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【深層心理の謎】顔の見えるお金持ちには寛容に、顔の見えない富裕層には批判的になる理由

2022.03.18

 久しぶりに訪れた街には摩天楼がそびえ立っていた。ニューヨーク・マンハッタンのような壮大な摩天楼ではない。住宅街タイプのささやかな摩天楼なのだが-。

春の陽気の土曜の午後に日暮里界隈を歩く

 いわゆる“財テク”のレベルの話ならともかく、資産や収入などについてのマネー関連のトピックスには残念ながら無頓着なほうだ。世の一般的な人々がこうした案件について普段からどのくらい考えているのかはよくわからないが、個人的にはこの種のことについてあまり考えをめぐらせたりはしていない。

 こんな考えだからたいした貯蓄もできないのだと苦笑するしかないのだが、それでも一般庶民からすれば桁外れの年俸を稼いでいるプロスポーツ選手やCEOなどの話題を実際に目にすれば、少しは気にしないこともない。世の中には莫大な収入を得ている人物もいれば、途方もない資産を持っている人々も現実に存在しているのだ。

 何も極端な話を持ち出さなくもいいのだろう。たとえば目の前に何棟も建っている立派なタワーマンションの数々だ。山手線にある駅の駅前に建つタワーマンションに入居できる人々とは、普通に考えて富裕層に属する人々であることは間違いない。

 このようなマンションに住むとどんな暮らしぶりになるのか考えてみたくもなるが、どうにもリアリティが湧いてこない。環境はガラリと変わることは間違いないが、おそらく生活は今と何も変わらないというか、変わりようがないとも思えてくる。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 休もうと心に決めた土曜日の午後、JR山手線を日暮里駅で降りた。春を思わせる快晴の空の下、少しこの界隈を散策したくなったのだ。

 しかしそう考える者は多いということで、都内有数の散策スポットでもある谷中霊園に通じる駅の北口を出るとけっこうな人出である。観光スポットにもなっている線路を跨ぐ陸橋では多くの人々が通過していく車両の様子をスマホのカメラで撮影している。陸橋の対岸には大きな家が見える。“豪邸”といって差し支えないのだろう。

 今日は土曜日であり少し考えれば分かりそうなものだったが、家族連れも多い人出の中では一人で散策するのも何だか気が引けてくるし、楽しめないようにも思えてくる。谷中、根津、千駄木エリアの総称であるいわゆる“谷根千”側の散策は諦めて、駅の東口に出ることにした。

 駅前ロータリー越しにそびえる3棟のタワーマンションを仰ぎ見つつ左に進む。頭上にはモノレールの高架線路が延びている。久しぶりに来たが、以前にも増して近未来的な街並みになってきているように感じられる。基本的には住宅街なのだと思うが、タワーマンションが立ち並ぶ景観はもはや摩天楼だ。ニューヨーク・マンハッタンとは比べようもないが、いわば住宅街タイプの摩天楼といえるだろうか。

 もちろん湾岸エリアなどのタワーマンション群はもっと壮大なことになっているが、山手線の駅前至近のエリアでこれだけでの“摩天楼”はそうはないだろう。

 駅ビルから続く建物が途切れたところから、線路沿いにこぢんまりとした商店街が延びている。大きな建物や広い通りばかりの駅前では、こうした手狭な商店街には余計に親しみが感じられるというものだ。進んでみることにしよう。気になる飲食店があれば昼食にしてみてもよい。

※画像はイメージです(筆者撮影)

顔が見える個人のお金持ちはあまり税金を払わなくていい?

 通りを進む。“谷根千”方面と違ってこちらは観光地というわけではないので、土曜日は閉めている店も少なくないようだ。商店街の入口付近からファミレスや某立ち食いそばチェーン店などが続く。横浜家系ラーメン店や某中華チェーンなどもあるが、もう少し先へ行ってみよう。

 北口の陸橋で先ほど眺めた豪邸が少し気になった。豪邸に住む人物はもちろん、高級タワーマンションに住む人々も世間一般から見ればお金持ちだとは思うが、そうした人々について我々はどんなイメージを抱いているのだろうか。

 その人がお金持ちであるという事実は、何も魔法や“錬金術”があるわけではない以上、不思議なところは何もないはずだ。シンプルに言えば、人並み外れて稼ぐことができるのか、あるいは資産運用や不労所得、相続などでお金がシステマチックに入ってくる環境やポジションにいるか、のどちらかということになる。

 成功したプロスポーツ選手やミュージシャンや作家などのタレント、あるいは起業家など、個人で財を成した人々は“サクセスストーリー”として世の中で注目を集める存在になる一方で、もともとお金持ちの家に生まれて財産や事業を相続していたり、資産運用や家賃収入などである種システマチックに不労収入を得られるお金持ちの人々というのは一般的にあまり知られていないし、当人たちもあまり表に出ることは好まないのかもしれない。

 そして一般庶民がそうしたお金持ちの人々は、総じてもっと税金を収めるべきであると感じていたとしても、人情としてはもっともな話である。ではすべからくお金持ちからは多額の税金を徴収すればいいということになるのだろうか。

 興味深いことに最近の研究では、我々は個人としてのお金持ちや富豪はある程度許容できるのだが、姿の見えない富裕層には厳しくなり、もっと税金を徴収すべきだと感じている傾向があることが報告されている。経済格差の広がりが世界的に指摘されている中にあって、姿の見えない富裕層はどこかしら“濡れ手に粟”の収入源があると思われているのである。


 成功した個人の文脈では、人々は富や資源の極端な格差を受け入れ、資産税や相続税などの税制をあまり支持しないことを発見しました。(一方で)彼らはそれがグループに適用されたときには、同じレベルの不平等でも不公平であると感じていることに気づかされました。

 その効果を推進するのは、グループの結果よりも個人の成功と失敗に責任があるという内部特性を見る傾向にあることを学者は提案しています。

「グループとしてのCEOではなく、個人のCEOが報酬を受け取る場合、私たちは贅沢な報酬に対してもう少し寛容であるように見えます」

※「Cornell Chronicle」より引用


 米コーネル大学とオハイオ州立大学の合同研究チームが2021年10月に「PNAS」で発表した研究では、経済的不平等が富裕層グループではなく特定の個人の観点から表現されている場合、人々はこの不平等に対してより寛容であることが報告されている。つまり顔の見える個人のお金持ちに対して、庶民はあまり厳しい視線を向けておらず、むしろ親しみさえ感じているケースもあるというのである。

 合計2800人の調査参加者を対象とした8つの調査で、研究チームは個人としての富豪の莫大な富は、勤勉、才能、創意工夫の産物であり、それに値するものだと考える可能性が高くなっていることを突き止めた。

 一方で個人ではなく「超富裕層」、「上位1%」、「経済エリート」と呼ばれる顔の見えない富裕層を考えると、経済格差や経済的不平等の問題についてより批判的になることもまた浮き彫りになったのである。

 その説明としては、姿が見えないグループよりも、“裸の個人”であるスターを好ましく感じる「ストリーキングスター効果(streaking star effect)」が働いていることが考えられるという。また顔の見える個人のお金持ちなら知り合って意思疎通できる可能性がなきにしもあらずとも思えるが、顔の見えない漠然とした富裕層には接点が持てそうもないと考えることからくるバイアスもあるのだろう。

 個人としてのお金持ちや成功者はある意味で尊敬すべき憧れの存在ということにもなるのだが、その一方で往々にしてその成功のための努力ができる恵まれた環境にいたことは見逃されがちであるかもしれない。

 たとえばインド映画界で成功した俳優たちは莫大な収入を得ているが、実は富裕層の子弟であることが多く、その事実をオープンにすると人々の尊敬や憧れはやはり低下することもまた別の調査で確かめられている。

 2021年に流行語大賞にノミネートされた言葉に“親ガチャ”があるが、世界的に経済格差が広がり、社会流動性が低下している中にあって富裕層へ向けられる視線はますます微妙になっているということなのかもしれない。

新鮮で美味しい海鮮丼を食べて気力が回復する

 通りを進む。だいぶ住宅街然としてきてしまってお店が少なくなってきた。やや唐突な感じで某ホテルチェーンがあり、宿泊客が利用するであろう飲食店もいくつか点在している。もう少し歩いて特になさそうなら駅へ引き返すとしよう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 これまた意外なことになかなか広い敷地のお寺が通りの左手のエリアを占めている。お寺の向かいには趣のあるいかにも老舗の団子のお店があった。電柱の看板には店名と共に「文政二年創業」と記されている。文政二年といきなり言われてもピンとこないが、とにかく歴史のある老舗であることは間違いない。中に入って食べることもできるようだが、それはあまりにも想定外で恐れ多いという感じだ。

 団子はまたの機会にするが、その少し先にもお店がある。見るからに和食系のお店で夜は居酒屋なのかもしれないが、ランチメニューを記した立て看板のボードが店先に置かれている。天丼と海鮮丼があるようだ。ぜひ海鮮丼が食べてみたい。入らせていただくとしよう。

 店内は広くはないが狭くもない。ある意味では店先のイメージ通りだ。奥の調理場を囲むL字のカウンター席があり、テーブル席が5卓ほどある。午後1時になろうとしていたが半分ほどの席が埋まっていて、地元の人々の人気店であることがわる。

 お店の人の案内で空いているテーブル席に着き、おしぼりとお茶を提供されたところでさっそく海鮮丼を注文する。ランチ時に特別価格で提供されているポテトサラダの小鉢もお願いした。

 この街に確実に存在する富裕層の人々もきっとこのお店に来ていたりもするのだろう。まさに今、この同じ空間にいた人々の中に富裕層の人がいたとしてもまったく不思議ではない。まぁだからどうということはないのだが…。

 海鮮丼がやってきた。マグロやアジ、白身魚に加えてマグロのタタキも乗っている。そもそもどんなものが出てくるのか何の先入観もなかったが、思っていた以上の豪華さとボリュームに感銘を受ける。さっそくいただくとしよう。まずは味噌汁をひと口啜る。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 箸でつまみ上げた刺身を小皿の醤油に少しつけてから丼に戻してご飯と一緒に口に運ぶ。新鮮で美味しい。そして内容的にもすごくお得である。

 こうして美味しいものを食べていると、肉体に栄養がリアルタイムで吸収されていくような気分にもなってくる。生理学的にそれは錯覚なのだろうが、メンタル面では気力が回復してきた感じがする。美味しいものを食べるというのは単なる栄養補給を超え、メンタルにも影響を及ぼす摂食行為ということになるだろうか。

 食べ終えて店を出ればまだまだ歩けそうな気もしてくる。だったらもう一度駅の西側に出て“谷根千”の散策をしてみようか。近場ではあるもののいつでも来れるというわけではない。気力も充実してきた今だからこそ、この機会をみすみす逃すこともないのだろう。

文/仲田しんじ

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