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家賃の高騰、アパート争奪戦、物件詐欺、ベルリンで住宅難が市民の死活問題となっている理由

2022.03.15

住宅難のベルリンで--クリエイティブに抵抗する市民たち

家賃の高騰がとどまるところを知らず、アパートの見つかりにくさは日に日に酷くなり、住宅難がそこに暮らす人々の死活問題となっているベルリン。

だいたいの野菜、乳製品、肉もビールもパンも、日本よりお安く買える街ですが、家賃はというと東京23区と同じくらいで、それはここ10年の間に倍以上にも跳ね上がった結果です。

住宅難はジェントリフィケーション(土地の高級化、資本的価値の上昇)によって引き起こされていて、自由で小汚く混ざりあうアーティスティックな街に惹き寄せられて集まった、私を含むこの街を愛してやまない人々が、それに寄与してしまっていることは悲しく大きな皮肉。

結果、投機目的での建物の買上げが横行し、街からベルリンらしい景色やベルリンらしい人々がはじき出されようしている、そのことを考えるとやりれない気持ちにもなるのです。

市ではこの状況を憂慮して2020年、独自に「Mietendeckel (=レント・キャップ、家賃蓋)」という、つまり家賃の一定額以上の値上げを禁止する条例を敷きましたが、ドイツ連邦憲法裁判所より自治的な家賃規制を無効とする判決が出てしまい、右肩上がりに上がり続ける家賃は多くのベルリナーを苦しめ続けています。

しかしまた、これに対する人々の抵抗も多様にして苛烈。

デモや集会、グラフィティ、ステッカー、アート、あらゆる表現で意思表示が行われ、レント・キャップ無効判決の際には蓋になぞらえ鍋蓋をガンガン鳴らす人で道が埋め尽くされたり、大手不動産会社が所有する3000戸のアパートをベルリン市が公に収用するという案への住民投票を求め、署名運動が巻き起こったりしました。

写真1:私も参加した住民投票を求める集会。大胆にもドイツ屈指の大手不動産ドイチェ・ヴォーネン社の名前を冠して「ドイチェ・ヴォーネンを収用しろ!(DWE)」と謳います photo by Satoru Niwa

家探しは最初にして最大の難関

住宅難は家賃高騰以外にも厄介な現象を引き起こしています。

特にこの地にきたばかりの人を狙った多くの物件詐欺が、あの手この手で襲来するので、アパート争奪戦に挑むニューカマーは細心の注意が必要です。

住む場所探しはこの街へやってきてぶちあたる、最初の、そしておそらく最大の難関。

あらゆる努力が必要となり、まずはシェアハウス、シェアアパートを拠点にして、オンライン掲示板、賃貸物件サイト、facebookなどSNSコミュニティも駆使し、それらを頻繁に(時には文字通り数秒置きに)覗き、よさそうな募集があればただちに連絡。

タイミングは何よりも重要です。

内見には希望者が大挙して集まり、部屋やアパート前はオーディションさながらの様相に。

「パーティーをしない」、「綺麗好き、掃除好き」などといったアンコンシャスバイアスで、日本人は比較的部屋を探しやすいという噂を耳にしたこともありますが、最終的に私が部屋を借りることができたのは、アニメをこよなく愛する家主からでした。

巧みな物件詐欺にご用心

部屋探し狂想曲の中、血眼になっている人間が注意しなければならない物件詐欺ですが、危うく騙されそうになった経験は私にもあります。

シャルロッテンブルクに位置する映画に出てきそうなロマンティックな屋根裏の部屋が物件サイトに掲載されていて、条件ピッタリだったのですぐに連絡。

話はトントンと進み、下見をしようと詳しい住所(番地までしか記載されていなかった)を問い合わせたところ、「今ベルリンを離れていて、以前部屋の場所を細かく伝えたところ、留守を狙われて家具を全部盗まれたので、番地までしか教えることができない」と返事がありました。

部屋が見つかるかも! と高揚していた私は「それは大変だったね〜」と、まったく疑わずに大体の場所だけでも見ておこうと現地へ。

いざ行ってみると、そこはシャルロッテンブルク宮殿の真隣り……。

今となると笑えてくるのですが、実はこの後に及んでも希望に目が眩んだ私は詐欺に気づけずにいたのでした。

初めて違和感を感じたのは請求書が送られてきた時。

トリップアドバイザー経由でデポジットを振り込めと請求書をよこされたのですが、トリップアドバイザーのフクロウのレターヘッドが、水をかけられたみたいにじわっと滲んでいる。

よく見ると文字もなんだか貼り付けたみたいに浮いている。

振込先も家主が今いると話していた場所とあからさまに違う。

お金を振り込む段になってさすがに少し冷静になり、よく点検すると胡散臭さしかないことにようやく気が付き、掲載サイトに報告。

その後現地の友人に「鍵をもらう前に金を払ってはいけない」と教わりましたが、海外で初めての家探しとなれば焦りのあまりうっかり騙されてしまう人は少なくないと思います。

手口は日々巧妙化しているはずなので、念には念を入れて慎重になることが大切。

一旦契約にこぎつけることができれば、アパート自体は広々としてよく手入れされた美しい部屋が多い Photo by Satoru Niwa

どうなる? 市民と大企業の正面対決

上がり続ける家賃の今後に話を戻します。

市のアパート収用の是非を問う住民投票は不屈の草の根運動によって実現し、2021年の9月末、56.4パーセントの賛成によって可決されました。

つまり市民が、壁崩壊から徐々に民間へと下ろされてきた住宅の再市営化を望み、その声を形にして政治に突きつけたということ。

投票結果自体に法的拘束力はありませんが、これだけ多くのはっきりした市民の意思を市議会は無視できないでしょう。

法制化されれば、民間が貸付けていた24万戸もの物件が公営化される可能性もあり、このベルリン市民と大企業とのガチンコ勝負の行方に世界から注目が集まっています。

詐欺師のあの手この手もすごいけど、街をベルリンらしくあり続けさせようとする市民の闘争も、この上なくクリエイティブかつ理知的なのです。

文/山根那津子

ジャーナリズム誌やカルチャー誌の編集をしていた何者でもないただのフェミニスト。自身のミソジニーに気がついて一時ベルリンに移住。書くこと、描くことが好き。

編集/inox.

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