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大阪の3歳児死亡事故で生じた「自転車3人乗りの母親叩き」と「ズレた論点」

2022.04.26

みなさんこんにちは。元少年院教官のVtuber『犯罪学教室のかなえ先生』と申します。多く犯罪者と呼ばれる人と関わってきた経験から、普段は社会や人間の解像度を上げるための「事件解説」をYouTubeで行なっています。

4月11日の朝、大阪府東大阪市の国道で母子3人乗りの電動自転車が走行中に転倒し、3歳の男の子が走行中のトラックにはねられて死亡するという事故が発生しました。

幼い命が失われた、大変胸の痛む事故です。

しかし、この事故を深く掘り下げてみると、「子育て世代の自転車の利用に関する安全な利用環境が整っていない」という現実が、最悪な形で露わになった事故だということがわかります。

この事故から具体的にどのような課題が見えてくるのか。

また、どうすればこのような事故を防ぐことができるのか。

今回はこの事故を元に、日本の抱える課題に迫ろうと思います。

現時点でわかっていることから言えること

まず、今回の事故について、現在わかっている事実をまとめてみます。

①自転車は電動自転車。
運転手は、子どもを幼稚園に送り届ける途中だったお母さん。
②電動自転車の前の座席に今回被害に遭った男の子(3歳)が、後ろの座席にお兄ちゃん(5歳)が、それぞれ座っている状態で事故が起きた(3人乗りの状態)
③安全装具(ヘルメットや安全ベルト等)を装着していたかは不明(一部報道では装着していなかったとも)
④現場となった国道は幅約3mの片側1車線の狭い道路で、歩道もない。
⑤現場となった国道は自動車の通行量が非常に多く、大型車の往来も頻繁。

ひとまずこれくらいでしょうか。

まず、①②について考えます。

成人女性(20代後半から30代)の平均体重が約53kg。

3歳と5歳の男の子の平均体重がそれぞれ約14kg、約18kgほど。

また、子供乗せ付き電動自転車の平均重量がおよそ30kgとされています。

これらの数値を単純に足して考えると、当時お母さんは総重量100kgを超える乗り物を運転していたことになります。総重量が増えれば、アシストがあったにしても、当然運転操作の不安定さも増すでしょう。

また、運転中に子どもがずっと大人しく座っていられるとも限りません。

さらに、路面の凹凸やわずかな段差、車道を走行時に身体の横を通り抜ける車両の存在も想像すると、ハンドル操作にはかなりの神経を使いそうですね。

続いて、法律的にこのような3人乗りがどうなのか確認してみましょう。

まず原則として、運転者以外を自転車に乗車させる行為(二人乗り等)は、法律で禁止されている違法な行為です。

しかし、例外的に違法とならない場合もあり、今回事故が発生した大阪府の「大阪道路交通規則」によると、未就学児を幼児用座席に乗車させる場合などには、例外的に運転者以外の幼児を乗車させることができるとされています。

そのため、3歳の息子さんを前に、5歳の息子さんを後ろに、それぞれ乗せて自転車を運転する姿だけを見て、すぐに「3人乗りだから違法だ!」と判断することはできないのです。

大阪府警H P『自転車の幼児用座席に乗車させる者の年齢制限について』より画像引用

また③について、道路交通法第63条第10項では、保護者は13歳未満の児童や幼児を自転車に乗車させるときにヘルメットを着用させるように求めています。あくまで努力義務ですが、法律も安全のためにヘルメット着用は強く要請しているのです。

ここで、これまで整理した①②③の内容と現場の状況④⑤を重ねてみると、

「3人乗りの状態で狭い道路を走るな」
「安全装具は正しく装着していない母親が悪い」
「車通りの少ない安全な道を走るべき。車で送迎できなかったのか」

などのお母さんを責める言葉が聞こえてきそうです。

実際、今回の事件が報道された後、似たような書き込みを数多く見かけました。

しかし、もう一歩踏み込んで考えてみてください。

今回は子どもを幼稚園に送り届ける際の事故だったわけですが、

もしも——

「幼稚園が自動車での送迎を禁止していたら……」

「事故現場となった国道を利用しないといけない事情があったら……」

例えば、近隣住民から苦情対策や生活道路の混雑回避、幼稚園に駐車場がない等の理由から、一律で車送迎を禁止している幼稚園だった場合はどうでしょうか。

この場合、子どもと一緒に歩いて登園できる距離に住んでいる人なら特に大きな問題になりませんが、そうでない場合に否は応なしに「自転車送迎」を選択せざる得ない状況になってしまうことは十分に考えられます。特に運転が苦手な人にとって、子どもの自転車送迎が大きな精神的苦痛を伴う日課になっているかもしれません。

また、子どもの安全のために車通りの少ない道を選択して迂回する方法も、自衛の手段としては大変良いものですが、その日の天候や子どもの機嫌、幼稚園の場所によっては時間のかかる迂回の選択ができないことも当然考えられるでしょう。

さて、今度は目線を「自転車を巡る問題」に移してみます。

そもそも、法律上「軽車両」に位置づけられた上で原則車道を走行しなければならない自転車が、安全に車道を走行することができる環境が整っていない点にも、問題があるとも言えそうです。実際、公道において自転車は非常に肩身の狭い思いをすることが多いです。

車道を走れば、自動車に煙たがられ。

歩道を走れば、歩行者に煙たがられ。

自転車利用が増え、自転車専用道路や車道外側線(歩道のある車道に引かれている白線)の整備を求める声は大きくなっていますが、あまり進んでいないのが現状です。

今回の事故が起きた国道も、大型自動車の往来が頻繁な割には道路幅が狭い上に歩道も設置されていませんでした。しかし、子どもを幼稚園に送り届けるために、自分の体の横を自動車がビュンビュン通り抜ける危険な道路を利用せざるを得ない状況に陥っている人は、今回の事故で息子さんを亡くされたお母さんだけではないはずです。
 
つまり、今回の事故は条件さえ揃えば、「誰もが当事者になる可能性があった事故」だったということです。では、この視点を共有した上で、「どうすれば子どもの安全を守ることができるのか」を考えてみましょう。

まずは自衛を。しかしそれだけでは問題は変わらない。

さて、今回のような悲劇を防ぐためには何ができるか。

もちろん、「自転車利用者が安心安全に利用できる道路環境の整備」や「車送迎やバス送迎が可能な幼稚園や保育園を増やすこと」は、最終的に目指すべき未来でしょう。

しかし、これらを達成するためには、多くの時間とお金がかかってしまいます。

そのため、まず今日からできることとしては、自分や子どもの命を守ることを最優先して以下のことを意識づけする必要があるように思います。

*もちろん自動車側も最大限配慮の行き届いた運転をするべきですが、自転車と自動車の事故で大きな被害に遭うのは前者であることが多いため、今回は自転車を運転する側ができることを中心に述べていきます。

①交通法規を遵守する。
②危険な道は極力回避する。
③13歳未満の子どもにはヘルメットを着用させる。
その他、安全装具を正しく装着する。
 
今、この3つの自衛策を見て「当たり前のことじゃん!」と思う人もいるかもしれません。しかし、これらは意外と朝の忙しい時間だと、ついついおざなりになってしまうことが多いポイントです。

特に、これから大型連休がスタートし、その後の長期休暇など、子どもだけによる移動の機会も増えていく時期です。命を守るために正しい乗り方を習慣づけた上で、行政等に常に命の危険に晒されている状況を訴えて、道路環境や送迎の負担などの問題を1つずつ改善させる方法しかないように思います。

おそらく読者さまの中には「もっと〇〇という方法がある」といった意見が出ると思いますし、個別の事情によって最適な対応が異なる場合もあるかと思います。

個人的には、そういった声も含めて、ぜひ表に出して欲しいと思っています。あまり知られていませんが、「行政相談」という形で直接要望を伝えることもできます。

『危険について正しく知り、それを回避する手段を正しく実践する』

これは、当たり前のようで難しい、事件事故の被害者にならないための第一歩です。

「子どもの命を守るために大人たちに何ができるか」を考えるきっかけにしていただければと思います。

文/犯罪学教室のかなえ先生
2020年9月にデビューした、元少年院教官のVtuber。 登録者2.22万人(2022年3月末時点)。親しみやすい関西弁と幅広い学術領域を横断した事件解説が持ち味。特に、多くの犯罪者と関わってきた本人の目線から語られる事件解説は、その背景にある人間の弱さや社会問題への理解度が深まると定評がある。
YouTubeチャンネルはこちら

イラスト/©︎ぎんじろ

参考資料
国民健康・栄養調査 (2018年)
『身長・体重の平均値及び標準偏差 – 年齢階級、身長・体重別、人数、平均値、標準偏差 – 男性・女性、1歳以上〔体重は妊婦除外〕』

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