■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、iPhone SE(第3世代)の価格について話し合っていきます。
2タイプの「1円」で売られるiPhone
房野氏:出たばかりの「iPhone SE(第3世代)」が〝一括1円〟で売られている量販店があって驚きましたが、ほかのiPhoneもかなり割引されていますね。
石野氏:「iPhone 13 mini」や「iPhone 12 mini」が〝実質1円〟で売られているところがある。すごく悩むというか、僕だったら13 miniの1円を選ぶな(笑)
石川氏:でも、13 miniや12 miniはキャリアの購入補助プログラムを利用しないと、1円にならないでしょ。
石野氏:そうそう、あれは2年間のレンタルなんですけど……
石川氏:あれが混在しているのが、総務省、許せないなと。わかりにくいじゃないですか。どちらも1円で売られているんだったら、スッキリ1円で買いたいのに、やれ「MNP割引2万2000円とお店の独自割引を付けて1円です」っていうパターンと、「いやいや、その2つの割引を付けて、さらには端末購入補助プログラムを適用して、2年後に端末を返してもらうと1円ですよ」みたいなパターンの2つがあるので。
石野氏:でも、その差がなかったら、iPhone SEは売れないですよね。
石川氏:ああいう仕組みが混在しているのが、わかりにくさにつながっているんですよ。スッキリさせた方がいいんじゃないかな。
法林氏:2019年の電気通信事業の改正で、割引は2万2000円に制限したんだけど、結局、1年半くらい経ってみると……。キャリアさんは色々努力するよね。売らなきゃいけないし、アップルさんも販売台数を稼げないから、安く売ることを許してしまっている。本当はブランド価値を毀損しないよう安売りは許さないはずなんだけど。少なくともMacはそうしてきたんだけど、iPhoneはそれでも売りたい理由があるということなんでしょう。数がさばけていないのは事実としてある。
だから、誰が悪いのかとなると、最終的には、総務省が手を入れたのが悪かったし、それに対してキャリアが「いやいや、そうじゃなくてこうしたいんです」と、きちんと議論できないのも悪かった。いまだに「お上の仰せのままに」みたいな感じになっている。それが直らない限り、この構造は変わらないでしょう。
石野氏:でも、5万円ぐらい割引すれば、スマホって結構売れるんだなってことが再確認できた。iPhoneは売れていますし、ドコモのオンラインショップで「Xperia 1 II」が元値から5万円から6万円引いたような価格になったら、アクセスが殺到してすぐに在庫がなくなった。
法林氏:一瞬にしてなくなったよね。
石野氏:だから、0円とは言わないまでも 5、6万円値引きすると、ハイエンドのスマホでも結構、買う人は多いんだろうなと。昔の「一家4人でMNPすると、iPhoneがタダでもらえて、プラス30万円の現金キャッシュバック!」みたいな時に比べれば、5万円の方が全然マシというか。「この程度の割引でお店に行列するんだ」っていう気がしたので(笑)。市場の活性化と5Gの普及のために、もうちょっと割引を増やしてもいいんじゃないかな。2万円じゃなくて5万円とか……総務省の検討会では、最初割引は3万円までだったのに、謎の「もう一声」で2万円になっちゃったので。
石川氏:根拠がなかった。
石野氏:そうそう。一定の根拠で最初に3万円が提案されて、もうひと頑張りで2万円になった。それだったら、もうひと頑張りで、逆に5万円くらい割引増やしてもいいんじゃないかなって気がします(笑)
「端末単体では売ってもらえない」問題
法林氏:そもそも本来、これからは制限をやめることを考えないといけない。「どうやって売ってもいいよ」ってことを目指すのが筋。ただし、現状を鑑みて、今のように割引上限を変更する方法もある。まあ、両方あると思います。「一切、割引禁止」……でもそれって、自由主義経済から考えると極めてまずいこと。
石川氏:割引が禁止になったら「BALMUDA Phone」はどうなっちゃうんですか。
法林氏:もうすぐ、在庫分をさばけるでしょ?
石川氏:えー、そうですか?
法林氏:バルミューダは別に大丈夫でしょ。
石川氏:ソフトバンクが……
法林氏:それはソフトバンクがOKしちゃったから(笑)。BALMUDA Phoneのことは別にして、本当に値引きして売ることをフルオープンにしちゃうのか、値引き完全禁止にするのか、どちらか。今の複雑怪奇な割引を、特に端末販売に関してはやめないといけない。
それと、今、0円、1円販売の中で問題としてクローズアップされているのが、「端末だけ買いたい」という人に対して販売しないこと。家電量販店を中心に、たくさん事例があるので、これをどうするかという問題がある。在庫を分けて、「この端末はMNP分ですから」と言って「売れません」となる。それもお店の論理としては理解できる。みんながみんな、端末だけ買われていったら困るので。MNPしたい人が買い換えられなくなるし。
石野氏:それで「ダメ、単体では売りません」と言ってしまうと、店舗の独自割引が契約に紐づく割引と見なされちゃうから、本当はアウトなんですよね。行政指導がそのうち来るんじゃないかな。
房野氏:来ますよね。
石川氏:総務省のワーキンググループですでに問題になっていますよ。本当は在庫がいっぱいあるんだけど、「MNP対応のものはあるけど、単体売りのものはないです」という言い方をしているのが問題視されている。ただ、あれも、単体売りで買って、転売する人がいっぱいいるんだそうです。反社会的勢力が大量に買って、それを転売して儲けているんじゃないかという話になっているんです。単体販売じゃなくて、契約に紐付けさせれば、契約に対して1台しか売れないので健全化する。であれば、契約に紐付くのもアリなんじゃないかなと。
法林氏:契約する際には本人確認するわけだしね。1人で持てる回線数も限界があるし。
まあ、やっぱり良くないのは、元をたどると、やっぱり総務省がいろんなことコントロールしようとしたのがダメで、かつ、その議論で導き出した答えとルールが、極めてずさんだった。穴だらけだから、結局、みんながそこを突いてきた。何を守っているのか、何のためのルールなのかが全然分かっていない。
端末は全キャリアの周波数に対応すべき?
法林氏:挙げ句の果てに、今度は端末の対応周波数について議論するんでしょ。あれはもっと早めに潰しに……いや、メディアとしてみんな声を挙げていかないといけないですね。
房野氏:端末の周波数対応について、軽く説明してもらえますか?
石川氏:Android端末は、キャリアによって周波数対応が限られている。キャリアを乗り換えた時に、端末をそのまま使おうとすると、乗り換え先のキャリアの周波数に対応していない場合があって、それはよろしくないから、全ての周波数に対応させましょうという話になっている。
房野氏:それは大変ですね。
石川氏:例えばソフトバンク向けとして作られる端末が、ドコモの周波数帯にも対応しなきゃいけないのかと。そのコストは誰が負担するのかという話。
石野氏:ただ、この件は有識者会議の議題に挙がっただけで、うやむやになりそうな気がする。だって「じゃあ、なぜそんな電波を割り当てたんですか?」という話になるし、「そのコストって何のコストですか?」といったら技適ですよね。「技適は誰が運営しているんですか?」といった話になって、「それって総務省じゃん」ということになってくる。なんか、うやむやにしそうな気がする。「頑張って対応しましょう」ぐらいの感じで、強制はできない気がします。端末メーカーがどの周波数に対応するかは、総務省があれこれ指示を出せる立場ではないので。
法林氏:一例を挙げると、ドコモに割り当てられた5Gのバンド(周波数帯域)「n79」は、グローバルのトレンドから少しズレていて、サポートしていない機種が多い。もし、このバンドを全端末が対応するということになると、話が複雑になる。ドコモは今、中国系メーカーの端末は、NTTグループの方針で基本的に扱っていないけど、XiaomiやOPPO、仮にファーウェイが戻ってきたとして、彼らが「ドコモの日本国内のバンド(周波数帯域)に端末を対応させたい」と言ってきた際に、ドコモはその接続試験を受けるのかという問題がある。ドコモが扱わないと言っている端末に対して、「なぜそのテストに通らないといけないの」みたいな話になってしまう。
石野氏:Google Pixelは対応していないですね。
石川氏:Pixelがドコモで扱われていないのは、それが理由。Googleがn79に対応する気がないから、ドコモとしても扱えないんだと思います。そう考えると「iPhoneを買っておけ」っていう(笑)。
法林氏:それは嫌だ(笑)
石野氏:総務省のワーキンググループは、メーカーの反応が返ってきたらすごく荒れそうな気がする。
法林氏:メーカーがそれくらい言えるかどうかだね。サムスンはドコモとKDDIの2社に納入していて、ソフトバンクには納入していないけど、「ソフトバンクはサムスンの端末を売らないのに周波数は対応するの?」みたいな話になってしまう。
石野氏:うーん。
法林氏:結局、ドコモとauのユーザーが間接的にはコストを負担することになる。「端末価格、5000円上がりますけど、よろしいですか?」って言われたら、「ふざけんな!」って話になるじゃないですか。そこはやっぱり手を入れちゃいけない。
房野氏:単純な考え方だと「でもiPhoneは全キャリアに対応してるじゃないですか?」って言いそうな気がするんです。
法林氏:アップルが販売する台数の桁が全然違う。ほかのメーカーは無理だと思います。iPhoneはものすごく高い部品を使っているはず。
石野氏:全キャリアに納入していて、そういう設計の下で端末が作られているので。
石川氏:iPhone SE(第3世代)で、まさか日本専用モデルが出るとはね。本当は、総務省がグローバルに合った周波数帯をちゃんと割り当てていれば、こんなことにならなかったし、もっといろんな国からスマートフォンが入ってきやすくなったかもしれない。
法林氏:1990年代の終わり、3Gを規格化する時に「各国間で周波数を共通化しましょう」と言われ始めた。もう四半世紀やっていることなんですよ。だったらもう、その間にやりくりをしているべきだった。ましてキャリアは努力して、上りと下りがグローバルと逆だった周波数を直して合わせたりもしている。割り当てが簡単に変えられないのは理解できるけど、でもやっぱり、国民の共有財産である電波ということを考えると、総務省の施策にもっとみんなが評価をしていかないといけない。まぁ「お上の言うことには従わなくてはいけない」そうなので……
石野氏:あとは技適ですよね。例えば、ドコモとauで型番が違うGalaxyだけど、ハードウエアは同じ、みたいな時に、今は型番が違うと1つずつ技適を取らなくてはいけない。ハードウエアが同じだったら1つと見なすとか、そういう省庁側の工夫が必要だと思います。「コストが高い」「はい、そうですか」ではなくて、場合によっては一括で申請できるようにするとか、そうしたことをやった上で、どこまで変わるかを見てから、じゃないかなっていう気がしますけどね。
石川氏:総務省での議論は、キャリア端末に対して言っているんですよ。「キャリア端末は、周波数帯にしっかり対応しなさいよ」ということになっていて、裏を読むと、SIMフリー端末をキャリアが調達する分には文句を言わないという可能性はあるのかなぁと。
法林氏:「キャリア用の端末は基本的に減らす方向にしてね」ということかもしれないね。SIMフリー端末を調達して、それにキャリアのロゴのシールでも何でも貼って売っていいよって感じかな。
石川氏:SIMフリー端末を調達してオンラインショップで売っている分にはいいということで、そこが抜け穴になる可能性はあるかなという気がします。例えば、サムスンがSIMフリー端末として1つのモデルだけ申請したものを、各キャリアが調達するというパターンであれば、うまくすり抜けられるような気がするし、「キャリアが端末を売るな」的な議論もあるじゃないですか。それに対する1つの答えにもなるかもしれないと思っています。
……続く!
次回は、楽天シンフォニーについて会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/房野麻子