【連載】もしもAIがいてくれたら
【バックナンバーのリンクはこちら】
第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第42回:電気自動車はコンピュータか?それとも家電か?
桜の開花予想、民間AIはどんなことを行なっている?
今年もコロナ禍に桜の季節を迎えてしまいました。
桜の開花時期を気にしながら、お花見の計画を大々的に立てる、ということは残念ながら難しそうです。でも、桜の開花予想の話は、テレビの天気予報でもネットや天気予報アプリでも目にします。
近年は、桜の開花予想にAIが使われています。AIが気象予報士の職人技を超えられるか?という挑戦のような形で、AIによる開花予想が2018年に始まっていたようです。
島津製作所の100%子会社の島津ビジネスシステムズは、同社が運営する気象情報サイト「お天気☆JAPAN 」で、AIを使った桜の開花予想サービスを提供しています。2018年は、AIの予想は適中率31%で人間の予想が2010年〜2017年の平均値で37%であったため、人間の予報士に完敗したということでした。その後は機械学習のモデルを変えることによって精度は向上しているようです。
2021年の同社のプレスリリースによると、全国約1000会場から13年間にわたって収集された桜の開花状況に関するデータ約127万件、1998年以降に全国のアメダスから収集された約10万件の気象観測データなどを使用し、桜の「休眠」、「休眠解除」、「花芽発育」の各ステージと、気温をはじめとする気象の変化パターンの関係をAIに学習させることで独自の予想を行い、毎日最新のデータに更新されているとのことです。
2022年については、同社のプレスリリースによると、東京は 3月22日(平年より2日早い)、名古屋が 3月22日(平年より2日早い)、大阪が3月27日(平年と同じ)、京都が3月29日(平年より3日遅い)で、最も開花が早いのは高知で3月18日、最も開花が遅いのは青森で4月19日と予想しています。
AIは明るいテーマに使ってほしい
AIを使ってまで桜の開花を正確に予想する必要があるのか? むしろ幅があった方がお花見が密にならなくていいのではないか? 桜の開花予想AIでビジネスになるのだろうか?など思ってしまったりもしますが、個人的にはよい取り組みだと思います。
このサービス自体を販売して利益を生もうということではなく、島津ビジネスシステムズによると無償提供サービスということです。無償なら見る側も損をすることはないですし、AI技術の向上、モデルの検証には、桜の開花予想のような大きな害がなさそうなことでトレーニングするというのは良いことだと思います。
こういったサービスの精度向上を通して、そのサービスを提供している会社の他のサービスの技術の高さもPRできると思います。AIが外れても当たっても、桜の開花というのは、何より、明るいニュースです。
毎日、ロシアによるウクライナ侵攻の暗いニュースに触れ、戦争の恐怖を身近に感じるようになりました。AIが様々な形で戦争に使われうる話は、この連載でも取り上げました。平和の象徴のような桜の開花予想にAIが使われるということは、心が和むニュースです。AIのような高度な技術が、戦争ではなく、平和なことに使われる世の中であってほしいものです。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。