■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、新型「iPad Air」(第5世代)と新型「Mac Studio」について話し合っていきます。
新型iPad Airに128GBモデルがないのは不満。でも「povo2.0」との相性は抜群!
房野氏:M1チップを搭載した新型iPad Air(第5世代)が発売となりました。どのような印象ですか?
石川氏:新型iPad Airも、イメージとしては「iPhone SE」と似通った部分が多いですね。「iPad Pro」ほどの高性能は必要ない人に向けたタブレットです。
ただ、iPad Proに比べて機能差は少ないし、価格も円安の影響であまり変わらなくなっているので、選びにくくなってしまっていますね。
石野氏:ちょうど選びにくい価格設定になっていて、64GBモデルは安いけど、iPadでこの容量だとすぐいっぱいになってしまう。じゃあ128GBがいいなと思うけど、新型iPad Airは128GBモデルがないんですよね。
法林氏:ユーザーのニーズと実際のストレージ容量の違いがすごいよね。
石野氏:ストレージ商法ですよね(笑) 256GBモデルを買うと、iPad Proの128GBモデルとあまり価格が変わらなくなってしまいます。もう少しiPad ProとiPad Airの仕様に差をつけたほうが良かったんじゃないですかね。チップをM1にする必要は本当にあったのか、疑問があります。
石川氏:アップルはApple Siliconeの戦略がうまくいっていて、M1搭載商品が増えてきています。だから、コストは下がってきているんだろうなと思います。次のiPad Proに搭載されるチップは“M2”になるのか、M1の派生形になるのかはわからないけど、そこで差をつけてくるのかな。全体的に、チップと製品の組み合わせ方がうまいなと思います。
石野氏:いい端末なんだけど、為替とストレージ容量設定のせいで、ちょっと選びにくくなってしまっていますよね。
法林氏:価格を見ると、エントリークラスは7万円台から。あと、Wi-FiモデルとCellularモデルの価格差が1万5000円くらいになっている。かつては、Wi-Fiモデル買って、テザリングしようと思ってもスマートフォンの料金プランはデータ通信量が制限されていた。ところが、今やデータ通信使い放題のプラン、テザリングでも数十GB以上、使えるプランが増えてきている。その点を踏まえると、Cellularモデルを選ぶのではなく、Wi-Fiモデルを選んで、テザリングを使うのも手。
それでもCellularモデルを買いたいという人でも、通信キャリアから購入する必要はほぼなくなっている。基本0円で維持できるpovo2.0でiPadが正式に対応していて、上手に運用すれば、「ギガ活」だけでの利用も不可能ではないので、外出したらデータ通信量をチャージする、そんな使い方がおすすめかもしれません。
石野氏:iPadとpovo2.0はめちゃめちゃ相性がいいですよね。毎日屋外で通信しないという人は、ギガ活で貯めたデータ通信量をまとめて使うのに便利です。
房野氏:povo2.0はeSIMで使うのがいいですかね。
法林氏:もちろんSIMカードでもいいけど、eSIMに設定して維持費を安く保ちながら、海外渡航時に現地のプリペイドSIMカードをSIMカードスロットに挿すのが、賢い使い方かもしれません。
超パワフルPC「Mac Studio」は誰が買うべき製品なの?
房野氏:PCは「Mac Studio」が登場し、併せて「Studio Display」も発売となりましたね。
石川氏:予想外だったのは、Mac Studioの登場ですね。発表会前にはMacBook Proの13インチが出ると噂になっていましたが、蓋を開けてみたらデスクトップPCでした。
一番の驚きは「M1 Ultra」チップです。M1が登場した当初、ハイエンド向けは難しいといわれていましたが、まさかM1 Maxを2枚くっつけてくるとは……。M1 MaxはMacBook Proの16インチモデルと14インチモデルに採用されていますが、ここだけじゃなくて、Studio用にも作ることで量産するのは、うまい戦略だなと感じています。
Mac StudioとStudio Displayの実機をすでに試してみましたが、特に気に入っているのはStudio Display。非常にきれいで、音も良い。カメラもついているので、ビデオ会議にも出席しやすい。約20万円と高いディスプレイではあるけど、MacBook ProやMacBook Airと組み合わせて使うのはありだと思います。非常に気に入ってはいるけど、唯一気に入らないのが、入力が1つしかないという点ですね。
法林氏:Studio Displayは、ディスプレイというよりは、大きいiPhoneだよね。
石川氏:A13 Bionic搭載ですからね。本来であれば、いろいろなものと接続したいところなのに、Mac1台としか接続できないのは、アップルらしいともいえます。前のディスプレイもそうでしたからね。
法林氏:Mac Studioはスゴい商品だと思うけど、100人中90人くらいはオーバースペックな感じ(笑)
石川氏:99人じゃないですかね(笑)
法林氏:アニメーションとか、CGをたくさん扱う人たちに向けた、パワーのある製品で、ほぼプロ用です。MacBook AirやMac miniでも十分な性能を持っているので、ビジネスユースで考えても、CAD(コンピュータを使った設計支援ツール)をガリガリ回すとか、CGを扱う人ではない限りいらないでしょう。
石川氏:アップルから送られてきたデモ用のMac Studioには、「Final Cut Pro」(プロ向けビデオ編集アプリケーション)に、8Kの映像が18本、18分割されて再生できるようになっていたんだけど、8Kコンテンツを18本束ねる機会なんてなかなかないですからね。NHKかシャープくらいじゃないですか(笑)
法林氏:4Kならまだしも8Kだからね(笑) そもそも誰が8Kの動画を撮影できるのかという話になってくる。
房野氏:実際、処理速度はどうなんですか?
石川氏:めちゃくちゃ速いです。使ったのは128GBメモリの製品でしたが、8K動画でも、JPEGを扱っているような感覚です。
法林氏:僕の周りでMac Studioに反応しているのは、学術系の人だったり、「富岳」(スーパーコンピュータ)を使うような人とか、CGなどを扱うような人ですね。とはいえ、処理した8Kの動画をどうやって納品するの? といった課題も出てきます。
石川氏:面白いのは、聞いた話だと、「Final Cut Pro」ってM1 Max搭載モデルだと8K動画は9本まで、M1 Ultra搭載モデルなら18本まで処理できるようになっているらしい。ちゃんと2倍になっているんですよ。
房野氏:スペック面からみて、価格設定はどうでしょうか?
法林氏:Windows PCとは土壌が違うので、純粋に比較はできないけど、学術系の人たちがいうには、この性能、この価格はある意味安いけど、そもそもプライベートで買えるのかという価格設定です。
石川氏:もともと「Mac Pro」も同様の価格帯だったので、そのラインなんだろうなという感じです。
房野氏:Mac StudioはM1 Ultra搭載モデルを最大構成にすると、100万円をギリギリ切るくらいの価格になりますが、過去のMac Proでもこのくらいの価格ですよね。発表会では新型Mac Proの登場も匂わされていましたが、いかがでしょうか?
石川氏:発表会内で「Mac Proは別の機会で」と明言されていましたね。取材していくと、Mac Studioで十分なのではと思いきや、拡張性を求める人がいる。Thunderboltケーブルではなくて、拡張性が欲しい人のために、Mac Proをやり続けるんじゃないですかね。
房野氏:Mac Studioはイメージとして、Mac miniの親分のような感じですか?
石川氏:おっしゃる通りですね。新型Mac Proはデスクトップで拡張性を持った製品が予測され、チップセットに関しては、M1 Ultraになるのか、M2になるのかはわかりません。次回のWWDCか10月のイベントでM2を発表して、MacBookシリーズにも展開していく可能性もあります。
法林氏:新車のポルシェの価格が仮に1500万円くらいだとして、オプションをつけると2000万円、3000万円になります……そんな世界観は、一般家庭にはちょっと縁遠い。それと似たような価値観じゃないですかね。多くの人には関係のない話です。
アップルがよく、「クリエイティブな仕事をする人」といっているけど、基本的には映像系の人が対象だと思う。プロユースの動画編集やCG制作には、それなりのCPUパワーが必要なので、そういう人向けの製品です。
石川氏:M1 Maxが2個くっついたということは、3個、4個といけるのかな、と思い、可能性を探ったところ「今は2個くっついたことを喜ぶべきだ」といわれました(笑) あえて否定はされなかったので、今後どうなるか、期待ですね。
法林氏:まぁやるとは思うよ。ただ、問題は、それが本当に必要なのかという話だよ(笑)
……続く!
次回は、「iPhone SE(第3世代)」が、一括1円や実質1円で販売されていることについて会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦