとめました。
1. 歌詞には著作権がある|転載には原則として著作権者等の許可が必要
歌詞に「著作権」があることは、ほとんどの方がご認識のところでしょう。
歌詞は「思想または感情を創作的に表現したもの」として、著作権法上の「著作物」(同法2条1項1号)に当たり、著作権によって保護されます。
実際に歌詞を作成した人を「著作者」、著作物に関する各種の利用権を有する人を「著作権者」と言います。
著作者と著作権者は当初同一ですが、著作権は第三者に譲渡できるため(同法61条1項)、著作者と著作権者が別になっている場合もあります。
歌詞をブログやSNSに転載する際には、原則として「著作権者」の許可を得なければなりません。著作権者は、著作物である歌詞をコピーする「複製権」(同法21条)や、インターネットを通じて送信する「公衆送信権」(同法23条1項)を専有しているからです。
なお、歌詞を含めた音楽の著作権者は、著作権の管理をJASRACなどの管理団体に委託しているケースがあります。この場合、歌詞転載の許可は管理団体を通じて取得することになります。
2. 「引用」であれば著作権者の許可なく転載できる
著作権法では、著作権者の許可なく著作物を利用できる場合として、いくつかの例外を定めています。その代表例が「引用」に該当する場合です。
引用による著作物の利用が認められているのは、著作物に対する論評・批判等を可能にすることで、社会全体における表現行為の質を高めるためです。
著作権法上の「引用」に該当するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
①公表された著作物であること
②引用の必要性があること
③引用箇所とそれ以外が明瞭に区別されていること
④本文が「主」、引用部分が「従」の関係にあること
⑤引用著作物に改変が加えられていないこと
⑥出典を明記すること
歌詞の引用転載に関しては、投稿者の見解等を述べる過程で補足的に歌詞が引用されていて、かつ歌詞部分よりも見解部分の分量が相当程度上回っていることが求められるでしょう(②、④)。
また歌詞の表記方法として、鍵括弧・引用符・イタリック体などを用いてその他の部分と区別すること(③)、改変せずにそのまま掲載すること(⑤)、曲名・作詞者名・作曲者名などによって出典を明記すること(⑥)が必要となります。
3. 歌詞の1フレーズだけであれば、転載に著作権者の許可は不要?
気に入った1フレーズだけなど、曲全体ではなく短い一部分だけの転載であれば、著作権者の許可は一切不要という見解も見られますが、著作権法の解釈として、このような見解は不正確と考えられます。
たとえ1フレーズだけであっても、著作物性を持つ歌詞の一部であることに変わりはありません。そのフレーズだけを見ればありきたりと思われる表現でも、その曲の歌詞全体の中で文脈が与えられているため、著作物としての創作性がないと判断するのは早計です。
また、歌詞全体が著作物であるのに、恣意的に切り取った一部分は著作物でなくなるとするのは、かなり無理のある解釈と思われます。
したがって、歌詞の1フレーズであっても、歌詞全体と同様に著作権によって保護されることを前提に、転載の可否を考える必要があります。結局のところ、歌詞の1フレーズを著作権者の許可なくブログやSNSに転載してよいかどうかは、前述の著作権法上の「引用」の要件を満たすかどうかで判断されることになるでしょう。
4. 無断転載された歌詞を再投稿(リツイートなど)することは違法?
SNSサービスでは、他人の投稿を再投稿(Twitterのリツイート、Instagramのリグラムなど)できる機能が一般的に備えられています。
無断転載された歌詞をSNS上で再投稿する行為は、具体的な状況次第で、著作権法違反の問題を生じる可能性があるので要注意です。
再投稿に関する裁判例として、Twitter上のリツイート機能を通じて、無断転載された画像の再投稿が行われた際、画像中の氏名表示が自動的にトリミング(一部切除)されたことが問題になった事案があります。
本事案では、再投稿者による複製権侵害・公衆送信権侵害は否定されました(知財高裁平成30年4月25日判決)。
その一方で、氏名表示をトリミングした行為につき、著作者の「氏名表示権」(著作権法19条1項)に対する侵害が認定されています(最高裁令和2年7月21日判決)。
氏名表示のトリミングは、Twitterのシステム上で自動的に行われるものであり、再投稿者にトリミングを行う意図はなかったものと考えられます。
本事案では、たとえ自動的なものであっても、再投稿によって転載する著作物の改変が発生する場合には、著作者人格権等の侵害に当たり得ることを示した点が注目されます。
本事案のように、無断転載された他人の著作物をSNS上で再投稿すると、著作権法違反に関するトラブルに巻き込まれてしまう可能性が否定できません。
歌詞の無断転載についても、SNS上で見かけた場合には、再投稿などを控えることが賢明でしょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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