この春、Appleは、iMac Pro(販売期間:2017年12月〜2021年3月)以来、久々の新ラインアップとなるMac Studioを発表した。実質的に、ディスプレイ分離型に改めたiMac Proの後継機ともいえるMac Studioは、現時点で純正半導体Apple Siliconの最高峰に位置するM1 MaxとM1 Ultraの搭載モデルがあり、暫定的にハイエンドのMac Proをも凌ぐ性能を発揮する。ここでは、同時に発表されたインテリジェントな高品位ディスプレイであるStudio Displayとの組み合わせで試用したインプレッションと共に、この製品が仕事や趣味に与えるインパクトや価値について考えてみる。
リモートワーク時代のパワーハウス
Appleといえば、iPhoneやiPad、MacBook Air/Proといったモバイル系の製品が社会に浸透しているが、新型コロナウィルスによって、自宅でのリモートワークや、会社と自宅での仕事を組み合わせるハイブリッドワークが増えてきた今、改めてデスクトップMacにも力を入れ始めている。
純正半導体であるApple Siliconのパフォーマンスの高さと消費電力の少なさは、すでによく知られているが、筐体サイズや冷却システムに余裕のあるデスクトップMacの強みを活かし、特に性能面を重視して開発されたのが、新たにラインアップに加わったMac Studioだ。iMacとMac Proの中間モデルという位置付けで、iMacよりも広い画面と高いパフォーマンスを求める層をターゲットとしている。
Mac Studioの幅と奥行きはともに19.7cmで、この数字はMac miniと等しい。高さは9.5cmとやや厚みがあり、上半分は冷却システムによって占められているが、高性能なデスクトップコンピュータとしては十分にコンパクトだといえる。
前面にUSB-Cポートx2基とSDXCカードスロットを持つMac Studio(M1 Maxモデル)と、27インチサイズで高機能なカメラやスピーカーシステムを内蔵したApple Studio Display。同じMac StudioでもM1 Ultraモデルでは、前面ポートがThunderbolt 4x4基となる。
その核となるのは、純正M1チップ中で上位に位置するM1 MaxとM1 Ultraであり、標準構成の仕様と価格は、以下のようなものだ。
Mac Studio (M1 Maxモデル)
10コアCPU
24コアGPU
16コアNeural Engine
32GBユニファイドメモリ
512GB SSDストレージ¹
前面:USB-Cポート x 2、SDXCカードスロット x 1
背面:Thunderbolt 4ポート x 4、USB-Aポート x 2、HDMIポート x 1、10Gb Ethernetポート x 1、3.5mmヘッドフォンジャック x 1
249,800円(税込)
Mac Studio (M1 Ultraモデル)
20コアCPU
48コアGPU
32コアNeural Engine
64GBユニファイドメモリ
1TB SSDストレージ¹
前面:Thunderbolt 4ポート x 2、SDXCカードスロット x 1
背面:Thunderbolt 4ポート x 4、USB-Aポート x 2、HDMIポート x 1、10Gb Ethernetポート x 1、3.5mmヘッドフォンジャック x 1
499,800円(税込)
M1 Ultraは、M1 Maxを2個繋げた構造を持ち、それが仕様の差にも現れている。また、性能的にもUltraはMaxの2倍のパフォーマンスを発揮する。
M1 MaxとM1 Ultra、それぞれの搭載モデルでは、価格的にも約2倍の開きがある。3Dアニメーションや4K解像度の映像編集などではM1 Ultra搭載モデルが圧倒的に有利だが、一般的なグラフィックデザインやHD解像度の動画編集などであればM1 Maxモデルでも十分以上の処理能力を持っているので、自分のニーズを見極めて選ぶことが重要だ。
ちなみに、モバイル製品では極力ポート類を減らしてきたAppleだが、M1シリーズのチップを搭載するMacでは、現実のニーズに合わせて増やす方向にあり、Mac Studioでも外付けハブの必要性を感じないほど充実している。
高い性能を低い環境負荷で実現
筆者は普段、M1チップを搭載した13インチのMacBook Proを使っている。そこで、今回試用したM1 Maxを搭載するMac Studio(ただし、メモリは64GBと標準仕様の倍)と、簡単な性能比較をしてみた。
まず行ったのは、iMovieで約1時間25分の動画に対して、音声と映像の両方に処理を加えるというもの。音声に対しては、バックグラウンドノイズを50%減少させ、映像についてはフィルムのような粒状感を加えるフィルターをかけた状態で書き出しを行った。
その結果、M1のMacBook Proでは約15分かかったのに対し、M1 MaxのMac Studioでは9分ほどで完了した。
iMovieを使い、約1時間25分の動画に対して、音声のバックグラウンドノイズを減らす処理と、フィルムのような粒状感を加えるフォルムグレインフィルタを適用して書き出しを行ったところ、M1 MaxのMac Studioは、M1のMacBook Proの3/5の時間で処理を終えた。
次に、グラフィックツールのPixelmator Proを使い、1280×853ピクセルの桜の写真イメージを、縦横25倍に拡大し、機械学習による超解像処理を行った。こちらは、M1のMacBook Proでは6.62秒かかるところ、M1 MaxのMac Studioでは3.81秒で完了した。
Pixelmator Proで、280×853ピクセルのイメージを縦横25倍に拡大する超解像処理では、やはりM1 MaxのMac Studioが、M1のMacBook Proの約3/5の時間で終了した。
M1搭載のMacBook Proも意外と健闘した印象だが、処理内容によって差が一層開くものと思われ、複雑な作業を行う頻度が高いユーザーほど、この積み重ねが大きな意味を持ってくる。M1 Ultra搭載の上位機種は、さらにこの倍のパフォーマンスを発揮できるわけで、その恩恵はかなりのものとなる。
そのうえで、Mac Studioは高度な冷却システムを備えているため、元々、性能に対して発熱が少ないM1シリーズチップの特性と相まって、高負荷の状態でもほとんどファンの動作音がせず、筐体が熱くなることもなかった。
Macとのコンビで最高の機能が引き出せるApple Studio Display
一方で、27インチで5K解像度(5,120 x 2,880ピクセル)を持つApple Studio Displayは、単に高精細なディスプレイというだけでなく、iPhoneと同じiOSによる制御機構を内蔵し、リモート会議などで常にユーザーが中央に来るように自動でフレーミングしてくれるセンターフレーム機能付きの12メガピクセル超広角カメラや、広がりのある音像を実現する空間オーディオ対応の6スピーカーシステムを備えている。そのサウンドは、専用のオーディオシステムが要らないと思えるほどで、部屋に余計なものを置きたくないという人にもおすすめできる。
仕様的には、600ニトの高輝度、広色域(sRGBの持つ色空間を内包し、さらにsRGBより35%大きい色域をカバーするP3規格)、周辺光の状態に合わせて最適な色合いで表示を行うTrueToneテクノロジーをサポートしている。さらに、スクリーン表面に微細な凹凸加工を施して外光を拡散し、写り込みを最小限に抑えるNano-textureグラスのオプション設定(+43,000円)も用意されている。
スクリーンショットのように見えるが、これは、Studio Displayの画面を直接iPhoneで撮影したもの。直射日光が降り注ぐガラス窓を背にして撮影しているのだが、光の反射や周囲の写り込みがほとんどないことがわかる。
Apple純正のハイエンドディスプレイであるPro Display XDR(32インチ、6K、582,780円〜)との比較では、サイズや解像度の違いを傍に置くとしても、ダイナミックレンジや輝度(XDRは、ピーク輝度1,600ニト)の違いがある。つまり、Studio Displayは製品名に”Pro”を冠していないことからもわかるように、厳密にはプロ向けではないものの、普段使いからクリエイティブユースまでをカバーするディスプレイとして高いレベルを目指した製品といえる。
ちなみに、Studio Displayは、Thunderbolt 3規格以上のUSB-C端子を持つコンピュータと接続でき、Macの場合にはざっくり2016年のMacBook Pro以降でmacOS Monterey 12.3以降をインストールしたモデル、iPadでは11インチiPad Pro、第3世代以降の12.9インチiPad Pro、および第5世代iPad Airをサポートしている。
端子規格が合えばWindowsマシンにも接続は可能だが、その場合には12メガピクセルのWebカムは利用できてもセンターフレーム機能は使えず、空間オーディオ再生もサポートされない。また、iOSで動いているStudio Displayは、システムアップデートによって機能を修正・付加できる仕組みだが、それも接続されたMac経由で行われるため、今後ともWindowsからは利用できない可能性が高い。
Studio DisplayはAppleのエコシステム内で使うことが第一に考えられており、サードパーティのディスプレイにはないインテリジェンスを備えることで、ユーザーを純正環境に囲い込むための戦略的な製品なのである。
予算に合えばコストを超えるパフォーマンスを発揮
iMac Studio(とStudio Displayの組み合わせ)は、絶対的な価格としては安くはないものの、負荷の高い作業を抱えるユーザーにとってストレスを感じさせないパフォーマンスを発揮するという意味で、決して高い買い物ではない。
たとえば、間接的な前身モデルといえるiMac Proの場合、最小構成のモデルで約56万円と、Mac Studio+Studio Displayの最小構成価格である449,600円(249,800円+199,800円)よりも高価だった。にもかかわらず、転職サイト「ビスリーチ」などを運営する株式会社ビズリーチでは、発売後ほどなくして約300名いる開発チームの全員に、iMac Proを貸与することを決定したというエピソードがある。
その理由は、それまで利用していたMacBook Proと比較して、アプリのビルド時間を1/4に短縮できたことだった。他社との差別化戦略として優れたUI/UXを持つ高機能サービスを提供している同社にとって、エンジニアの負担を減らして開発効率を高めることが競争力アップにつながると確信したことが、そうした判断につながったという。
同社では、アプリ開発のグローバルスタンダードを「Linuxサーバー+macOS」と位置付けており、エンジニアには最高の環境を提供すべきとの企業姿勢を持っているが、さらに段違いのパフォーマンスを持つMac Studioの場合にも、それと同様の判断をくだす企業が他にも数多く出てきそうだ。
また、同じような環境をハイエンドのWIndowsマシンで構築した場合、数百台が同時にフル稼働すると排熱やファンの騒音も相当なものになるが、iMac Proは性能の割には静音性が高く、その意味からもエンジニアに好まれた。リモートワーク環境でも、自宅などでファンのノイズはかなり気になるはずであり、高い性能は欲しいが集中力を途切れさせたくないというユーザーにもMac Studioは大いにアピールするはずだ。
製品情報:
https://www.apple.com/jp/mac-studio/
https://www.apple.com/jp/studio-display/
取材・文/大谷和利