欧米では『キャンセルカルチャー』という行動が拡大しています。日本でも徐々に広まっている言葉ですが、何を表すものなのでしょうか?キャンセルカルチャーの概要や、具体例を紹介します。似たような現象『炎上』との違いも知っておきましょう。
キャンセルカルチャーとは?
『キャンセルカルチャー』という言葉は、英語の『Cancel(取り消し)』と『Culture(文化)』を組み合わせた比較的新しい英単語です。
では、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか?日本でも、似たような現象は発生しています。
問題を起こした個人・企業を排除する動き
『キャンセルカルチャー』は、インターネット上でよく見かける言葉です。主な意味合いとしては、個人・企業が過去に行った発言・行動を問題視し、排除しようとする動きを指します。
現在進行形の事柄への批判だけでなく、過去の発言・行動を問題とすることも多いのが特徴です。
キャンセルカルチャーは、司法的な判断に基づいた『社会的制裁』とは違う面もあり、『何となく嫌い』『気に入らない』といった曖昧な問題でも発生します。
例えば、人種・ジェンダーなどに関する差別的な発言、政治的な発言が対象になりやすいようです。
多くの人が批判することで、キャンセルカルチャーの対象になった相手が職を失ったり、営業の機会を奪われたりなどの問題も起きています。
特に、注目されやすい著名人・有名企業は、キャンセルカルチャーの対象になりやすいといえるでしょう。
SNSの普及により急拡大
キャンセルカルチャーの動きが広まったのは、『SNS』で個人が発言する機会が増えたことも関係しています。
SNSでは、著名人の投稿にも気軽にコメントできるため、一般人の意見を目にする機会も多いでしょう。個人の発言の機会が増え、誰かの否定的な発信に多くの人が同調することも、キャンセルカルチャーが拡大している要因です。
また、SNSでは過去の発言も簡単に確認できます。数年前の発言でも掘り返すことができ、問題となるのは直近のものだけではありません。
対象となる人物・企業が一貫した主張をしているかを確認する目的で、SNSでの発言をさかのぼる人が多いようです。
炎上との違いは?
日本でも、キャンセルカルチャーと似た現象として『炎上』があります。対象の人物・企業の発言・行動が問題視され、SNSやインターネットで批判される状態です。
キャンセルカルチャーと炎上の主な違いは、『制裁や謝罪を求めるかどうか』といえるでしょう。
炎上の場合でも、辞任や起用の取り消しを求める声が上がることはありますが、一方的な誹謗中傷や批判で終わることも多いものです。
キャンセルカルチャーは『不買』『講演や出演のキャンセル』など、具体的な否定が突きつけられるシーンが大半といえます。
キャンセルカルチャーの具体例
欧米や日本で『キャンセルカルチャー』と呼ばれているものには、どんな例があるのでしょうか?キャンセルカルチャーの始まりといわれる『#MeToo運動』や、日本での具体例を紹介します。
#MeToo運動
『#MeToo運動』とは、SNSの『#(ハッシュタグ)』に『MeToo』を付けて拡散するという運動です。『MeToo』は日本語で『私も同じ』であり、投稿者の意見に同調する意味合いを持ちます。
#MeToo運動のきっかけとなったのは、セクシャルハラスメントの被害を訴える著名人によるSNSの投稿です。『私も同じ被害に遭っている』と分かるように、同調して投稿する人は『#MeToo』を付けます。
#MeToo運動では、投稿者達の告発により、セクシャルハラスメントを行っていた人物が逮捕されるという結末を迎えています。
そこから一般の人達にも『#MeToo』が広まり、性的被害の問題を訴える手段として使われるようになっているようです。
東京オリンピック
日本でも、欧米のキャンセルカルチャーに似た動きは生まれています。東京オリンピックでは開催前に多くの問題が発覚し、複数の担当者が辞任となった問題を覚えている人も多いでしょう。
開会式の演出を手掛けていたミュージシャンが、過去のいじめ問題の告発により演出担当を辞退するというものです。
ほかにも、開会式・閉会式の演出を統括するディレクターの発言が、女性蔑視または特定の人物への差別的発言であると批判され、辞任となっています。
過去の問題や差別的な発言を否定する動きは、今後日本でも広がっていく可能性があるでしょう。
キャンセルカルチャーが注目される理由
キャンセルカルチャーが多くの人に注目される理由は、何なのでしょうか?社会に影響を及ぼす行動でもあり、良い意味でも悪い意味でも話題になっています。
社会や経済に大きな影響を与える
キャンセルカルチャーは、多くの人の訴えが社会や経済を動かす仕組みです。
著名人の出演や講演が、一般人の批判によりキャンセルされるなど、社会に大きな影響を与えます。また、特定企業の不買運動にもつながり、経済的な影響も多大です。
批判の声が高まると、対象の著名人を起用している企業・番組にも火の粉が降りかかります。多くの著名人・企業は、キャンセルカルチャーに注意を払う必要があるのです。
キャンセルカルチャー自体が批判の対象に
キャンセルカルチャーは、状況によって『キャンセルカルチャーをしている側』が批判の対象となります。行き過ぎた制裁と捉えられるケースもあり、是非が難しいのが要因といえそうです。
自分の意見に賛同する人が大勢現れると、気分がよくなって過激な発言に発展することもあるでしょう。批判による追放は前向きな対話ではないとして、警鐘を鳴らす著名人も多いようです。
場合によっては、攻撃の手段として使われることもあります。相手を差別的だと批判し、キャンセルカルチャーを呼びかけるのが一般的です。
意見が分かれるような場面では、キャンセルカルチャーを求める行為そのものが批判の対象になります。
キャンセルカルチャーの問題点
キャンセルカルチャーは、問題のある発言・行動に対して異議を唱える点では意味がありますが、場合によっては悪い面も出てきます。よくいわれる問題点を知っておきましょう。
一方的に誹謗中傷を受け排除される
犯罪に対する批判や、人道的見地に立った意見は必要な面もあります。しかし、キャンセルカルチャーは、一方的に相手を排除しようとする点が問題です。
文脈の誤解や、少数派の意見というだけで誹謗中傷の的となり、対象者が排除されるケースもあります。
司法で裁かれるような問題であれば、非難の対象となるのもやむを得ませんが、キャンセルカルチャーの場合は、排除した側が正しい行いをしているのか判断は難しいでしょう。
制裁に似た行動は、相手の人生を大きく変えることにもつながります。本当に罪として裁かれるような問題であるのか、考えることも必要です。
社会の分断が拡大する
キャンセルカルチャーの活発化により、社会の分断が進むという問題もあります。不愉快な言動を非難するだけでは、相手の真意をつかむことはできないでしょう。
世の中には、考え方の違う人間がたくさんいます。対話のない制裁が過激化することで、対立した意見を交換する機会が奪われる可能性もあります。
反対意見を持つ人との交流ができなくなると、ますます分かり合うことが難しくなります。問題によってはキャンセルカルチャーではなく、お互いに話し合うことで解決できるケースもあるはずです。
発言の機会が奪われる
キャンセルカルチャーの対象者は、一つの問題発言により長期間非難の的となる可能性があります。
公の場に姿を現すことや発言することを認めず、『問題のあった人物に発言の機会を与えることを許さない』側面もあります。
発言の機会を奪われてしまうと、反論や議論もできなくなってしまう恐れもあります。
構成/編集部