ベーカリー&レストラン
コロナ禍で居酒屋やファミレスが大幅に業績を落とす中、比較的堅調といわれているのがハンバーガー店です。モスバーガーは昨年も増収増益でしたし、マクドナルドは2年連続で過去最高益を更新中。ハンバーガーだけでなく、ベーカリーもテイクアウトの強みが注目され、例えば喫茶チェーン『銀座ルノアール』は、傘下の『ミヤマ珈琲』の『ベーカリー・ヒナタ』への業態転換を進めていますし、日本のミクソロジー・カクテルの第一人者・北添智之は、ベーカリー勤務経験を生かし、銀座のバー2店を閉めて祐天寺に『アグロフォレストリー・ナチュラル・ベーカリー カフェ』を出店。ベーカリーにはマリトッツォも追い風を吹かしており(あれってパン屋で売るものですからね)、ブームの火付け役となった福岡のベーカリー『アマムダコタン』が、昨年10月、北青山に初の東京店を出店しています。
外食業界には昔から「粉物は儲かる」という言葉があり、中でも、小麦粉・水・イーストだけで作るパンは、粉物の代表格。実際の話、ベーカリーの新店オープンの際は、チラシを印刷して配るよりパンを焼いて配ったほうが安上がりといわれるほど。確かに、上代(販売価格)と下代(仕入れ価格)の差を考えれば、パン、特にハード系(外側がカリッと堅いバゲットやクロワッサン)は儲かるはずですが、しかしそれは、ドラマ『義母と娘のブルース』の佐藤健のように店主がコマネズミのように働いた場合であって、ちょっと規模を大きくして人件費をかけたり、原材料に凝ったりすれば、利益はすぐに吹っ飛んでしまいます。例えば、俺の株式会社が展開している『俺のBakery』の、岩手なかほら牧場の牛乳をふんだんに使った看板商品の高級食パン「香」は、原材料にこだわりすぎているため、2斤(1000円)単位で売らないと利益が出ないそうです。
さらに、ベーカリーは、ふっくらさせるパンは蒸気オーブン、ハード系のパンは石窯、というふうに、オーブンを最低2種類用意しなければなりませんし、味の決め手となる発酵時間もパンの種類によってまちまち。しかも注文を受けてから作るラーメンと違って、パンは前もってたくさん作る作り置きで、売れ残った場合、食パンはラスク、フレンチトースト、クロックムッシュなどいろいろ使い道がありますが、調理した菓子パン・総菜パンは廃棄するしかありません。
なので、べーカリーは、顧客となる周辺住民の嗜好を的確につかみ、売れ残りが出ないようにどんなパンをいくつ作るか、そのために、どれだけの種類の生地をどれだけの時間発酵させるか、オーブンの時間配分をどうするか、ガチガチの作業表を組まなければなりません。ベーカリーはむちゃむちゃデリケートな準備が必要なビジネスなのです。
そうした事情を考えると、ベーカリー単独より、レストランやカフェを併設したベーカリー&レストラン、ベーカリー&カフェのほうが、調理設備や人材を共有できるので有利なはず。
昔から、大型レストランやホテルはパンを他店から買わずに自分で焼くため、店内に自家製パンを売るコーナーを設けていましたが、数年前から町場に、併設を前提とした大型のベーカリー&レストラン、ベーカリー&カフェがどんどん生まれています。
先駆けは、2009年に軽井沢に出店した人気ベーカリー&レストラン『沢村』を首都圏に拡大したり、1990年にNYユニオンスクエアにオープンした〝ニューヨークで最高のクロワッサンの店〟『ザ・シティ・ベーカリー』を日本に招聘して全国25か所に展開したりしているフォンス。ほかにも、先に紹介した、2016年に恵比寿ガーデンプレイスに出店した『俺のBakery』を首都圏に展開している俺の(株)や、人気店『パンとエスプレッソと』を全国に9店舗直営している日と々と、南池袋に2009年に『ラシーヌ ブーランジェリ&ビストロ』、2020年に販売専門の『ラシーヌ ブレッド&サラダ』、さらに去年から今年にかけて青山・目白に『ラシーヌ』を拡大しているグリップセカンドなど、この業態を多店舗展開している外食企業は多数あります(下表)。
『俺のBakery&Cafe 恵比寿店』は、俺の株式会社が経営するベーカリー&カフェの1号店。2016年オープン。食べログでは3.73と高評価。高級食パン「香」や「厚焼きたまごサンド」など、ヒット商品多数。『俺のBakery&Cafe』は、一時は十数店にまで拡大していましたが、現在は、ここと大手町・武蔵小杉・八重洲地下街・大阪心斎橋の5店。恵比寿店には最近『俺のイタリアン』のシェフが異動し、フードに力を入れています。◆渋谷区恵比寿4-20-6 恵比寿ガーデンプレイス時計広場 ◆03・6277・0457
パンは、米やパスタなどに比べてGI値(血糖値の上昇スピード=糖質接種率)が頭抜けて高いことが女子に知れ渡ってしまい、「糖質ダイエット第1世代」のアムラー世代は、自分の限られた可処分糖質をコンビニの安パンに割くのはもったいなさすぎると考え、スペシャルなパンでないと買わなくなりました。そうして減り始めた需要を高級生食パンブームが下支えし、近年、消費量が右肩下がりの米に比べると、パンの消費量はずっと横ばいを続けていますが、ここにきて、その高級生食パンも飽和状態。今は、既存店のクローズと新店のオープンが、拮抗している状態です。
が、南池袋の『ラシーヌ』や軽井沢の『沢村』に代表されるように、オシャレなベーカリーは町のインフラであり、町の価値そのものを上げる効果があります。雰囲気の良い高級ベーカリー&レストランが不動産会社や電鉄会社と組めば、まだまだ成長の余地があるのではないでしょうか。
『ラシーヌ オーガニック』は、南池袋を中心に10店舗を展開しているグリップセカンドが昨年12月に目白駅前の商業施設「トラッド目白」の2階に出店した、パン・ドーナツの物販とオーガニックレストランを組み合わせたオシャレなベーカリー&レストラン。同社は、南池袋の『ラシーヌ ブーランジェリ&ビストロ』を昨年3月に改装してレストランとパン工房に分け、そこで焼いたパンを各店に配送しています。◆住所:豊島区目白2-39-1 トラッド目白2階 ◆電話:03・5985・4980
【秘訣】オシャレなベーカリーが街のインフラに
取材・文/ホイチョイ・プロダクションズ