■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
「2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤー」のイヤーカーに輝いた日産「ノート」は、以前から本連載でも高く評価していたクルマだ。パワートレインをe-POWERシステムに一本化し、さらにシステム全体を洗練させて、静粛性もパワーも向上させた。
そして、昨年秋、シリーズに「ノートオーラ」が加わった。「ノート」を高性能にした上級版である。「ノートオーラ」のボディーは「ノート」よりも40mmほど幅が広い。並べないとわかりづらいが、「ノートオーラ」はフロントフェンダーが張り出している。
トレッドも20mm広げられている。そのために「ノート」は5ナンバーだが、「ノートオーラ」は3ナンバーとなっている。手間を掛けて「ノート」と「ノートオーラ」で造り分けているのだ。
機械として優れているか? ★★★★★ 5.0(★5つが満点)
それが走りに劇的に現われているかというと、何とも言えない。はっきりと違いを感じるのは、モーターのパワーアップ分だろう。最高出力116ps、最大トルク280Nmの「ノート」に対して、「ノートオーラ」は136ps、最大トルク300Nmと増強されている。発電オンリーのエンジンは1.2ℓ3気筒の同じものが搭載されている。
「ノートオーラ」のほうが加速は鋭く、速いことも体感できる。しかし、慣れてくると巡航時にはアクセルペダルを抑え気味に踏み込むようになる。なぜならば、バッテリーに十分な電気量が蓄えられている時にはエンジンは始動せず、モーターだけで走る制御が組み込まれているからだ。
電気が減ってきたり、急加速や長い登り坂などで電気の消費スピードが速まると、充電のためにエンジンが回り始める。なるべく静かに走りたいから、可能な限り、エンジンは回したくない。そう思うと、加速は必要最小限で済ませたくなるのだ。
「ノートオーラ」に乗ると、特に静かに走りたくなる。エンジンが回っておらず、路面が滑らかな道だと「ノートオーラ」はとても静かに走る。運転席と助手席の窓ガラスにラミネートガラスが用いられていることが大きく貢献しているからである。
ラミネートガラスは、ガラスとガラスの間にフィルムを挟んでいて、普通のガラスよりも格段に静粛性が高い。モーターだけで走っている時に、特にその恩恵を感じる。当然、コストは嵩むので、高価格車に採用される例が多い。加速の速さよりも静粛性の高さこそが、筆者は「ノート」からのアドバンテージだと認識している。
「ノートオーラ」は見た目も違っていて「ノートオーラ」のヘッドライトはアダプティブタイプのLEDだから、薄い。「ノート」は通常タイプだから、厚みがある。当然、「ノートオーラ」のほうが高級感がある。
商品として魅力的か? ★★★★ 4.0(★5つが満点)
「ノートオーラ」は、初めての「小さな高級車」を実現した日本車なのかもしれない。「小さな高級車」は長年の日本車の目標だった。大きな高級車は当たり前だが、小さくても走りが良く、各部の品質が高いクルマは、今までありそうでなかった。小さな高級車を自称するクルマもあったけれども、ベースとなったクルマのボディーが違うだけだったり、質と内容が伴っていなかったりした。
「日本車業界では、“クルマの大きさと価格は比例するもの”という固定観念が売る側にも買う側にも強過ぎて、実現が難しいのです」と日本車メーカーの商品企画担当者が諦め気味に話すのは、いつものことだった。
でも「ノートオーラ」はかなりいい線をいっている。キチンと実が伴っているし、走りっぷりも、e-POWERの特性を活かしている。
ただ、不満点もないわけではない。試乗した「ノートオーラ」はレザーエディションという、シートに革を用いたものだったが、この革のタッチがあまり良くない。加工し過ぎているのか、手触りが革っぽくなくビニールのようなのだ。
木目調パネルや織物のトリムも悪くはないが、BMW「i3」をはじめとするヨーロッパ車が何年も前からすでに行っている既視感の強いもので、ここはひとつ何か「ノートオーラ」ならでは、日産ならではの新しい提案が欲しかった。
予算に余裕がある人は「ノート」より「ノートオーラ」を選択することを自信を以てお勧めしたい。ただ、良い商品に仕上がっているのだが、欲を言えば、もう一歩踏み出して何か新しい試みや提案が欲しいと感じた。
◼関連情報
https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/aura.html
文/金子浩久(モータージャーナリスト)