3月18日 大安と縁起が良い日に新発売された『OM SYSTEM OM-1』。発売日の18日は、OM-1の「1」と漢数字で末広がり「八」の組み合わせだ。
OM-1の型番は、1972年に登場したフィルムカメラの『OM-1』を継承しデジカメとして復活した。往年の名機は人間工学に基づき操作性に優れ、冬山の極寒地にて手袋をしてもダイヤルやレバー操作が可能だった。当時、山岳写真家を中心に全天候型カメラとして絶大な信頼を得ていた。
今年、ちょうど半世紀を経てデジカメとして新生したOM-1。カメラ本体にはOLYMPUSのロゴが刻まれているが、カメラメーカーはオリンパスではなくOMデジタルソリューションズだ。オリンパスから離れ、新会社として2021年1月にスタートした。新たな会社として第一弾の新製品が今回紹介するOM SYSTEMのフラッグシップモデルOM-1となる。新会社として船出を飾るのに相応しいフラッグシップか? プロカメラマンが自腹購入し消費者目線でレビューする。
まずは開封の儀。箱を開ける高揚感は期待値に比例する。箱は若干だが簡素化されている印象だ。コストダウンよりもSDGsの取り組みであろう。
付属品の全てを並べた。バッテリー充電器は付属せず別売となる。カメラへの充電は付属するType-C USBケーブルをカメラ本体に接続する。
バッテリーは2280mAhと従来機から1.3倍と大容量化。画像処理エンジンの高性能化に対応するためだがバッテリー消耗は早く、予備バッテリーがあると安心だ。
デザインは実用性を重視した機能美。カメラ本体は小型だが、グリップ部が大きいため望遠レンズを装着しても持ちやすい。
往年の名機OM-1のロゴが白く彫られている。原点回帰の意気込みを感じる。
OM SYSTEM ロゴが本体左下にある。光輝くようなシルバーではなく、トーンを落としたグレーが控えめな主張でクール。
シャッターボタンは金属削り出しの素材感があり、撮影へのモチベーションも高まるデザインだ。
デザインでの進化ポイントは曲線を採用している点だ。伝統的に直線デザインが主流だったが、僅かなカーブが柔らかい印象になり好感を持つ。
大型のアイカップに着脱のロック機構を採用。これまで筆者は、撮影中にアイカップが不用意に外れてしまい何度も失くしたが、本機では心配がなくなる。
カメラ設定は機能ごとにタブが配色され直感的操作が向上。OM-1はUIを大胆に変更し、従来機とは異なり横方向へタブが展開されるため既存ユーザーは注意が必要だ。
進化ポイントは3点 現行モデルと新旧比較
新たに開発された画像処理エンジンTruePic X(ツル―ピック エックス)は、従来モデルから飛躍的に進化した。2019年に登場したE-M1Xはエンジンを2基搭載し高性能化を実現したが、OM-1は1基のみで従来機スペック同等以上の処理を行う。連写など負荷の高い撮影をすると画像処理エンジンは高温になりやすい。E-M1Xは熱対策としてエンジンを2基にし、物理的に分散配置することで高熱化を回避した。後発となるOM-1はエンジンを1つにした弊害として集中的に熱がこもりオーバーヒートの心配があるが、エンジン自体の性能アップとカメラ本体の金属素材を再検討し熱対策の信頼性を高めたとメーカーは言う。
進化点の2つめは、撮像センサーに裏面照射積層型センサーの採用だ。この撮像センサーは高感度特性に優れ、OM-1では実用感度もISO 25600になり暗い場所でもノイズが少ない撮影ができる。最高感度もISO 102400になりフルサイズ一眼カメラと比肩するほどだ。静止画はもちろん動画にも耐ノイズ性能が上がり、夜景でも低ノイズの美しい映像が撮影できる。
3つめの進化点はAF性能だ。画面の隅までピント合わせができる1053点もある測距ポイントの多さだ。1053点と中途半端な数字は、画面を縦方向27点と横方向39点に分割し、縦と横の数を掛けると1053点になる。実際には全画素・全撮影領域で測距しており、全画素分にあたる2000万ポイントで測距している。さらに1画素を四分割したクアッドピクセルAFという新技術でAF精度を高めており、1ピクセルを4つに分け差異を演算しピントを合わせるというミクロン単位の驚異的な技術だ。さらにディープラーニングを活用した「AI被写体認識AF」は、飛行機や鳥などを的確に合焦する最新技術である。
新撮像センサーは耐ノイズに優れ暗い場所での撮影に効果的
先述したように撮像センサーが裏面照射積層型となり、高感度撮影での低ノイズを実現した。実用感度はISO 25600までと高感度になり、室内や夜景などでノイズの少ない高画質な写真が撮影可能だ。最高感度は102400まであるが、かなり画質低下するため1つ手前の51200が実用の上限だろう。
撮像センサーが刷新され、暗部から明部までの階調が豊かになったとメーカーはアピールするが、実際にテスト撮影すると著者の主観では現行モデルとの差は感じられない。今後のカメラ本体のファームアップで改善を期待したい。
実際にロウソク1本での明るさで、ノイズ耐性をプロ機としてのE-M1Xと撮り比べた。画面中央の赤枠部を拡大しチェック。
左がOM-1 右がE-M1X どちらもISO 6400の感度設定にて撮影。OM-1は文字の輪郭が明瞭だ。ノイズは僅かに発生するが筆者レベルでは許容範囲だ。
OM-1によるISO感度設定を3段階で比較した。基準となるISO 200ではノイズは無く、ISO 12800になると少しノイズは出るが実用レベルだ。ISO 51200はノイズが多く実用の上限と考えた方がよいだろう。
暗部から明部まで階調豊かなダイナミックレンジを、ロウソクの灯りを撮影し確認した。
同一条件にて2機種を撮り比べたが、明部の再現性はどちらも同じで差が見当たらない。OM-1の明部の豊かなグラデーションに期待したが残念な結果だ。
オートフォーカスは大幅に進化し、縦27×横39による1053点の測距は全撮影領域をカバーし死角は無い。
クアッドピクセルAFは、1画素を四分割し差異を取得して測距の精度を高める新技術。約2037万画素の全てで機能する。
AFターゲット「All」では自動的に被写体を認識して合焦する。瞬間的で咄嗟の撮影での効果を発揮する。
「Small」では画面の隅でもピント合わせが可能となり、作品性の高い写真表現もできる。
「Single」はピンポイントでの合焦ができ、AF機能をカスタム設定することで上級者レベルの細かなポイントに合焦させることが可能。
プロカメラマンでも失敗する星空の撮影。星にピント合わせを正確に合焦してくれるのは感動的だ。設定画面への操作も簡単。
ハイレゾショットで2000万画素を8000万画素に高画質化
定評あるハイレゾショットは8000万画素まで高画質化。ハイレゾショットとは、1回の撮影で撮像センサーを0.5ピクセル単位で移動させ、複数枚撮影することで写す範囲を拡張する技術。実際に範囲を重ねて撮影するため、疑似的なピクセル補完とは異なり高精細な画像が生成される。5000万画素では三脚を使用しないで手持ち撮影も可能だ。
ハイレゾショットはメニュー画面から設定ができ、三脚使用または手持ち撮影のどちらかを選択する。
ハイレゾショットは最高画質モードの8000万画素まで選択可能。フルサイズ一眼カメラと遜色ない解像度だ。
ハイレゾショットの実力を検証撮影し、赤枠部を拡大して2000万画素・5000万画素・8000万画素の画質差をチェック。
拡大写真を精査すると5000万画素と8000万画素は良好な画質だ。5000万画素の手持ち撮影は利便性が高い。
さらに一部分を拡大して各画質設定でのハイレゾショット画質を見極める。
通常撮影の2000万画素の細部は不明瞭だが、ハイレゾショットは効果的に高画質化している。5000万画素と8000万画素に大きな差は見られないが、僅かに8000万画像が精微に見える。
ストレスフリーなカメラに進化
一般的にデジタルカメラの動画撮影は30分までと時間制限があったが、OM-1では30分以上の連続撮影が可能。利点として一例を挙げると、夕日のシーンで日没前後の1時間に及ぶ長時間撮影が可能となる。以前では30分で撮影が一度途切れてしまい再度撮影ボタンを押す必要があった。他の機能として、動画撮影に慣れていないユーザーにも使い勝手が向上しており、撮影ミスが起きにくい工夫がされている。
液晶モニターの外周に赤色の枠が表示されて「現在撮影中」が容易にわかりやすくなり、これまであった撮影ミスは低減される。
スマホのストップウォッチ機能をカメラの液晶モニターに映し出してみた。00:12:33と同一タイムを映し出す。液晶モニター表示の遅延は皆無といってよいだろう。
総評
画像エンジンの進化は、液晶モニター表示の遅延ゼロやオートフォーカスの高速化に結実し、連写した場合でのSDカードへの書き込みも早く次世代レベルだ。他ラインナップのOM-Dシリーズでは、カメラのファームアップが頻繁にあり、その都度で新機能が搭載される。まだ発売されたばかりの本機OM-1は、今後も進化し続けると確信してプロの撮影現場で積極的に活用したい。
サイズ:高さ91.6mm×幅134.8mm×奥行き72.7mm 重量511g(本体のみ)
価格: OM SYSTEM OM-1(ボディ)で27万2800円(税込み)公式オンラインショップ
商品情報
https://www.olympus-imaging.jp/product/dslr/om1/index.html
文・撮影/福永仲秋 プロカメラマン