インターネット上には、一般の方が考案したものも含めて、料理のレシピが多数投稿されています。しかし中には、SNSでの反響を得る目的などで、他人のレシピを自分のものとして投稿している方もいるようです。
他人のレシピを「盗む」行為は、倫理的に「ずるい」ように思われますが、法的には問題があるのでしょうか?著作権などの知的財産権が問題になりそうですが、実際にレシピを盗んだ人の責任を追及することできるのでしょうか?
今回は、他人のレシピを「盗む」行為についての法的な問題点、著作権等の知的財産権の観点からまとめました。
1. レシピに著作権はあるのか?
料理のレシピの中には、工夫の凝らされたオリジナリティに溢れるものが見られます。しかし法的には、レシピそのものは著作物ではなく、著作権によっては保護されないと解されています。
1-1. レシピ自体は著作物ではない
著作物として認められるためには、「思想または感情を創作的に表現したもの」であることが必要です(著作権法2条1項1号)。この要件は「創作性」と呼ばれます。
この点、レシピは料理の手順に関するアイデア(=思想)そのものであって、創作的な表現過程は含まれていないと解するのが、裁判例に見られる一貫した立場です。
1-2. 「レシピ本」「レシピ動画」などは著作物に当たる
レシピ自体は著作物でないとしても、「レシピ本」「レシピ動画」などは著作物に該当し、著作権によって保護されます。
例えばレシピ本の場合、レシピ上の注意点に関する説明が記載されていたり、調理場面の写真が掲載されていたりします。レシピ動画の場合、実際に料理を作っている場面の映像が含まれているでしょう。
レシピ本やレシピ動画に見られる上記の描写は、まさにアイデア(思想)であるレシピを創作的に表現したものです。したがって、レシピそのものとは異なり、レシピ本やレシピ動画は著作物に該当すると考えられます。
2. 他人のレシピを自分のものとして投稿した場合、法的な問題点は?
他人が考えたレシピを、あたかも自分が考えたかのようにSNSなどへ投稿する行為は、倫理的に問題があるように思えますが、法的にはすべて違法というわけではありません。ただし、事情によっては違法となることもあります。
レシピを「盗む」行為についてどのような法的問題が生じ得るのか、主要な論点をいくつかピックアップしてみましょう。
2-1. レシピの掲載自体は著作権侵害に当たらない
前述のとおり、レシピそのものは著作物に当たりません。
したがって、純粋にレシピだけを転載する場合には、考案者の承諾がなくとも著作権侵害に該当せず、原則として適法となります。
2-2. 料理等の写真や動画を勝手に転載したら著作権侵害
レシピそのものとは異なり、レシピを用いて作られた料理や、料理を作る過程の写真や動画は著作物に該当します。
よって、レシピと併せてこれらの写真や動画を無断転載した場合、著作権侵害の責任を問われることになります。
なお、レシピに従って自分で料理を作り、その場面や完成した料理を撮影した写真や動画を掲載することは、原則として問題ありません。
2-3. 料理名が商標登録されている場合がある
レシピによって作られる料理の名称等は、商標登録されている可能性もあります。
料理名等が商標登録されている場合、登録によって指定された商品・サービスについて、登録商標を使用する権利は商標権者が専有します(商標法25条)。
したがって、登録商標である料理名を冠したレシピを勝手に商品化・サービス化した場合には、商標権侵害の責任を問われてしまいます。
2-4. 料理の盛り付けなどが意匠登録されている場合がある
料理の盛り付けなど、見た目(デザイン)にオリジナリティがあって美感を起こさせるものである場合、意匠登録が認められることがあります。
料理のデザインが意匠登録されている場合、業としてそのデザインが撮影された画像・動画を配信するなどの「実施」を行う権利は、意匠権者が専有します(意匠法23条、2条2項3号)。
したがって、たとえレシピに従って自分で料理を作ったとしても、意匠登録された料理のデザインが表れた写真や動画をSNS等へ掲載した場合、意匠権侵害の責任を問われる可能性があります。
ただし、意匠権侵害が成立するのは、意匠の実施行為が「業として」行われた場合に限られます。例えば、事業とは全く関係ないプライベートのSNSアカウントに、自ら作った料理の画像や動画を投稿した場合には、意匠権侵害が問題となることはありません。
2-5. 店のレシピを無断で流出させたら不正競争防止法違反
インターネット上に掲載されているレシピとは異なり、例えばアルバイト先の飲食店などで用いられている秘伝のレシピなどは、不正競争防止法上の「営業秘密」(同法2条6項)に当たる可能性が高いです。
不正の利益を得る目的で、またはレシピを保有する飲食店などに損害を加える目的で、営業秘密に当たるレシピを無断流出させた場合には、不正競争防止法違反の責任を問われることがあります。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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