パフォーマンスを改善し、疲労もブロックする「腹圧呼吸」とは?
「腹式呼吸」と「胸式呼吸」のどちらが優れた呼吸法なのかという議論は、識者によってまちまち。
「腹式呼吸」のほうが優れているという人もいれば、「胸式呼吸」のほうがメリットは多いという人もおり、両方にメリットとデメリットがあって優劣はつけがたいという人もいる。
そして、そのどちらでもない「腹圧呼吸」という呼吸の仕方を勧める人がいる。
『スタンフォード式 疲れない体』(サンマーク出版)を上梓した、スタンフォード大学スポーツ医局アソシエイトディレクターの山田知生さんだ。
山田さんの所属するスタンフォード大学といえば、ノーベル賞受賞者を含む各界著名人を輩出する有名校として知られるが、実はスポーツの名門でもある。
例えば、2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、スタンフォード大学の学生が27個ものメダルを獲っている。
山田さんは、そんな強豪校の水泳チームのアスレティックトレーナーとして活躍している。
●腹圧呼吸とは?
山田さんの言う「腹圧呼吸」とは、「息を吸うときも吐くときも、お腹の中の圧力を高めてお腹周りを固くする呼吸法で、お腹周りを固くしたまま息を吐ききる」というもの。
本書では、腹腔内圧を意味するIntra Abdominal Pressureの頭文字をとって、IAP呼吸法とも呼んでいる。
腹圧呼吸のメリットは、腹腔の圧力が高まることで体幹・脊柱という、いわば体の中心軸が安定し、正しい姿勢になって、中枢神経の指令がスムーズに伝達され、無理な動きがなくなるというのがある。
また、酸素の摂取量を適正な範囲で最大化できるので、「細胞の自然治癒能力が促進され、肉体的な疲労から早期に回復できる」という特徴もある。
これによって、アスリートであればパフォーマンスレベルが向上し、ケガの予防効果もある。
ビジネスパーソンであれば、疲れにくく、疲れから回復しやすいと体感できる。
●胸式呼吸や「お腹を引っ込める呼吸」にはこんな問題が
山田さんは、胸がふくらむ一般的な胸式呼吸を「パラドックス呼吸」と呼んでいる。
ここで言う「パラドックス」とは「矛盾」の意味で、「当然歓迎できる」呼吸ではないという。
この呼吸だと、「体は中枢神経の指令をちゃんと受け取れなくなり、フィードバックもままならず、無理な動きを続ける」ことになって、ケガのリスクが大きくなり、疲労もしやすくなるとしている。
また、高校時代に野球やバスケットボールをやっていて腰痛持ちの大学生はみな、「筋肉をひたすら内側に収縮させて深く息を吸う『お腹を引っ込める呼吸』をしながら練習していた」という。
この呼吸法の場合、脊柱は不安定となり、無理な負荷が腰にかかって痛めるばかりで良いことはないという。
事実、腹圧呼吸に切り替えるよう指導した結果、、腰痛持ちはいなくなり、パフォーマンスが改善されている。
●腹圧呼吸を身につける方法
本書では、腹圧呼吸を習慣化させるメソッドが図解されている。
詳細は本書を参照していただければと思うが、端的に説明すると以下のやり方で行う。
1. 椅子に座る。このとき、お腹と太ももがなす角度90度、太ももとふくらはぎも90度に。
手のひらを上向きにして、人差し指、中指、、薬指の先をお腹に向けひざの上に置く。
2. 両手をひざの上から足の付け根へとスライドさせる(足の付け根に差し込む感じ)。
3. 5秒かけて鼻から息をいっぱいに吸い込む。このとき、足の付け根に差し込んでいる指を押し返すようにお腹を膨らませる(肩は上げないよう注意)。
4. 5~7秒かけて口から息を吐く。
この時、腹圧は保つ。つまり、膨らんだお腹が指を押し返す感覚を保つようにする。
息を吐ききったら、お腹を一度緩め3に戻り、3→4を5回繰りかえす。
これを朝晩行い、慣れてきたら手を使わずに行い、それも慣れたら立ってできるようにする。
このように、日常的に腹圧呼吸ができているようにしてゆく。
腹圧呼吸のトレーニングの当初は、違和感があるかもしれない。
しかし、人は生まれたときは、この呼吸を行っており、大人でも一流のアスリートや音楽家は腹圧呼吸ができている。
メリットは大きいので、辛抱強く続けてみよう。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)