中国で流行した「猫鬼の呪い」
猫という動物の神秘性は、今も昔も多くの人々を魅了している。
その魅力はとても語り尽くせるものではないが、ある方面においても、他の動物とは一線を画すレベルで重宝されてきた事実がある。
それは呪術だ。
古くはヨーロッパで、猫が魔女の使いだという根も葉もない噂を立てられて大迷惑した時代もあったが、こういう偏見は何も限定的なものではない。
古代中国においても、猫は不思議な魔力を持つ動物として認識されていたようなのだ。
中国における猫の怪異譚
紀元前のエジプトで誕生した家畜の一種である猫は、長い年月をかけて世界中に拡散し、主にペットとしての地位を確立することになる。
アジア大陸においてもかなり早い段階で流入・分布しており、私たちの祖先もその愛くるしい魅力にやられていたことが窺える。
しかし中国においては、その猫を危険視する風潮もあったようだ。
浙江省には大昔の化け猫伝承が残っており、なんでも白い猫は容易に人を騙す能力を持つ魔物に転ずると考えられていたという。
そのため、白猫を飼育することは忌み嫌われていたということだ。
さらに中国では「化け猫は月を眺めて魔力を培う」と認識されていたため、夜空に浮かぶ月を眺めている猫は、発見し次第征伐されていた、という話も残っている……。
お月見をしただけで殺されていたなんて、やるせない。
とにかく、日本でも長生きした猫は化け猫になるという話が有名だったが、中国も似たような話が残っていたということになる。
猫鬼の呪術とは何か?
そして中国においては、ともすれば魔物扱いされていた猫を呪術のために利用する試みも行われていた。5世紀ごろに中国各地で流行ったという呪術に、猫鬼と呼ばれるものがある。
詳しい手順については省略するが、要はこれ。蠱毒の一種であったと思われる。蠱毒とは、複数の生き物を閉じ込めて共食いさせ、残った1匹を使って行う呪法である。
猫鬼がその手法にならって行われていたかは判然としないが、どのみちまともなやり口ではなかったことだろう。
昔の人たちは、こういうことにも猫の神秘性に頼っていたと考えられる。
おわりに
それにしても、呪術なんて非科学的なもののために使われたなんて、動物たちにしてみればいい迷惑だったはず。
今の時代ではそういうことに手を染める人間は相当少なくなっているが、それでも皆無というわけではないのが恐ろしい。
猫は人間にとっては古くからのパートナーだが、それだけにしばしば人間の都合で命を奪われ続けてきたということも言える。
主流派でない信仰への弾圧に端を発した魔女狩り、猫鬼などに代表される呪術、そして今の時代では、心無い人々による飼育ネグレクトや虐待行為がこれにあたる。
私たち人間は、他の動物に迷惑をかけないように生きることはできない動物だ。だけどせめて身近な動物に対しては、もう少し真面目に接する存在になるべきだろう。
猫はもっともっと、人間に大事にされるべき動物なのである。
文/松本ミゾレ