【連載】もしもAIがいてくれたら
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第1回:私、元いじめられっ子の大学副学長です
第41回:トヨタが国内全工場の稼動を停止、我々はサイバー攻撃リスクにどう備えるべきか?
クルマというカテゴリを超えた存在になった「EV車」
韓国というと、最近は大統領選が話題ですが、先週日曜日、韓国の現代自動車、ヒョンデの原宿ポップアップストアHyundai House Harajukuに行ってきました。ブランド名を以前のヒュンダイから、より韓国語の発音に近いというヒョンデへと改めて、12年ぶりに日本市場に再参入とのことで、どんな感じなのかと気になって行ってきました。
Hyundai MobilityとLIFEMOVES. Peopleとのコラボレーションによる、新しいライフスタイルの提案というコンセプトのショールームになっていました。「自動車」というよりも、お料理したり、働いたり、家のような空間を打ち出していることがわかります。
IONIQ5に試乗した際に説明していただいた特徴は、内燃エンジンを積んでいないからこそ実現できるというフラットフロア、スライドコンソールなどを適用した、搭乗者の状況に合わせて最適なスペースを作れる住空間のようなデザインでした。内燃エンジンの狭い空間のクルマに乗っている私には魅力的に感じました。
IONIQ5の顔
IONIQ5のロボット的なテール
画面が大きくて見やすいコックピット
※筆者撮影
ショールームの中で説明していただいた機能の中で印象に残ったのは、最大1.6kWの消費電力を提供するという室外V2L(Vehicle to Load)で、ドライヤーを繋いで見せてくださいました。家の中の電気そのもの、動く住空間、という印象でした。
以前、アメリカのEV車テスラModel3について、本連載で紹介した際、「クルマというよりコンピュータ」と表現しましたが、クルマは、「電気自動車」になったとたんに、これまでのカテゴリを超えたさまざまな可能性が広がることをあらためて実感しました。「電気で動くコンピュータ」、であったり、「電気で動く住空間の一部」であったり、もしかしたら、さらなる可能性があるかもしれません。
AIはオーバースペックだから必要ない
AIの出番があるのはコンピュータとしての側面を打ち出したEV車なのだと実感したのは…IONIQ5に試乗した際に「AIは使われていますか?」と聞いたところ、「検索などの時の音声認識でしか使われていません」と言われた時でした。家の中の電気、動く住空間にとっては、自動運転に繋がるようなAIは必要ないし、むしろオーバースペックでリスクの大きい投資なのかもしれません。
ただ、IONIQ5の外観は、ロボット的な斬新なデザインと感じたので、住空間路線というより、AIロボット路線で攻めてほしかったかも、と思いました。お土産にいただいたブロックも、組み立ててみたらIONIQ5風のロボットでした。
テスラのようなコンピュータ型のクルマは、ソフトウェアの更新があったりで、コンピュータが苦手な世代にはデメリットがあるかもしれませんが、クルマを常に最新の状態に更新できるというメリットもあります。しかし、ソフトウェアは更新できますが、外部のデバイスに電気を供給したりする機能を備えていないというハードウェア面は、後からは変えられないですよね。
エンジン型のクルマか、EV型のクルマか、EVでもどのような強みを持つものにするかなど、選択する際に悩みどころですが、クルマの可能性がさらに広がっていくワクワク感があります。
坂本真樹(さかもと・まき)/国立大学法人電気通信大学副学長、同大学情報理工学研究科/人工知能先端研究センター教授。人工知能学会元理事。感性AI株式会社COO。NHKラジオ第一放送『子ども科学電話相談』のAI・ロボット担当として、人工知能などの最新研究とビジネス動向について解説している。オノマトペや五感や感性・感情といった人の言語・心理などについての文系的な現象を、理工系的観点から分析し、人工知能に搭載することが得意。著書に「坂本真樹先生が教える人工知能がほぼほぼわかる本」(オーム社)など。