2021.6~改正動物愛護法スタート!数値規制は3年後の完全施行に向けて
2021年6月1日~ついに改正動物愛護法が施行されました。
しかし、一部の数値規制については経過措置がとられ、完全施行は2024年6月までの延期が決まっています。
今回はこの法律について、具体的に何が変わったのか、なぜ3年かけた段階的な施行にしなければいけなかったのかなどを解説しています。
「改正」動物愛護法って何?
動物愛護法は、正式には「動物の愛護及び管理に関する法律」といいます。1973年の制定当初は動物愛護の観点ではなく、動物の適正管理に関する内容が主でした。
時代とともに「動物は物ではなく、ペットは家族の一員」という考え方が広まり、それに合わせて動物の権利や命を保護するための法律に変わっていきました。
しかし、今までの動物愛護法は具体性が薄く、愛護といいながらも現実的に動物たちを守れるような内容ではなかったのです。
例えば、動物を取り扱う業者に対しての決まりの場合。「十分な広さで」飼育する「必要に応じて」運動ができるようにする…などあいまいなもので、具体的なケージのサイズや、運動時間に関しては記載していませんでした。
そのため、劣悪な環境で繁殖させるブリーダーや、適切な医療を受けさせずに販売を続けるようなペットショップが知らぬ顔で営業をしていたのです。
―――これでは、本当の意味で動物を守るための法律とは言い難い。
多くの人のそんな声を受け、交付されたのが改正動物愛護法です!
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- 動物虐待に関する罰則の強化
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- 動物取扱業者に対するマイクロチップ装着の義務化
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- 生後56日以下の犬猫の販売を禁止(8週齢規制)
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- 動物取扱業者に対する数値規制
改正動物愛護法で変わった主なポイントは上記です。昨年、動物虐待に関する罰則が厳しく強化されたことは記憶に残っている方も多いかもしれませんね。
生後56日以下の犬猫の販売規制については、2021年6月1日から施行がスタートしました。
動物取扱業者に対する数値規制については、次の見出しで解説していきます。
数値規制は劣悪な環境での繁殖・販売を防ぐため
「数値規制」は、法律で具体的な数字を取り決めて、動物取扱業者にその内容を遵守させることをいいます。
例えば…
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- 寝床や休息場所になるケージのサイズ
犬の場合
タテ(体長の2倍以上)×ヨコ(体長の1.5倍以上)×高さ(体高の2倍以上) |
猫の場合
タテ(体長の2倍以上)×ヨコ(体長の1.5倍以上)×高さ(体高の3倍以上) ※1つ以上の棚を設けて2段以上の構造にする |
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- 従業員1人当たりの飼育頭数
犬の場合
20頭(うち繁殖犬は15頭) |
猫の場合
30頭(うち繁殖猫は25頭) |
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- 繁殖の回数、年齢
犬の場合
メスの生涯出産回数は6回まで。交配時の年齢は6歳以下。 |
猫の場合
メスの交配時の年齢は6歳以下。 |
などが数値規制の中身です。
実際にはケージや運動スペースの構造、従業員の就業時間に従った頭数の算出方法など、さらに細かい決まりがあります。
今までぼんやりとしていた「守るべき基準」をはっきりと数字で明記することで、それを守らない悪質なブリーダーやペットショップを法的に取り締まりやすくしたのです。
数値規制の目的は、生まれて一度も散歩をしたことがなく狭いケージに押し込まれている繁殖犬や、頭数が増えすぎて最低限のフードしか与えられず、病気にも気づいてもらえないで死んでいく犬猫をなくすことです。
数値規制により、人間の都合で醜悪な環境で生きるしかなかった彼らの状況が変わることが期待されています。
※環境省が公開している「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~」では詳細が分かりやすく書かれています
動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~
飼育頭数の数値規制に3年間の経過措置がとられた理由って?
数値規制の一部については、3年間の経過措置がとられることが決定しています。
経過措置とはつまり、段階的に実施しながら3年後には全業者(第1種動物取扱業の場合)が数値規制を守っている状態にするということです。
例えば飼育頭数については、来年2022年に犬30頭・猫40頭、再来年の2023年には犬25頭・猫35頭までとし、2024年に前述した数値規制の頭数になるよう規定されました。
※新規業者は今年6月より完全施行
では、なぜ経過措置がとられたのか?一番の理由は、業者からの反発の声が多かったためです。
従業員1人当たりの飼育頭数を守れず廃業を余儀なくされたり、数値規制を守るために反対に動物の遺棄や殺処分が増えるのではないか…
そんな意見が数多く寄せられ、今年6月の完全施行が断念されました。
メディアによると、数値規制の施行で行き場を失う繁殖犬や繁殖猫は13万頭にのぼるとも言われています。
改正動物愛護法に対する様々な意見
数値規制には、「中・小規模事業者の経営状況では厳しい」「現実的ではない」という業者側の根強い反対意見がある一方で、「もっと厳しい規制をするべき」「今のままでは解釈によって幅ができてしまう」という意見もあります。
人と動物の共生センターが獣医師を対象に行った改正動物愛護法に対するアンケートの中には、以下のような意見もありました。
「今回の改正で具体的な数値規制が設けられることは良いことだが、守られなければ意味がないと思う。罰則も同時に設けるかブリーダー・ペットショップに関する根本的な問題を解決する法案が必要だと考える。」
出典:獣医師を対象とした、数値規制に関するアンケート調査報告|人と動物の共生センター
ここからは、筆者個人の意見を交えてお話をします。
いくら規制をしても、それが守られなければ意味はないというのは確かにその通りで、なぜ数値規制が施行されたのかを理解してもらい、規制を守らせる体制を作る必要があるのでしょう。
実際に内容を見ても、従業員あたりの飼育頭数を制限する決まりがあるだけで、それを守らせるために何をしていくかという体制や具体策については伝わってこない印象でした。
「優良ブリーダーであればすでに守れていて当然のことばかり」とは言われますが、現状守れていない業者が多大な数だからこそ、経過措置に至ったという事実があります。
もし数値規制を受けて廃業ブリーダーや飼育頭数を減らす業者が相次ぐ見込みなのであれば、「殺処分が増えてしまう」ではなく、そうならないための体制を組むべきではと強く感じます。
受け入れ場所になるであろう愛護団体の支援に力を入れるとか、もしくは頭数を減らさずに済むように一時的に従業員の雇用を支援するとか。3年かけて里親募集の働きかけを国で積極的に行うとか…
「決まったことは守ってね」で割を食うのが守れない人間だけなら別に良いですが、この場合はそうではないので、ルールだけ決めてフォローなしでは済まないと個人的には感じています。
自分たちにできることを
日本の数値規制は、動物愛護の先進国であるアメリカなどと比較すると、甘いともいわれます。日本の愛玩動物に関する数値規制は今回が初めてということなので、まだまだ穴はあるのかもしれません。
個人的には、「猫は繁殖能力が高い動物であるため、年齢を基本とする繁殖基準」とされ、犬と違って繁殖回数の規定が無いことなどには大いに疑問です。
能力が高いゆえに、過度な出産・繁殖をさせられる危険がより高いとは考えないのか?ライトを当てて年中発情状態にさせられて仔猫を産み続けているという繁殖猫もいるのに(パブリックコメントにも書きましたが、反映はされなかったです…)。
8週齢規制にしても、日本犬は天然記念物の保存を理由として対象外になるというのは、ちぐはぐで納得しがたい言い分ですよね。
ただし、穴はあるにせよ、とにかく数値規制が施行されたことは変化です!
これに伴い、さらに今後に向けて行動をおこすことが大切なのではないでしょうか。
個人でできることとすると、「現状を知る」というのもまずは1つだと思います。
犬や猫をブリーダーからお迎えしようと考えているのであれば、オーナー側が飼育環境や動物の様子についてきちんと見極め、大切に育てている優良な業者さんからお迎えすることも大切だと思います。
もちろん、里親を待っている保護猫や保護犬は全国にたくさんいるので、ブリーダーさんにこだわらず愛情をもらって大切に保護されている彼らにもぜひ目を向けてもらいたいです。
改正動物愛護法については、施行した後さらに内容や体制を精査しながら、より改善していくことを強く願っています。
文/黒岩ヨシコ
参考リンク:
動物の愛護と適切な管理|環境省
第3次答申(動物愛護管理法の飼養管理基準に関する省令)の概要|環境省
「ペット業界の声届いた」 動物愛護法省令が施行延期へ、環境省が方針明かす 全商連や業界団体、さらに改善求め|全国商工新聞