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もしも酒に酔った勢いで他人を殴ってしまったら…犯罪の責任はどこまで問われる?

2022.04.28

最近はコロナ禍で飲み会が開催される頻度が減っていますが、以前は街中で酒に酔った人がフラフラ歩いているのもよく見る光景でした。

酒に酔った状態では、自分の行動をコントロールすることが難しくなります。自覚のないままに他人を殴ってしまったものの、酔いがさめた段階では全然覚えていないというケースもあるようです。

こうした場合にも、犯罪の責任を問われる可能性があるので注意しなければなりません。

今回は酒酔い中の暴行について、どのような犯罪が成立し得るのかを法的な観点からまとめました。

1. 酒酔い状態は「心神喪失」または「心神耗弱」?

酒に酔った状態であろうと、他人を殴ったら犯罪が成立するのは当然に思えますが、刑法の「心神喪失」および「心神耗弱」の規定については検討しておく必要があります。

心神喪失:責任能力が欠如している状態
心神耗弱:責任能力は存在するものの、著しく限定されている状態

刑法上、心神喪失者の行為は罰しないとされています(刑法39条1項)。また、心神耗弱者の行為については、刑が必ず減軽されることになっています(同条2項)。

酒に酔った状態は、一時的であるとはいえ、心神喪失または心神耗弱に該当する可能性があります。

しかし結論としては、飲酒によって心神喪失または心神耗弱に陥った場合には、上記の刑の免除・減軽の適用対象外になると解されています。

自ら進んで酒酔い状態に陥ったにもかかわらず、その後の行為の結果について刑事責任を減免することは妥当でないからです。このような考え方は、「原因において自由な行為」と呼ばれています。

したがって、酒酔い状態で引き起こした犯罪については、心神喪失・心神耗弱による刑の減免は認められないという前提の下、具体的にどの犯罪が成立するかを検討することになります。

2. 酒酔い中に暴行した場合、犯罪の責任を問われるのか?

酒酔い中の暴行については、過失犯である「過失傷害罪」「過失致死罪」などに加えて、故意犯である「暴行罪」「傷害罪」「傷害致死罪」「殺人罪」などの成否が問題となります。

2-1. 少なくとも過失犯は成立し得る|過失傷害罪・過失致死罪など

酒酔い中に他人を殴ってけがをさせたり、死亡させたりした場合、少なくとも過失犯である「過失傷害罪」(刑法209条)や「過失致死罪」(刑法210条)は成立すると考えられます。

飲酒によって酒酔い状態に陥り、自分をコントロールできなくなったことについて「過失」が認められるからです。

しかし、過失傷害罪の法定刑は「30万円以下の罰金または科料」、過失致死罪の法定刑は「50万円以下の罰金」ときわめて軽くなっています。また、被害者がケガをしていない場合には、暴行に関する過失犯処罰規定がないため、犯罪が成立しません。

したがって、過失犯よりも重い刑罰を科すことができる、故意犯の成否が重要なポイントになります。

2-2. 故意犯は成立するのか?|暴行罪・傷害罪・傷害致死罪・殺人罪など

酒酔い中の暴行について、故意犯である「暴行罪」(刑法208条)、「傷害罪」(刑法204条)、「傷害致死罪」(刑法205条)、「殺人罪」(刑法199条)などが成立するかどうかは、犯罪の故意が発生したタイミングによって結論が分かれます。

①責任能力を欠くに至る前から犯罪の故意があった場合

酒に酔って責任能力を欠くに至る前から「相手を殴ってやろう」という意図があった場合、「原因において自由な行為」の考え方により、酒酔い中の暴行につき故意犯が成立すると解されます。

意図した犯罪を自らの行為によって実現した点で、通常の故意犯と同様の非難が可能だからです。

②責任能力を欠くに至る前には犯罪の故意がなかった場合

酒に酔って責任能力を欠くに至る前の段階では「相手を殴ってやろう」という意図がなかった場合、故意犯は成立しないと考えられます。

犯人が暴行等を意図したタイミングはなく、犯人の意図が犯罪結果として実現したとは言えないからです。

なお、犯人が酒に酔っていたとしても、判断能力の低下が責任能力を欠く程度に至っていない場合には、酒酔い中の暴行について故意犯が成立すると考えられます。

3. 上司などに無理やり飲まされた場合、犯罪は不成立となるか?

酒に酔ったこと自体について、本人に過失がないと評価されるケースも理論的にはあり得ます。

例えば、上司などに無理やり酒を飲まされて責任能力を欠くに至り、その後他人に暴行を加えてしまった場合が挙げられます。この場合、本人の意図に反して酒酔い状態となったことを理由に、犯罪についての過失が否定される可能性もあります。

ただし、酒の勧めを断る余地が多少なりともあった場合には、少なくとも過失犯の責任を負うことは免れないでしょう。

過失が否定されるのは、周りに押さえつけられて無理やり酒を飲まされた場合や、「酒を飲まなければ降格させる」といった脅迫を受けた場合など、きわめて例外的なケースに限られるものと思われます。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
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