「着なくなったからあげる」と友人からもらった服を、フリマサイトで売ることには、何か法的な問題があるのでしょうか?
「そんなつもりであげたんじゃなかった」という友人の憤りは理解できる部分もありますが、法的にはどのように取り扱われるのでしょうか。
今回は、友人から譲ってもらった服を、その友人に無断で売却した場合の法的な取り扱いについてまとめました。
1. 「所有権が移っているかどうか」がポイント
友人から譲ってもらった服を売却してよいかどうかは、その服の「所有権」が誰にあるかによって結論が左右されます。
所有権とは、法令の制限内において、対象物を自由に使用・収益・処分する権利を意味します(民法206条)。
「自由に」とは、他の誰かの許可を得る必要がないことを意味しています。したがって、友人から譲り受けた服の所有権が自分にあれば、メルカリなどのフリマサイトでその服を売却する際、前所有者である友人の許可を得る必要はありません。
仮に服が高値で売れたとしても、その売却代金はすべて(売却前の)所有者のものです。友人から自分に服の所有権が移っているのであれば、売却代金を友人に渡す必要はありません。
反対に、服の所有権が友人に残っている場合には、友人に無断で服を売却することはできません。もし勝手に服を売却して、友人に何らかの損害が発生した場合には、不法行為に基づく損害賠償責任を負ってしまいます(民法709条)。
2. 服の所有権が移っているかどうかは、どのように判断する?
友人から譲り受けた服について、所有権がまだ友人にあるのか、それとも服を持っている自分にあるのかは、どのように判断されるのでしょうか。
2-1. 服を授受した際の当事者の合意によって決まる
民法上、物の所有者と占有者(=実際に物を保管している人)が一致している必要はありません。所有者と占有者は同じでもよく、別人でもよいということです。
物の授受が行われた場合、当事者のどちらが所有権を有するかは、当事者の合意によって決まります。
例えば、
「この服を自由に使っていいですよ(返す必要はありません)」
と合意すれば、服の所有権は友人から自分に移ります。
これに対して、
「この服を貸してあげますよ(後で返してください)」
と合意した場合には、服の所有権は移転せず、友人に残ったままになるということです。
2-2. 服の所有権が移らない場合の具体例
消耗品である服を誰かに「あげる」と言った場合、普通は「もう着ないからあげる」という意味であり、所有権の移転を伴うケースが大半と思われます。
しかし、服の所有権が移らないケースがないわけではありません。例えば以下に挙げるような場合であれば、服の所有権が移っていないと評価される可能性があります。
・友人の子どもが着られる年齢になったら返却するという条件で、子ども服を貸し渡す場合
・不要になった場合には返却するという条件で、ブランド物の高価な服を貸し渡す場合
など
3. 服の所有権移転について、当事者間で意見が食い違った場合はどうなる?
一般的な服であれば、大きな問題になることはまずありませんが、非常に高価な服の場合には、服の売却権限(=所有権)の有無を巡って、友人から損害賠償請求を受ける可能性がないわけではありません。もし服の所有権の帰属について争いが発生した場合、最終的には民事訴訟によって、所有権の帰属が判断されることになります。
民事訴訟では、事実認定は原則として、証拠に基づいて行われます。
服の所有権移転の有無に関する証拠として、最も強力なのは契約書です。契約書が作成されていれば、基本的には契約書の内容に従って判断が行われます。
しかし、服をあげる(貸す)際に、逐一契約書を作成するのは一般的ではないでしょう。もし契約書が作成されていなければ、契約当時のやり取りなどを基にして、裁判所が事実認定を行います。
具体的には、「後で返すように」という内容のやり取りがあったかどうかが、所有権移転の有無を判断するポイントになるでしょう。返還合意の事実が認められなければ、所有権の移転が認められる可能性が高いです。
4. 所有権のない服を売却した場合の取り扱い
友人から借りたに過ぎない服について、所有権がないにもかかわらず、メルカリなどのフリマサイトで売却することは「他人物売買」に該当します。
他人物売買も契約上は有効であるため、買主に対して服を発送しなければなりません。発送できなければ、買主に対して損害を賠償する義務を負います。
所有権がない服を買主に発送した場合、買主は「即時取得」(民法192条)によって服の所有権を取得すると考えられます。買主には、売主に服の所有権がないことを知るきっかけがなく、即時取得の要件を満たす可能性が高いからです。
買主が即時取得によって服の所有権を取得する場合、もともと所有権を有していた友人は、反射的に服の所有権を失います。この場合、所有権がないにもかかわらず服を売却したことによって、友人に生じた損害を賠償しなければなりません。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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