賃貸マンションや中古分譲マンションなどに引っ越した場合、しばらく前居住者宛の配達物が届くことがあります。
住所変更等が漏れなく行われていれば、いずれ配達は止まるでしょう。しかし、前居住者の手続き漏れによって、延々と前居住者宛の配達物が届く事態もあり得るところです。
前居住者宛の配達物が届いた場合、勝手に捨ててしまうと犯罪に問われる可能性があるので注意が必要です。郵便法の規定などを踏まえて、適切な方法で対応してください。
今回は、引っ越した家に前居住者宛の配達物が届いた場合の対処法・注意点についてまとめました。
1. 引っ越した家に届いた前居住者宛の配達物、捨ててもいい?
前居住者宛の配達物を勝手に捨ててしまうと、「私用文書等毀棄罪」または「器物損壊罪」が成立し、犯罪の責任を問われるおそれがあります。
①私用文書等毀棄罪(刑法第259条)
権利または義務に関する他人の文書(私用文書)または電磁的記録を毀棄した場合に成立します。法定刑は「5年以下の懲役」です。
(例)
・契約書
・領収証
・有価証券
・手形、小切手
・プリペイドカードの磁気情報部分
など
②器物損壊罪(刑法第261条)
私用文書に当たらない他人の信書を毀棄した場合に成立します。法定刑は「3年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。
(例)
・一般的な郵便物(ハガキを含む)
・メール便
など
「私用文書等毀棄罪」「器物損壊罪」はいずれも親告罪であり、刑事訴追には被害者の告訴が必要です(刑法264条)。
実際に処罰に至るケースはほとんど想定されませんが、他人宛の配達物を勝手に捨てると犯罪になり得る点に留意しておきましょう。
2. 前居住者宛の配達物は、誰に渡すべき?
誤って配達された前居住者宛の配達物は、勝手に捨ててしまわずに、本人の手元へ届くよう手配しなければなりません。
前居住者宛の配達物の処理方法は、郵便局によって配達される「郵便物」かそれ以外かによって、以下のとおり異なります。
2-1. 郵便物の場合|ポスト投函or郵便局へ持ち込み
郵便物の誤配達を受けた場合、郵便法42条1項の規定に従って対応する必要があります。具体的には、以下のいずれかの対応を行います。
①郵便物に誤配達の旨を表示したうえで、ポスト(郵便差出箱)に投函する
→誤配達の旨は、封筒に直接記載する、付箋を貼り付けるなどの方法によって表示します。
②日本郵便株式会社に対して、誤配達を受けた旨を通知する
→郵便局に誤配達の郵便物を持ち込みます。この場合、誤配達の旨を郵便物に表示する必要はありません。
2-2. 郵便物でない場合|配達業者または前居住者本人に渡す
配達物が郵便局以外の業者によって配達された場合、郵便法の規定は適用されません。この場合、誤配達された配達物をどのように取り扱うかは、配達業者の約款や前居住者本人との合意によります。
ひとまず配達業者に連絡をとって、その後の対応について案内してもらうのがよいでしょう。前居住者と連絡をとれる状態にある場合には、直接連絡をとって、受渡方法などを話し合ってもOKです。
3. 前居住者宛の配達物を誤って開封してしまったら?
前居住者宛の配達物を、自分宛と勘違いして開封してしまうケースも想定されます。この場合も、配達物が郵便物かそうでないかによって、その後の対応が異なります。
3-1. 郵便物の場合|封印し直してから、ポスト投函or郵便局へ持ち込み
誤配達郵便物を誤って開封した場合、郵便法42条2項の規定に従った対応が必要です。
具体的には、以下の対応をすべて行ったうえで、ポスト投函または郵便局への持ち込みを行います。
①開封部分を修補する(封印し直す)
②以下の内容を郵便物に表示する
・誤って郵便物を開封してしまった旨
・開封者の氏名、住所または居所
3-2. 郵便物でない場合|配達業者または本人の指示に従う
郵便局以外の業者による配達物を誤って開封した場合、その後の対応については、配達業者の約款や前居住者本人との合意に従うことになります。
未開封の場合と同様に、ひとまず配達業者または前居住者本人に連絡をとり、対応について協議しましょう。
4. 前居住者宛の配達物の配達を止めてもらうには?
前居住者宛の郵便物が延々と誤配達されてくる状況は、受け取る側にとってもリスクがあるため、早急に解消すべきです。
誤配達の原因の多くは、前居住者が住所変更の手続きを怠っていることにあります。
そのため、可能であれば前居住者に連絡をとって、住所変更の手続きを促しましょう。賃貸や売買を仲介した不動産業者に連絡をとれば、前居住者への連絡を代行してくれる場合があります。
また、郵便局や配達業者に対して誤配達の旨を連絡すれば、その後は前居住者向けの配達物が送られてこなくなる可能性が高いです。
個別に連絡をするのは面倒ですが、トラブルを回避するためには、できる限り対応することをお勧めいたします。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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