ここ数年、本来なら捨てられる運命のもので作品を作り出すアーティストたちが注目を浴びている。こうした〝廃材アート〟が、現代美術の1ジャンルとして市民権を獲得しつつあるのには、どんな背景があるのだろう?
「美術史を紐解くと〝もともとあった何かを使って作品を生み出す〟という手法は、100年以上前から用いられています。20世紀初頭にフランスの美術家、マルセル・デュシャンが発表した《泉》という作品が代表的です。男性用小便器を用いた表現は、現代アートの概念の元となったといわれています」
そう話すのは、アートテラー・とに〜さん。吉本興業で芸人として活動する傍ら、趣味で始めたアートブログが話題となり美術界に足を踏み入れた。今では独自の切り口で美術の世界を楽しく、わかりやすく紹介するほか、美術館での講演やアートツアーの企画運営など多方面で活躍。そんな彼は、ここにきて廃材を活用したアーティストが高く評価される理由について、こう分析する。
「SDGsが社会テーマとなっている昨今、ゴミや廃材といったものに、大きなメッセージ性が生まれていることが要因でしょう。アーティストたちが、表現を通して社会問題に警鐘を鳴らそうとする時に、そういった素材に目を留めるのは必然のことともいえます」
また、無用なものに新しい価値を生み出す行為が、日本人特有の〝もったいない精神〟に響き、広く共感されやすい理由だとも。
「アートは現代を映す鏡」と語るとに〜さん。アーティストたちがこの先テーマとする社会問題とは!? 現代アーティストたちの今後から、目が離せない。
電子ゴミ→アート
ガーナのスラム街を救う美術家
《I’m coming evangelist》
小豆島でビーチクリーニングを行なった際に収集したシーグラスやマイクロプラスチックを使用。島に住む妖精をイメージしている。
《真実の湖Ⅱ》
右端に『スーパーファミコン』のコントローラーを確認できる。日本製品がガーナで廃棄されていることに衝撃を覚えるー。
《Ms.Princess》
ガーナで出会った少女をモチーフにした立体作品。電子ゴミとオイルペイントで仕上げた。高さは150cm。
〈とに〜’s EYE〉今年10月に、上野の森美術館で彼の展覧会が開催予定。美術館で行なわれるのは、美術界が彼の実力を認めたということなのです。
長坂真護さん
1984年生まれ。サステイナブル・キャピタリズムを合言葉にガーナに先進国が投棄した電子機器のゴミを再利用してアートを制作。その売り上げで現地の人々にガスマスクを提供、学校や美術館を設立するなどして、還元している。
電子機器を燃やしながら生きるスラム街の人々に、1000個以上のガスマスクを提供した。
ダンボール→アート
〝新たな再生〟がコンセプト
《自己愛》
社会的役割からの解放をコンセプトに、孤独を愛するオランウータンを象徴的に捉えた。
《音象》
足の裏で音を聴き取るという象の習性をテーマに、その音の広がりを表現した作品。
〈とに〜’s EYE〉〝ダンボールだけ〟を使うという点に、アーティストとしての一貫性を感じます。動物のリアリティーは圧巻。
玉田多紀さん
1983年生まれ。多摩美術大学在学中、油画科を専攻する中で、画面に絵の具以外の素材を貼り付ける作風を模索。強度と柔軟性に富んだダンボールの可能性にひらめきを得る。
ダンボールのみを足し引きしながら成形する。
金属廃材→アート
不用品を用いて愛らしい動物を制作
《いのちの木》
大阪メトロの廃車車両の部品を用いたパブリックアート。大阪・梅田の地下街に設置。
〈とに〜’s EYE〉新作を見せてもらうたび、使っている素材すべてに対して、「どこで拾ったか」「誰からもらったか」を把握している点に驚きます。
富田菜摘さん
1986年生まれ。高校3年の時に、当時興味があったウミイグアナを、大自然と対極にある都市の廃材で作製したのがスタート。以後、金属廃材や古紙を使用して作品を発表し続ける。
「廃材が持つ物語性が魅力」だという富田さん。
取材・文/坂本祥子