
マンションのベランダや庭などから隣室を覗き込む行為は、近隣トラブルの原因になりかねません。単に隣人を不快にさせるだけでなく、状況によっては犯罪が成立し得る行為であることに注意が必要です。
今回は、マンションの隣室を覗く行為について、成立し得る犯罪の内容や法定刑などをまとめました。
1. マンションで隣室を覗く行為に成立し得る犯罪
マンションの隣室を覗き込む行為については、軽犯罪法違反のほか、行為態様によっては住居侵入罪やストーカー規制法違反が成立する可能性があります。
1-1. 軽犯罪法違反
軽犯罪法1条23号では、正当な理由なく、他人の住居を覗き見る行為を禁止しています。
軽犯罪法違反の法定刑は、「拘留または科料」です。
上記の軽犯罪法による覗き行為の規制は、わいせつ目的の覗き行為を禁止するために設けられています。
住居のほか、浴場・更衣場・便所や、その他人が通常衣服をつけないでいるような場所の覗き行為が、軽犯罪法による禁止・処罰の対象です。
1-2. 住居侵入罪
隣室のベランダや庭などに侵入したうえで覗き行為をした場合、住居侵入罪(刑法130条)が成立する可能性があります。住居侵入罪の法定刑は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」であり、軽犯罪法違反よりもかなり重い法定刑が設定されています。
マンションの場合、ベランダや庭は共用部分に当たりますが、「住居」の一部と解されるため、侵入した場合には住居侵入罪が成立します。
なお、住居侵入罪が成立するのは、身体全体が隣室のベランダや庭に侵入した場合に限りません。例えばベランダの手すりから身を乗り出して、身体の一部を侵入させた場合などにも、住居侵入罪が成立する余地があります。
1-3. ストーカー規制法違反
覗き行為が「つきまとい」「待ち伏せ」「見張り」「うろつき」などと評価される場合には、「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(ストーカー規制法)によって規制される「つきまとい等」に該当する可能性があります(同法2条1項)。
つきまとい等に当たる覗きをして、相手方に不安を覚えさせる行為は、ストーカー規制法違反です(同法3条)。
さらに、同一の者に対して違法なつきまとい等を繰り返した場合には「ストーカー行為」に該当し(同法2条4項)、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されます(同法18条)。
ストーカー行為をする者に対しては、都道府県公安委員会がストーカー行為の禁止等を命ずる場合があります(同法5条1項)。禁止命令等に違反してさらにストーカー行為をした者には、より重い「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」が科されます(同法19条)。
1-4. 迷惑防止条例違反が成立する可能性は低い
各都道府県が制定する迷惑防止条例でも、「覗き」や「盗撮」に関する禁止・処罰の規定が設けられています。ただし、マンションの隣室を覗く行為については、迷惑防止条例違反が成立する可能性は低いと考えられます。
迷惑防止条例による規制内容は、地域によって異なります。
例えば東京都迷惑防止条例では、盗撮行為を禁止・処罰する規定がありますが(同条例5条1項2号)、単純な「覗き」行為を禁止・処罰する規定は設けられていません。
これに対して、福岡県迷惑行為防止条例では、公衆利用が可能な場所において、衣服の全部または一部を着けない状態にある人を覗き見る行為が禁止されており(同条例6条3項)、違反者には「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます(同条例11条2項)。
しかし、上記処罰の対象には、マンションの居室内を覗く行為は含まれていません。
おおむね全国共通で、マンションの居室内を覗く行為については、迷惑防止条例の規制対象外となっています。したがって、迷惑防止条例違反が問題になる可能性は低いと考えられます。
2. マンション隣人による覗き行為に悩んだ場合の相談先
マンション隣人による覗き行為は、プライバシーを侵害する違法行為です。前述のとおり、軽犯罪法違反をはじめとした犯罪が成立し得るほか、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償の対象になる可能性もあります。
覗きの犯人につき、犯罪としての処罰を求めたい場合には、警察に相談しましょう。その際、覗きが行われていることの証拠が必要となるため、防犯カメラ等による撮影を試みることが考えられます。
また、不法行為に基づく損害賠償を請求したい場合には、弁護士に相談することが考えられます。お近くの弁護士事務所に直接連絡するか、弁護士会や法テラスを通じて相談してみることをお勧めいたします。
覗き被害に遭うと、ストレスと不快感の日々が続いてしまいます。隣人などによる覗きに気づいた場合には、お早めに警察や弁護士などへご相談ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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