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シンプルにクルマの楽しさを追求し続けるマツダ「ロードスター」の魅力

2022.03.10

ロードスターを語るには、「伝説」という言葉しかないだろう。2016年には世界で最も売れている「2人乗り小型オープンスポーツカー」として生産累計世界一の100万台を達して、ギネスブックに認定された。まさにロードスターほど世界的に祝福されるオープンカーはないはずだ。

日本流の解釈が、いつまでも残る名作を生む

冬季オリンピックの開催年になると、必ず思い出す映画がある。1968年、フランスで開催されたグルノーブル冬季オリンピックの記録映画「白い恋人たち」である。桑田佳祐が2002年にリリースした「白い恋人達」とはまったく関係がない。

監督はフランス恋愛映画の代表作「男と女」を始め数多くの作品を残してきた名匠、クロード・ルルーシュ。そして同名のメインテーマ曲は、監督とのコンビでも知られるフランシス・レイが作曲を手掛けた。ただただ淡々とアスリートたちが戦う姿を流し続けるだけの記録映画なのだが、そこに哀愁を帯びたシャンソン風のメロディーと、作詞者のピエール・バルーとニコール・クロワジールの歌唱が優しく寄り添う(コーラス版)。

つまり「男と女」の演出チームが総掛かりで制作した作品なのだが、そこからはスポーツの爽やかさや、勇ましさをほとんどイメージすることはなかった。そして歌詞の途中に「もう、パーティは終わりだ。13日の後、フランスは日常に戻る。本音では大好きだった昔ながらの日常に~」という訳詞を目にしたとき、熱狂に満ちた祭りが終わる寂しさと、日常に戻る安堵感が入り交じった空気感を演出に、すっかり魅了された。これがフランス流儀か……。この映画が日本で公開されると大きな話題となり、テーマ曲「白い恋人たち」はその後、何年にもわたってスキー場のナイター営業では定番BGMとして流れ続けた。いや、ある友人は最近でも聞いたことがあると言っていた。

ところが後に、この映画の原題を知って少々ショックを受けた。これだけ大きな影響を受けた作品なのに「フランスの13日間(13 Jours en France)」という、元も子もない原題だったからだ。仮にこのまま直訳され、日本で発表されていたらと思った瞬間、「よくぞこの邦題を付けてくれた!」と感謝した。洋画に与えられた邦題の中には、唖然とするものも結構あるだけに、まさに秀作である。日本流の解釈の勝利だと思った。

実は他にも絶妙なる「日本的解釈」によって、大成功した存在がある。日本名、マツダ・ロードスター、海外名はMX-5である。純粋に走る歓びを体現したライトウエイト・オープンスポーツとして、1989年に発売されて以来4世代に渡って国や文化、さらには世代を超えて世界中のドライバーから支持されてきた1台。ヨーロッパで進化し、発展してきた軽量オープンカーの魅力を、肝心のヨーロッパ自身が忘れかけようとしていたとき、マツダが自らの流儀によって仕上げ、そして世界を覚醒させた名車である。

「軽さ」という性能の心地よさを知る

もし初代モデルが登場しなかったら、その後の小型オープンカーの世界はなかったかもしれない、と言われるほどの衝撃とともに登場したマツダ・ロードスター。メルセデス・ベンツのSLK、ポルシェのボクスター、BMW Z3、そしてアウディTTなどの誕生にも大きな影響を与えたことを、否定する人はいない。

そんなロードスターも現在、NDとファンの間で呼ばれる4代目が誕生して、すでに7年経過した。それでもデザインは今も佇まいやデザインに古さは感じない。なによりマツダは、年次ごとに細かな改良を与えながら進化させることがお得意のメーカー。走りにおいてもつねに魅力を失わないように努力を重ねてきたことで古く見えないのであろう。

そして昨年末、マイナーチェンジ版のロードスターとロードスターRFが登場したことで、その鮮度は無事に保たれた。車両重量が990kgという特別仕様車「990S」を始め、技術的には全車に「キネマティック・ポスチャーコントロール(KPC)」というシステムを搭載するなど、いくつかのトピックがある。とくにKPCはコーナリングの際にロールを低減させるように働き、タイヤの接地性を上げつつ、安定した旋回姿勢を実現するというもの。コンパクトボディなオープンカーが持っていた、走る楽しさをより輝かせた進化なのである。

そんなことを考えながら「Sレザーパッケージ」のMT車のシートに体を収める。軽さが自慢の990Sよりも30kg重いが、それでもシートヒーターもナビもオートエアコンも装備され、一般的なグレードだと思う。

いざ走りだしてみると132馬力の1.5リットルの軽快に回転が上昇するエンジンと、カチカチと小気味よく決まるマニュアルシフトのお陰で、相も変わらぬ心地よさを堪能できるのだ。確かに1トンを切る990Sの軽さも魅力ではあるが、普段使いを考えるとこの仕様が一番ふさわしいと思った。当然だが新機構のKPCの効果で、コーナリングは実に安定感があり、切れよく旋回していく。これほどの心地よさを独り占め、いや二人だけで楽しめるのだから、価格だけでは測れない贅沢な存在である。

これが7年目のクルマか? 試乗を終えてまだまだ色褪せることなく輝き続けるコンパクトな2シーターオープンを眺めていると、自らの立ち位置を見失うことなく、愚直に進化する道を選んだマツダ流解釈の素晴らしさを思い知らされるのである。今後、電動化や自動運転と言った変化を確実に求められることになる。だが、自動車が自動車で在り続ける限り、小さく軽く軽快なオープンエアーという楽しみは消えることがないはず。フルモデルチェンジも噂されるロードスター。どうあれ、あの白い恋人たちのようにいつまでも愛されることを祈る。

7年目となっても古さを感じさせないエクステリアデザインには大きな変更点はない。

ブラックメタリック塗装を施された16インチアルミホイールが足元を引き締める。

ソフトトップはオープンカーならではのエレガントさを表現できる。

S Leather Packageは快適装備が充実した上質なレザーシートモデル。

タコメーターを中央に置いた丸型3連メーターといえば、スポーツカーのお約束レイアウト。ひょっとしたらこのアナログメーターも、もう見られなくなるかも。

ロードスターを選択するユーザーの約7割がMTをチョイスするという。

トップエンドの7,500回転までスムーズに回転を上げる1.5リットルエンジン。このレスポンスの良さも心地いい走りを支える。

55cm×40cm×22cmサイズのソフトタイプのキャリーバッグが2個詰めるトランク。

(価格)
3,191,100円(sレザーパッケージ/MT/税込み)

<SPECIFICATIONS>

ボディサイズ全長×全幅×全高:4,550×1,800×1,415mm
車重:1,020kg
駆動方式:FR
トランスミッション:6速MT
エンジン:直列4気筒DOHC 1496cc
最高出力:97kw(132PS)/7,000rpm
最大トルク:152Nm(15.5 kgm)/4,500rpm
問い合わせ先:マツダ:0120-386-919

TEXT : 佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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