【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第45回:ディープフェイク問題の解決に必要な「新しい仕組み」の導入
AIが書いた小説が最終選考に残った
AIは、大規模データの分析や予測で多く用いられていますが、近年クリエイティブ領域でも活用が進んでいます。
電通による、広告コピーをAIで生成する「AICO」が有名ですが、私が起業した大学発ベンチャー・感性AI株式会社でも、「感性AIブレスト」という生成型マーケティングツールを展開しています(Marketing solution | 感性AI株式会社 (kansei-ai.com))。日経が主催する星新一賞(第9回 日経「星新一賞」公式ウェブサイト (nikkei.co.jp)は、AIにより作成した小説の応募も歓迎しており、2020年度はAIを用いた小説が最終審査に残りました。
私が関わっているプロジェクトで最近リリースされたものとしては、文章生成AI技術を活用して作詞をするAI作詞家VTuber「fuwari(ふわり)」があります。「fuwari」の作詞デビュー楽曲が、2022年3月30日、㈱ポニーキャニオンが運営するPR型デジタルディストリビューションサービス「early Reflection(アーリー・リフレクション)」で、サイボーグVTuberとして人気の「マシーナリーとも子」の第2弾作品に歌詞提供を行うコラボ作品としてリリースされました(AI作詞家VTuber「fuwari」創出に協力、「fuwari」作詞デビュー曲は3月30日リリース | NEWS | Syncpower)。
AIは、大量の歌詞データを深層学習し、人間が成長過程で得ていくものと同じように、言語や文章、歌詞の特徴などの知識を習得します。知識を得たAIに、文章抽出材料としてキーワードや画像を提示すると、AIはその抽出材料の特徴を参照して複数の文節を創作します。これらの文節を歌詞生成の材料とすることにより、作詞家の創作活動に寄与し、新たな作品創出の活性化を促進したい、という想いを込めたプロジェクトです。
AIがクリエイティブに進出すると、雇用は失われるのか?
AIによる作詞は、2017年にアイドルグループ「仮面女子」にAIを用いて作成した歌詞を提供した「電☆アドベンチャー」(【仮面女子× 電気通信大学】世界初!人工知能『AI仮面』が作詞の楽曲『電☆アドベンチャー』とは|日刊アイドル (alice-project.biz))が話題になり、多くのテレビや新聞などのメディアで取り上げられました。当時は1回きりのプロジェクトでしたが、作詞家の創作活動に寄与し、新たな作品創出の活性化を促進するには、継続的な活動が必要であると考えました。
しかし、AIがクリエイティブ領域に進出することについては、心配する人が多いようです。
オックスフォード大学教授(当時准教授)のマイケル・A・オズボーン氏が2014年に発表した論文で、米国労働省が定めた702の職業をクリエイティビティ、社会性、知覚、動きといった項目ごとに分析した結果、多くの仕事がコンピュータ化され、雇用が失われる、としたことの影響が大きいと思われます。
2014年当時は、電話応対・受付業務、証券・銀行といった金融関係の仕事などのコンピュータ化が進むとした一方で、クリエイティビティや社会性といった能力が必要な仕事は、コンピュータは得意ではないため、人間が得意な仕事として残る、としていました。
そこで、クリエイティブな仕事は人間の最後の砦であるかのように受け止められたため、その領域にAIが進出することに対して、恐怖に似た感情を抱かれるのかもしれません。
しかし、クリエイティブな仕事は人間の方が得意であるとしても、多くの人にとって、創作活動には産みの苦しみが伴います。0から何かを産み出すよりも、AIが何らかの材料を出力すれば、そこからインスピレーションが得られたり、それを元に創作の可能性が広がるのではないかと思います。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。