誰も知らなかった生存犬の秘密
もともと猫好きな筆者ですが、最近ワンコに浮気気味。
柴犬のへそ天に癒されたり、サモエド犬の笑顔に元気をもらったり。そんなある日、いつものように可愛いワンコをネットで探っていたところ、ある情報が目に止まりました。
『2月24日は南極物語のタロとジロが極寒の南極に置き去りにされた日』
犬好きのみならず、ご存知の方も多い「南極物語」。
日本一有名なワンコのお話ですよね。ただ、この情報だけでは「ふーん、そうなんだ」という感じだったのですが、そのあと気になる情報に度肝を抜かれました。
『誰もが昭和基地で生きていた犬はタロとジロだけだと思っています。でも本当は違う。もう一頭、生きていたんです』
え、マジ!?
こう語ったのは、当時南極越冬隊で犬係を務め、現地で2匹と再会を果たした北村泰一九州大名誉教授。さまざまな検証の結果、タロとジロに続く“第三の生存犬”が存在していたというのです。
では、なぜ“第三の生存犬”の存在が判明したのか?
そして、なぜ今それが明らかになったのか?南極物語世代の筆者は俄然気になり、調べてみたところ一枚の写真に辿り着きました。
これはタロとジロと共に南極で暮らした「6頭のカラフト犬」。
日本中を感動に巻き込んだタロとジロの陰で、誰にも知られることなく極寒を生きた“第三の生存犬“がこの中にいたんです!
その犬とは果たして?
本題に入る前に、まずは改めてタロとジロの生還を振り返ってみましょう。
1957年から南極観測の越冬隊員と共に19頭のカラフト犬が南極・昭和基地で1年を過ごしました。しかし帰国の日、予期せぬトラブルのため15頭の犬たちは鎖につながれたまま、マイナス50℃になろうという南極に置き去りに……。
誰もが犬たちの生存を絶望視しましたが、1年後、タロ、ジロという2頭の兄弟犬が隊員と再会を果たしたのです。
ここまでは多くの方もご存知のはず。
ここからです!新たな事実が明らかになったのは。
実はこれまで、南極に残された15頭のうち、タロとジロの2頭が生き残り、
7頭は氷雪の下から遺体で発見され、残り6頭は最終的に「行方不明」と語られてきました。
これが、映画やドラマ、書籍などでも伝えられてきた定説。
「置き去りにされたカラフト犬の真実」…だったんですが、
タロジロとの奇跡の再会から23年後、驚愕の事実が明らかになったのです。
それは……
『昭和基地の近くで一頭のカラフト犬の遺体が見つかった』
…ですよね。
一体それがどうしたの?そう思うことでしょう。
でも、コレが何を意味するのか、よ〜く考えてみてください。
当時は発見されなかった新たな遺体が見つかった場所、それは、タロとジロが生活していた“昭和基地の近く“。
これまで、タロとジロだけが昭和基地に留まり、懸命に生き抜いたと思われていましたが、同じ場所で遺体が見つかったということは『タロジロと一緒に暮らしていたもう一頭の犬がいた』ということ。
そしてそれは、行方不明と結論付けられた6頭の中の犬だということ。
つまり、“第三の生存犬“は隊員との奇跡の再会を前に息絶え、タロとジロとの感動秘話の陰に隠れ、誰にも知られないまま生涯を閉じていたのです。
隊員との再会を果たせなかった犬が、この中にいます。
元新聞記者の協力を得て、長年に渡り“第三の生存犬”を調査していた北村名誉教授。御年90歳を迎える今年、その答えに辿り着いたのです。
ポイントはこちら!
・新たに発見された遺体は白っぽい中型犬
・昭和基地のそばで亡くなったということは保護本能が強くリーダー的存在だった
・さらに群れを守る本能に覚醒した犬
これらの情報から導き出された“第三の生存犬”とは…
『第三の生存犬は幼いタロとジロを見捨てることができず、自分の餌を与えて面倒を見ていたのかもしれない。それができるのは最年長のリキだけ。第三の犬はリキ以外、ありえない』
リキとは、第1次越冬中、当時まだ子供だったタロとジロに餌を与え、実の親のように面倒を見ていた最年長7歳のカラフト犬。とにかく王者の風格があったといいます。
心温まるタロとジロの物語の陰で、命を賭して2頭を支え続けた知られざるカラフト犬。
北村名誉教授は越冬隊犬係だった自分への償いを胸にようやく、第三の生存犬の正体を突き止めたのです。
しかし、なぜこの事実が封印されたまま明かされなかったのか?
それは、犬の遺体発見が南極観測史上最大の悲劇とされる福島隊員の遺体発見と前後していたこと、また、国の威信をかけた任務を優先しなければならなかったからと言われています。
そして最後にもう一つ、疑問が。
「なぜリキはタロとジロのそばに寄り添い、昭和基地から離れずにいたのか?」
行方不明になった他の犬同様、ベテラン犬なら餌のある場所に移動し、自分だけ生き抜くこともできたはず。。。
『リキが昭和基地に踏みとどまったのは、人間が戻ってくるのを待っていたからではないでしょうか』
基地に留まれば人間に再会できる可能性がある。そうすれば群れは守られる。
生きる本能、リーダーとしての冷静な判断が彼を基地にとどめた。北村名誉教授はそう語ります。さらに、、、
『私を待っていたんですかね…もう一度、ソリを曳くために』
あまりにも切なすぎるリキの最期。タロジロの奇跡の生還だけに感動していた後悔。
今回、誰も知らなかったリキという第三の生存犬が明らかになりました。
そんなリキについて、最後、北村名誉教授はこんな言葉を残しています。
『タロとジロのことは多くの人が知っているが、リキのことを知る人は少ない。リキも同じように極寒の昭和基地近近くで必死に頑張って生きようとしたことを、多くの人に知ってほしい』
こちらもチェック!
衝撃!南極物語には猫もいた!「タロとジロと一緒に南極に行った三毛猫たけし」
参考文献・協力
小学館集英社プロダクション『その犬の名を誰も知らない』
著者:嘉悦 洋/監修:北村 泰一
国立極地研究所
https://www.nipr.ac.jp
国立極地研究所南極・北極科学館ブログ
http://science-museum-blog.nipr.ac.jp/.s/blog/
西日本新聞夕刊 2018/10/13付
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/457285/
取材・文/太田ポーシャ