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日本でも着々と準備が進む月面活動に必要不可欠なナビゲーションシステム開発最前線

2022.03.18

月面活動が現実味を帯びてきた、そう感じているかたも多いかもしれない。大企業から中小企業、そしてベンチャー企業も先行者としてのベネフィットを得ようと試行錯誤している印象だ。しかし、月という場所は、まだまだ未知の領域。当然、ブルーオーシャンだが、参入障壁がとても高い領域。そんな企業の参入を下支えするための多数あるインフラの1つとして、ナビゲーションシステムが挙げられる。地球でもGPSをはじめとしたナビゲーションシステムは必要不可欠だが、なぜ月でナビゲーションシステムが必要なのか、いまどのような取り組みが行われているのか、今回は、そのような話題について触れたいと思う。

月でもナビゲーションシステムが必要な訳とは?

地球でのナビゲーションシステムについてまず説明したい。たとえば、スマートフォン。わたしたちは、こんな使い方をしてだろう。行ったことがない待ち合わせ場所へ向かったり、会社の歓送迎会で行ったことがない居酒屋を探したり、スマホを片手にナビに指示された通りに向かったり。他にもタクシー配車アプリも使っているかたもいるかもしれない。これは、B2Cのシーンをイメージしているが、B2Bのシーンでも同様だ。たとえば、飛行機や船舶の航路。自動車の目的地への移動。建設における測量などだ。いつの間にか、意識せずにナビゲーションシステムが活用されていることがお分かりいただけただろう。

では、地球ではなく月を思い浮かべてもらいたい。もちろんまだ月には道路もなにも整備はされていないが、まず、あなたが宇宙船に乗っているとしよう。そのとき、月面に着陸するにはどうしたらいいだろうか。着陸すべきところは決まっていて、その場所に正確に、安全に着陸しなければならない。そのときの宇宙船の高度、位置、速度を正確に知る必要がある。これは、地球上の飛行機や船舶での活用シーンと同様だ。他にも月面でローバーなどで移動するときにも同じだ。さらに、月面基地の建設においても、地球と同じように測量が必要となるだろう。このように月面でもナビゲーションシステムは、無人、有人の月面活動において必要不可欠なものになるのだ。

NASAの月ナビゲーションシステムとは?

NASAでは、様々なナビゲーションシステムが開発されている。たとえば、ラジオメトリクス、オプティメトリクス、レーザー高度計などがある。宇宙船と地上アンテナまたは他の宇宙船との間の距離と速度を測定することで、安全に月面に着陸することができる技術だ。他には光学ナビゲーションシステムがある。宇宙船に搭載されているカメラで地表面を撮影し、その画像から距離を測定することができ、安全に着陸するものだ。

これ以外でも、地球で使われているGPSをはじめとする測位衛星システムであるGNSS(Global Navigation Satellite System)を月のナビゲーションにおいても活用しようとする動きもある。実際、GNSSによるナビゲーションは、地球からの高度3000kmを超えると極端に測位が難しくなるのだが、月においてこのGNSSの信号をうまく利用できないかという検討が始まっているのだ。まず、NASAは、イタリア宇宙機関ASIと協力して月のGNSS受信機実験LuGRE(Lunar GNSS Receiver Experiment )を実施するという。2023年には開始予定だ。LuGREで収集したデータを使用して、将来のミッションのために月でも運用可能なGNSSシステムに改良していくというのだ。

また、NASA以外でも米Masten Space Systemsは、GPSのように機能するナビゲーションシステムを月に構築しようとしている。米国空軍のAFWERXプログラムを通じて一部開発するという。実は、月の周りに衛星を打ち上げるのではないようだ。月面にPNTビーコンという機能を持った宇宙船を着陸させ、月面に着陸しようとするランダーや月面ローバーに信号を送り、ナビゲーションするという仕組みのようだ。

Masten Space Systemsの月のナビゲーションシステム 
(出典:Masten Space Systems

ESAが検討しているLCNSとは?

では、欧州宇宙機関ESAは、どのような月のナビゲーションシステムを検討しているのだろうか。ESAでは、LCNS(Lunar Communication Navigation Service)を検討している。2022年3月現在、ESAはアイデアとユースケースを募集しているが、地球、月、その間をいくつかのセグメントに分解して、各セグメントに必要な要素、機能や各セグメント間のインタフェースについて検討していくようだ。

ESAが検討するLCNS 
(出典:ESA

また、ESAでは、月に測位衛星を打ち上げる計画も持っている。その衛星は、ESAがすでに地球で運用している測位衛星であるガリレオと類似したもののようだ。月の南極の緯度75度から90度までの領域に月面地表から高度1000kmまでの軌道に測位情報を送れるようにするという。これにより、月面に着陸するランダー、月面上で活動するローバーなどのナビゲーションに役立つことことだろう。

ESAの月測位衛星 
(出典:ESA

日本でも月面のナビゲーションシステムの準備が着々と!

日本でも月面活動に向けた様々なナビゲーションシステムの開発が行われている。2021年11月29日、カシオ計算機は、JAXAと共同で月面基地の建設に向けた位置測位の実験を開始した。この技術は、高精度位置測位システム「picalico(ピカリコ)」。「カメラ可視光通信」というLED灯の発光色を変化させて信号を送信し、その信号から自己の位置を高精度に算出することができる技術だ。

これは、主に工場の自動搬送機や台車、倉庫のフォークリフトなど作業動線の分析や所在管理のために開発した高精度の位置測位システムだ。このpicalicoを活用することで、広大で目印としての目標物などがない月面では、無人、有人のローバーが自分の位置を把握しながら移動し、資源探査、基地の建設などの様々な活動において有効となるのだ。

今回は、野球場を月のクレーターと見立て、トラクターを探査機に見立てながら実証実験を実施したという。

カシオ計算機のpicalicoのイメージ 
(出典:カシオ計算機

他にも、2022年1月11日、アークエッジ・スペースやKDDIらは、JAXAが公募し「月面活動に向けた測位・通信技術開発に関する検討」において、選定されている。この検討においては、月探査における基盤となる測位・通信システムの総合アーキテクチャや月測位衛星システムや月―地球間の超長距離通信システムなどの関連するシステムとその開発計画を検討するという。

いかがだっただろうか。無人、有人どちらの月面活動においてもナビゲーションシステムはとても重要なインフラとなるだろう。今回紹介したものは網羅的ではないだろうが、どれもアルテミス計画につながるものになるだろう。そして、月面への着陸、月面上での移動が正確になり、月面基地などの建設や資源探査、採掘、運搬などが効率的に且つ高い信頼性を持って実施できるようになるだろう。

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。新刊「ビジネスモデルの未来予報図51」を出版。各メディアの情報発信に力を入れている。

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