店や商業施設で拾われた落とし物の取扱いについては、「遺失物法」という法律でルールが決まっています。
今回は、落とし物の提出先・保管期間・お礼金額・引き取り手がいなかった落とし物の取扱いなど、遺失物法のルールをまとめました。
1. 落とし物の提出先は?
落とし物は、遺失者(落とし主)がわからない場合、拾った場所に応じて、施設占有者または警察署長に提出する必要があります。
①施設内で落とし物を拾った場合
施設占有者(施設の管理室など)に落とし物を提出します(遺失物法4条2項)。
(例)駅構内、デパート内、飲食店内など
②それ以外の場合
警察署長に落とし物を提出します(同条1項)。
(例)路上、公園など
2. 落とし物はどこで保管される?
落とし物を保管するのは、警察署長または特例施設占有者です。
①施設内で拾われた落とし物
落とし物の提出を受けた施設占有者は、遺失者に対して速やかに返還できない場合、原則として警察署長に落とし物を提出しなければなりません(遺失物法13条1項)。
この場合、警察署長が落とし物を保管します。
ただし、以下の特例施設占有者については、落とし物の提出を受けた日から2週間以内に警察署長へ届け出た場合に限り、自ら落とし物を保管することができます(同法17条、同法施行規則5条)。
・鉄道施設の占有者
・路線バス施設やタクシー施設の占有者
・フェリー施設の占有者
・空港施設の占有者
・百貨店や遊園地などの占有者
②それ以外の落とし物
警察署長が落とし物を保管します。
3. 拾われた落とし物の保管期間は?
落とし物の保管期間は、原則として3か月間です。
ただし、一部の物の保存期間は、例外的に2週間とされています。
3-1. 原則として3か月間保管される
落とし物が提出された場合、警察署長は、警察署の掲示場にて以下の事項を公告します(遺失物法7条1項)。
①落とし物の種類および特徴
②落とし物の拾得日時および場所
③落とし物を保管する特例施設占有者の氏名(名称)および保管場所※
※特例施設占有者が落とし物を保管する場合のみ
落とし物の保管期間は、原則として、上記の公告がなされた日から3か月間です(同条4項)。
なお、施設占有者が落とし物の提出を受けた場合、上記①および②の事項を、施設内の見やすい場所に掲示しなければなりません(同法16条1項)。
しかし、落とし物の保管期間の起算日は、あくまでも警察署における公告がなされた日であり、施設内での掲示日ではない点に注意しましょう。
3-2. 例外的に2週間で処分される落とし物もある
保管コストを削減するなどの目的により、以下の落とし物については例外的に、上記の公告日から2週間が経過すると処分されてしまう場合があります(遺失物法9条2項、20条2項、同法施行令3条1項、2項)。
・傘
・衣服
・ハンカチ、マフラー、ネクタイ、ベルトなどの繊維製品または皮革製品
・履物
・自転車
・動物※
※動物愛護法に基づく引取りの対象となる犬・猫は、都道府県または政令指定都市が引き取ります。
4. 落とし物を拾った人へのお礼金額は?
遺失者が落とし物の返還を受ける場合、落とし物の価格の5%以上20%以下に相当する額の報労金を、拾得者に対して支払わなければなりません(遺失物法28条1項)。
ただし、拾得者が落とし物を施設占有者に提出した場合には、拾得者と施設占有者がそれぞれ、落とし物の価格の2.5%以上10%以下に相当する額の報労金を請求できるにとどまります(同条2項)。
具体的な報労金額については、遺失者と拾得者が話し合って決めるのが一般的ですが、合意できない場合は訴訟等を通じた争いになることもあり得ます。
なお、拾得者が以下のいずれかに該当する場合、報労金を受け取ることができません(同法34条1号~3号)。
・その落とし物を横領したことにより処罰された者
・警察署長に対して落とし物を提出すべき場合に、拾得の日から1週間以内に提出しなかった者
・施設占有者に対して落とし物を提出すべき場合に、拾得の時から24時間以内に提出しなかった者
5. 引き取り手がいなかった落とし物はどうなる?
落とし物を引き取る遺失者がいない場合には、以下の順序に従って、落とし物の所有権を取得する者が決定されます。
①拾得者
警察署における公告日から3か月以内に所有者が判明しない場合(民法240条)、または遺失者が所有権を放棄した場合(遺失物法32条1項)には、拾得者が落とし物の所有権を取得します。
②施設占有者
施設占有者が落とし物の提出を受けたケースにおいて、公告期間の経過後に拾得者が権利を放棄した場合、または拾得者が拾得の時から24時間以内に落とし物を提出しなかった場合には、施設管理者が落とし物の所有権を取得します(同法33条)。
③都道府県(または国)
拾得者・施設占有者が落とし物の所有権を取得しない場合には、警察署の属する都道府県が落とし物の所有権を取得します(同法37条1項1号)。
ただし、法令の規定により所持が禁止されている落とし物については、国が所有権を取得します。
なお、以下のいずれかに該当する落とし物については、拾得者や施設占有者が所有権を取得することはできません(同法35条)。
・法令の規定により所持が禁止されている物
・身分、地位または一審に専属する権利を証する文書、図画または電磁的記録
・個人の秘密に属する事項が記録された文書、図画または電磁的記録
・遺失者または関係者と認められる個人の住所または連絡先が記録された文書、図画または電磁的記録
・個人情報データベース等が記録された文書、図画または電磁的記録(広く一般流通しているものを除く)
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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