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あえてお酒を飲まないライフスタイル「ソバーキュリアス」は浸透するか?

2022.03.17

ここ最近、ちらほら目にする機会が増えたキーワード「ソバーキュリアス」。ミレニアル・Z世代で広がっている“あえてお酒を飲まない”ライフスタイルを意味する。

「ソバーキュリアス」は、sober=しらふ、curious=好奇心の強い をかけ合わせた造語で、イギリス出身のジャーナリストのルビー・ウォリントンが2018年に発売した書籍の『SOBER CURIOUS』にて発案し、欧米でのムーブメントを牽引。SNSなどで #sober などのハッシュタグをつけた投稿がされていることも多い。

「会話を楽しみたいからお酒を飲まない」という価値観が20代を中心に台頭

この「ソバーキュリアス」という言葉について、アサヒ飲料株式会社が行った調査では、以下の結果が出ている。

「ソバーキュリアス」という言葉の認知度は、全体で3.6%と、まだまだ日本では認知が低いことがわかる。世代別に見ると、20代の認知度は40代の3倍以上あり、差がみられた。

単語としては認知していない人が多いいっぽうで、8割以上の人が「ソバーキュリアスというスタイルに賛同できる」と回答し、ポジティブに受け止められていた。

同調査で、飲酒習慣の有無について聞いたところ、飲酒習慣の有無は、全体では飲む派が54.6%、飲まない派が 45.4%という結果に。飲まない派のうち、体質的には飲めるが飲まないという選択をしている人が13.7%おり、ソバーキュリアスという単語を意識していなくとも、実質そのライフスタイルを実践している人は、一定割合でいることがわかった。世代別に見ると20代は飲まない派が51.9%と半数を超えているのも特徴的だ。

さらに同調査の興味深い質問項目に「生活の中のソバーキュリアス(あえてお酒を飲まない)行動」というものがある。

一番多かった「明日の予定を考えて飲まない」(78.3%)、「酔いたい気分じゃない時に飲まないことがある」(71.0%)、「趣味や学びに没頭したい時は飲まないようにしている」(64.9%)などの回答は、誰でも身に覚えがあるだろう。

面白いのは20代に多かった回答で、「会話を楽しみたいから飲まないことがある」(50.0%)、「楽しい時や一息つきたい時に飲まないことがある」(49.0%)というものだ。

もっと上の世代では、「仕事の話や真面目な話をするときは飲まない」という人は多いと思うが、「会話で盛り上がる、場を楽しむために飲む」という意識のほうが多数だろう。

「ソバーキュリアス」はどう広がる? 違う価値観の人はどうつきあうべき?

「飲む」「飲まない」の選択だけでなく、お酒に対するイメージ、コミュニケーションツールという捉え方自体にまで、違う価値観を持つ若い世代が増えている状況で、「お酒は飲む」「お酒でコミュニケーションする」といった、従来の価値観を持つ人が多い上の世代は、どうやってつきあっていくべきなのだろうか。

「さとり世代」「マイルドヤンキー」の名付け親でもあり、若者研究やメディア研究を行うマーケティングアナリストの原田曜平さんにお話を伺った。

――「ソバーキュリアス」が今後どういう受け入れられ方、広がり方をすると予想されているか教えてください。

原田曜平さん(以下、敬称略)「データにもある通り、だいぶお酒を飲まない方が増えているので『ソバーキュリアス』という言葉…概念との相性はかなり良いと思います。

今までの日本社会は、若い人ではだいぶ薄れてはいますが、やっぱりみんなで飲んでいるときに『お前飲まないの』という同調圧力みたいなものがある社会ですから、そういう意味でも、この言葉が広がると助かる人がすごく増えてくると思います。

『ヴィーガン』のように、帰国子女や外資系企業で働く方、欧米好きなどの比較的若い方から、一般の人たちに入ってくる言葉になるのではないでしょうか。

世界中でいろいろな調査を日々行っていると、本当に世界中のZ世代が、無理して朝まで飲むよりも、リラックスしてチルっていうのが共通概念になっています。もちろん朝まで飲むぞ、という人たちも残ってはいますけどね。

だから『ソバーキュリアス』という言葉は欧米で今よりもっと広がるだろうし、欧米や韓国で広がれば、日本にも入ってくるだろうという予測です」

――あえてお酒は飲まないという『ソバーキュリアス』な考えを持っているZ世代、ミレニアル世代の人と、お酒を飲むのがよしとされる考え方がまだ多く残る上の世代の人が、同じ場で楽しくコミュニケーションしていくには、どんなことに気を付けたらいいでしょうか?

原田「私は40代ですが、自分の世代だと、他の人より強いお酒を飲むとか、量を飲めるのがクールという価値観がまだ残っています。世代が若くなればなるほど減っているとは思うんですが、『お酒強いですね』と言われると誇らしく思うようなところが、日本社会には多かれ少なかれあると思うんですね。

『ソバーキュリアス』はこれと真逆な概念で、むしろあえて飲まないのがクールという考え方なので、お酒の強制が大分減ってきているZ代は受け入れやすいと思うのですが、中年層はけっこう受け入れるのが大変なのではないかな。

強いお酒と量を飲めたらかっこいいと思っていたのが、飲まないのがクールなんて言われたら、オイオイ(ちょっと待って)って感じですよね。

でも、本当にグローバルな時代に新しい価値観が出てきて、若い人たちにそれが広がってきていることを考えると、おそらく先輩や上司世代にあたる方たちは、自分たちの持っていた価値観とは真逆かもしれないけれど、そういうのがクールになってきたんだぞ、というのを理解しておくことは、今後、彼らに先輩や上司として接する上で大事なことになってきますよね。これからは、『俺もソバーキュリアスなんだ』って言ったら、話が弾むなんてことがあり得るわけです。

一方で、先ほどの調査の中に、お酒を飲まない人も、意外とお酒の場を楽しんでいるという結果も出ていました。日本酒が好きな人は今までどおり頼めばいいし、同時にソバーキュリアスという概念も肯定して、日本酒と炭酸で乾杯してもいいわけですよね。平たい言葉で行ってしまうと『多様性』ということになりますが」

――みんなが、お酒の場でも多様性…いろいろな概念があることを受け入れたうえで楽しめたら理想的ですね。

原田「もともと欧米は個人主義的なところがあるのに比べ、日本を含む東アジアは強制的な圧力が強いので変わっていくのに時間がかかるかもしれませんが、確実にZ世代の子たちは、世界の若い方たちと同じ情報を見ている子たちが増えて感覚がグローバルになっている。

そういう意味では、価値観という点では下の世代からしか変わっていかないんじゃないかなとも思いますね」

――コロナ禍でお酒を出せない流れで、モクテルのペアリングが広がったりしましたが、ジュースやお茶以外のノンアルコールドリンクの楽しみ方は、もっと広がっていくと思いますか?

原田「広がっていくと思います。が、戻らないといいなとも思っています。

今までは、コロナ禍を理由に上の世代の人も下の世代の人も、ノンアルコールで行かざるを得ないっていうシチュエーションがありましたが、『コロナ禍も明けたし、お前、酒飲めよ』ていうふうに戻りかねない方もいらっしゃると思うので。

コロナ禍が本当に明けたら、インバウンドも移民ももっと日本に増えるでしょうし、本当に多様性を受け入れなければならない時代になります。コロナ禍にとうとう日本の出生数も80万人強という数字になりました(※)。なので、今後の日本はいろんな人の力を借りて生きていかなきゃいけないってことを考えると、元に戻るんじゃなくて、先に進むといいですよね。

お酒を飲むこと自体が悪いのではなく、日本や韓国など、東アジアは強要カルチャーが強すぎたんですよね。韓国は特に儒教の影響が強いので、先輩に飲めと言われたら飲まないといけないし、先輩から顔を背けて飲むマナーだとか、もっと日本より残っています。喫煙率も高いですしね。

そう考えると、日本より韓国の若い子のほうが強制されるシーンが多いだけに、『ソバーキュリアス』という概念を現実的に求めている気がしますし、欧米に加え、韓国でも流行ったら間違いなく日本の若い子にも流行りますね。必要としている人が多いところで流行って、そこから日本に広がるという構造だと、非常にロジカルに物事が進んでいる感じがしますね」

※第二次ベビーブームの昭和48年の出生数は200万人強 

―お酒を飲まない『ソバーキュリアス』が広がっても、お酒を飲む理由の一つである気分転換や、爽快感がほしいときは炭酸水などを飲む方が増えるでしょうか。

原田「アメリカでGoogleが週何回かは出社するようにしたりとか、コロナ禍が落ち着いたら、ある程度以前のように対面する機会は増えるでしょう。それでも確実に、毎回実際に会うのではなく、今回はZoomでいいよね、という選択も残るはず。そう考えると、すべての人間が、コロナ禍前よりは1日家にいるシチュエーションが増えるでしょうね。

そうなると、やっぱり家で何か飲んだりして、気分転換というのはすごく必要になってくると思います。

今日はずっとコーヒー飲んじゃったから、少し爽快な感じがほしいとか、スイッチになるとか、Zoom飲みで気分を入れ替えるとか、そういう意味で、炭酸飲料の価値っていうのが、今までより切り替えという意味で上がってくるという気がしますね」

思えば、お酒の場でも最初の乾杯はシャンパンなど泡ものだったり、とりあえず一杯めはビールだったり、炭酸飲料は場の切り替えの役割を担っている。ノンアルコールの場でも、それは同じことなのかもしれない。

自分の価値観そのものを変えることより、多くの概念を受け入れ、認め合うことが求められるグローバル時代。その第一歩として、いろいろな概念の存在を「知る」ことが大切だ。今回は「ソバーキュリアス」について取り上げた。

ウィルキンソン タンサン #sober スパイシーレモンジンジャ 450mL 希望小売価格104円(税込)

■教えてくれた方

原田曜平さん/マーケティングアナリスト
慶応義塾大学商学部卒業後、株式会社博報堂に入社し、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務める。退社後、 2018年 12月よりマーケティングアナリストとして活動。若者研究とメディア研究を中心に、次世代に関わる様々な研究を実施。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング。「さとり世代」「マイルドヤンキー」の名付け親でもある。著書に『 Z世代 若者はなぜインスタ・ TikTokにハマるのか?』 (光文社新書 )。

取材・文/安念美和子(nenko)

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