語り継がれる未確認生物ジェヴォーダン
地球上には、まだまだ未知の生物。未発見動物が多く存在しているという。私たちが想像もつかないような謎を秘めた存在が、いつ襲い来るか分からないということだ。
今回紹介する動物もまた、その正体が未だに分からないものであるが、かつてフランスの一部を震撼させ、恐れられていた獣の話をしていきたい。
18世紀フランスを席巻したジェヴォーダンの獣
みなさんは、ジェヴォーダンの獣をご存じだろうか。
犬やオオカミに似た外見で、しかしその身体はそれらの何倍も大きいとされる未確認動物である。
2001年には同じ獣を題材とした『ジェヴォーダンの獣』というフランス映画も公開されていたので、名前をご存じという方も多いことだろう。
この獣、18世紀のフランス・ジェヴォーダン地方でたびたび目撃されていた獰猛な動物で、少なくとも数十人規模の人間を襲ったとある。
身体は牛ほどもあり、全体的なルックスはオオカミのようで、尻尾はライオンのそれと酷似すると伝えられている。
目立つのは大きな口と尖った犬歯で、赤い体毛に覆われていたとある。
どう考えても、この特徴をつなぎ合わせると私たちの知る、地球上のあらゆる獣とも異なることが分かるだろう。
ただし、顔立ちはグレイハウンドに似ているともあるため、そうするとたまたま大きく育った野犬では? という気もしないでもない。
もっとも、現存しているジェヴォーダンの獣を描いたイラストはグレイハウンドとはかなり異なった形相をしており「ほら、やっぱり怪物じゃん」と泣き出しそうになるぐらい怖い!
狂暴な獣の襲撃と、その討伐劇
ジェヴォーダンの獣の狼藉が最初に記録されているのが、1764年の6月1日のこと。
木の上から飛び降りてきた巨大な獣に女性が襲われそうになるが、このときはたまたま近くにいた雄牛の群れに怯んで退散している。
このため被害者は出ていない。
しかし同月末に少女が行方不明となり、のちに体を食い散らかされた姿で発見され、これを以てジェヴォーダンの獣は人々に恐れられるきっかけとなる。
この獣は人間を好んで襲い、家畜……特に牛にはあまり興味を持たなかった。
一説にはジェヴォーダンの獣によって88人が命を落としたというが、別の資料によると死者数はもっと多いともいう。
特に狙われやすかったのは女子供であった。
一個体がこれだけの人を襲い、命を奪った例は史上かなり稀で、実在が確認されている殺人巨大ワニのギュスターヴの300人殺害に次ぐ犠牲者数である。
恐ろしいことにギュスターヴはここ数年以内にまだ目撃されているわけだが、ここで話を件の獣に戻したい。
ジェヴォーダンの獣による被害は日に日に増えていき、1765年の1月にはとうとう民間の討伐隊が編成された。
当時のフランスの王ルイ15世は資金面でもこれをバックアップしたとされ、さらに王家は専門的な狩猟部隊も送り出している。
同年より獣に対しての本格的な作戦が展開されることとなったが、もっぱら仕留められたのは普通のオオカミばかり。
いくら退治してもジェヴォーダンの獣にたどり着かない。9月になって体長2メートル近いオオカミが討伐され「これが例の獣だ」と話題になった。
しかしこの年の終わりに、またしても獣による被害が発生してしまう。
それにこのとき仕留められたオオカミは、赤毛でもなかった。
結局何度か行われた討伐作業もうやむやなまま、ジェヴォーダンの獣そのものを討伐したという確たる証拠は得られないままとなった。
おわりに
ジェヴォーダンの獣の末路については、判然としないままである。
ある猟師は1767年にこの獣を殺処分したと主張し話題となったが、その概要についてはオカルトめいた話が多くて眉唾物である。
この猟師曰く、聖書を読んで祈りを捧げているときに獣が登場したが、獣は祈りが終わるまでじっと待っており、そのまま彼に撃たれたというのだ。
あまりに出来過ぎているので、この報告自体がデマ・捏造であると考えられている。
その正体はやはりオオカミであるという説も根強いが、この時代には既に絶滅していたはずのイヌ科動物である可能性も一部では指摘されている。
ジェヴォーダンの獣の正体は謎のまま。
ただ、大勢の女性や子供が、この獣に襲われて命を落としたという事実だけが残されている。
文/松本ミゾレ