オス猫、去勢しても問題行動を見せる個体は多い?
猫に関するコラムを、これまでいくつも書いてきた。
最近になって、色んな人から猫について質問をされる。
その大半は「獣医師さんなど、専門家に聞くのが一番ですよ」と返すんだけども、たまに自分の体験した事例を事細かに説明したくなる事案もある。
それがオス猫の去勢手術についての話だ。
特に猫を飼い始めたばかりの人には、ほぼ確実に「避妊・去勢はさせるべき?」という質問を受ける。
避妊と去勢をすることで、その個体の繁殖能力は失われる。
と同時に、繁殖期特有の行動を抑えることになるので、大声で交尾相手を探し回るということや、スプレー状のマーキングをそこら中にするということがなくなる。
飼い猫を管理する上では、自分が管理できる頭数を維持することがとても大切。
ついつい、愛する猫に対しては「この子の子孫を見てみたい」という親心というか、エゴのようなものが胸に去来する。
だけど、猫の性成熟はあっという間に訪れる。しかも年に何度も繁殖の機会がある。
瞬く間に、ネズミ算式に増えてしまい、結果として多頭飼育崩壊に陥ってしまった飼い主さんをこれまで何人も見てきた。
やっぱり、しっかりと今いる猫を大切にするためには、避妊と去勢は有意義と考えてもいい。
もちろん、単独飼育で、しかも完全室内飼いの場合は飼い主の考えに基づいて避妊も去勢もさせないでおくことはアリだけども。
……ところで、我が家には現在オス猫が3頭いる。
いずれも去勢手術を経ているが、意外と問題行動というか術後も繁殖に関する特有の行動を3頭それぞれが見せている。
人によってはその様子を見ても、去勢手術が成功したのか、失敗したのか、判断がつかない場合もあるかもしれない。
今回はそれを、失敗の事例ではなく「去勢手術をしても、術後にオス猫はこういう行動を見せる」という事例として紹介していきたい。
メス猫に見立てたタオルケットに求愛?
繁殖シーズンが近づくと、たとえ術後であっても去勢されたはずのオス猫が、特有の行動を見せることは決して珍しくない。
繁殖能力こそなくしても、オスとしての本能はどこかしら残っているという個体は多いもの。
たとえばオス猫は、メスと交尾する際に上にまたがり、メスの首元を甘噛みしておとなしくさせようとする。
ネックグリップと呼ばれるこの行動は、発情期中のオス猫がよく見せるアクションだ。
そしてネックグリップは、術後のオスでも実行することが知られている。
去勢手術を経ても、同居しているメス猫にまたがって後ろからネックグリップをするオスは珍しくない。
もちろん、既に去勢しているので交尾はできないんだけども……。
また、メスがいない場合でも、手ごろなぬいぐるみを見つけると同様の行動をとるオスもいる。
我が家では、タオルケットを自分で引きずっては、ネックグリップの真似事をしているオスもおり、繁殖シーズンにはしょっちゅう特有の大きな唸り声を出して励んでいる。
これ。人によっては「去勢失敗では?」と思うかもしれない。
しかしたしかに行動は術前と術後で一緒であっても、根本的に繁殖能力は喪失しているので、それはそれで正常ではないだろうか。
声はうるさいし、タオルケットをいろんなところに引きずり回すという行動はちょっと面倒だけど、別に去勢を失敗しているというわけではないと考えておきたい。
去勢手術後も、メス猫の匂いを嗅ぐと豹変するオス
メス猫は繁殖期に入ると、独特の声をあげながら発情し、オスを呼び求める。
この際フェロモンを分泌しているので、匂いでもオスを呼び寄せることになる。
去勢手術を経たオスの場合、そんなメスの鳴き声や匂いを察知しても、あまり関心を見せることがなくなる。
だけど例外もある。
去勢手術をする前に発情した経験のあるオスの場合、その後になって去勢しても、術後も相変わらず発情期のメスに過剰反応することは珍しくない。
この過剰反応は本当に顕著な個体になると、普段仲良くしている同居猫に対して苛烈な攻撃を加えたり、メスを求めて四六時中大声を出すほどにもなる。
あまりにも普段と印象が異なるので、初めて目撃する飼い主さんはきっと驚くことになるだろう。
もちろん、去勢手術後であれば仮に避妊していないメスと遭遇しても、子供が増える直接の原因になるといったことはないが……。
うちにもそういうオス猫がいるが、年に何度かあるメスの発情シーズンの際には、外からその匂いが入ってこないように結構注意している。
そのために窓も二重にしたし、玄関もガラス戸で二重にした。それでもフェロモンを感知されてしまうけど。
当該猫が一旦フェロモンを感知してしまうと、同居のオス猫たち相手にしつこく因縁をつけ、喧嘩を吹っかけてしまう。
その都度仲裁に入るが、日によってはこれが数時間おきに発生している。
スプレー行為も、術後に見られることは結構ある
発情している猫の特有の行動に、尿スプレーがある。
自分の匂いをマーキングするという大事なアクションではあるが、これを室内にやられると、匂いの問題で大変苦労することに。
しかしこれも、発情前に先んじて去勢手術をすることで、オス猫の場合はほとんどがスプレー行為自体を封印することができる。
これだけでもオスの去勢をするには十分すぎるほどのメリットがあると言ってもいい。
なにせあの特有の匂い。室内で何度もやられれば、24時間換気扇を回していても追いつかないぐらいだから……。
さて、もしも発情経験が既にあり、スプレー癖が身についてしまったオスの場合、去勢手術後はどうなるのだろう。
残念ながら一定の数のオスは、術後もスプレー癖が抜けないままになってしまうことも。
が、これも一概に手術の失敗とは言えない。
メス猫の影響に疎くなるためスプレーの頻度自体はやっぱり落ちる。
どうしても回数をゼロにすることはできないが、失敗と断じるのは間違いと感じられるレベルでは掃除がラクになる。
メス猫の発情に呼応するかのように、ほかのオスへのマウントに走るオス猫も…
メスが繁殖を試みるときに見られる、オス猫に対しての声とフェロモンのアピール。
ここまで紹介してきたとおり、去勢した時期によっては、術後であってもこのアピールを完全に無視できるオスばかりというわけではない。
中でも意外と地味に困るのが、繁殖期の去勢されたオス同士のマウンティング。
この時期になると、たとえ全頭去勢されていて、なおかつ室内飼育されているオス同士であっても、なわばり意識がやけに高まるのだ。
そのため、普段なら見せないような関係性の変化や、弱いオスがひっきりなしに強いオスに追い立てられるといった事態を生むことに。
こういう場合は叱っても意味がない。
ほとぼりが冷めるまで、それぞれ別の部屋で過ごしてもらうなどの対処を飼い主が行うしかないだろう。
おわりに
とにかく、飼い猫の避妊・去勢手術って何度経験しても慣れない。
筆者も術前に麻酔をかけられて目を開けたまま微動だにしなくなった飼い猫を見ては、毎回本当に不安になる。
また、生き物としての当たり前の機能である“生殖”を奪って良いのか、必ず悩んでしまう。
でも避妊も去勢も、飼育管理下の猫のストレスの温床となっている側面はあるし、もしも手違いで増えてしまっては元も子もない。
猫の避妊、去勢って今は多くの飼い主さんが通る道だ。
そして実際に去勢した後のオス猫の行動を見て、悩む飼い主さんもきっとこれからも出続ける。
ここで挙がった事例は、たしかに飼い主本人にとっては、何かしらの問題行動なのかもしれない。
ただ、それがイコール術後の失敗事例だというわけではないことは、ご承知おきいただきたい。
文/松本ミゾレ