「犬猫よけ」と言われる水入りのペットボトルは、エイプリルフールのジョークから生まれた?
住宅街などの道路脇に、水の入ったペットボトルが並んで置いてあるのを見たことがあるだろうか。玄関の側だったり塀の上だったり、はたまた電柱に囲むようにおいてあったり。これは「誰」が「いつから」始めたのか、そして「その効果は?」…。考えてみるとよくわからない「謎」なのである。
「謎」とは言っても,「あれって猫や犬などの動物避けでしょ?有名じゃん?」と言う人もいるだろう。結論から言えば、その目的は「その通り」。でも一体なぜ「猫や犬避け」として行われるようになったのだろうか。
―その “説”は一体どこから始まったのか?―
この “説”の出どころを示すものの多くは曖昧である。発祥はアメリカだとか、いやオーストラリアだとか、どの情報も不確か。ましてや科学的根拠を示すものはほとんどない。しかし、様々な情報を遡っていくと、ある結論に行き着いたのだ。絶対に「これが最初である」とは断言できないが、調べた限りでは最も古く、そして最も信憑性の高いものであろう。
それは「発祥はニュージーランド」というものだ。
―ある庭師の発言―
今から30数年前の1980年代半ば、テレビやラジオなどでガーデナー(庭師)としてカリスマ的存在であったエイン・スカロウ氏。彼が、とあるラジオ番組でこう語ったというのだ。
「水を入れたペットボトルを庭の芝生の上に転がせておくと、犬が芝生の上にオシッコやウンチをしに来ないよ!」と。
カリスマ的存在のガーデナーが言うのだから、きっと本当に違いない!と、ラジオを聞いていた多くのリスナーたちはこぞって庭に水入りのペットボトルを庭へ置いたという。その日以降、ニュージーランドの住宅地では日を追うごとに多くのペットボトルを見かけるようになったそうだ。
しかし、この話には続きがあったのだ。
―4月1日?―
それはその放送日が鍵となる。これが放送されたのが4月1日。つまり…そう、エイプリルフールだったのだ。海外ではよく企業のコマーシャル等でも「ジョーク」を放送する。多くの場合、それが冗談であることはわかる。でもカリスマ的なガーデナーのこの発言はニュージーランド中に広まり、タスマン海を飛び越えてオーストラリアにまで渡ってしまったのだ。
さあ、ここまで広まるともう止まらない。ジョークだったものが真実とされ、アメリカ、イギリス、カナダ、インド、日本、etc.…と世界中に広まっていった。
1986年10月にはアメリカ、サンディエゴの新聞The Sun Diego Unionでも「水入りのボトルは犬を近寄らせない。」と書かれたほど、この話は広まっていったのだ。
―噂はいつしか真実となって・・・―
でもラジオで理由も言っていないのに、なぜみんな信じたのか。それはスカロウ氏が有名な庭師であったということ、そして広まっていくうちに、
「犬や猫は、水入りのペットボトルの反射や光が嫌いだから近寄らない」
「犬や猫は、自分たちが飲む飲水は汚したくないと思っています。ですからペットボトルの水も汚さないようにするのです」
「水といよりもペットボトル自体が苦手なのです」
と、いろいろな理由が人々によって後付けされたことであろう。
時々、偶然にも「効果があった」という人もいたが、ほとんどの人たちはその効果を感じられず、1990年代に入るとニュージーランドの人々は置いた理由さえ忘れ、街からは「庭のペットボトル」もだんだんと姿を消していったという。それは他の国々でも程度の差はあれ同じだった。
―日本では・・・―
しかし日本の「水入りペットボトル」は、30年以上たった今でも信じている人が多い。海外のメディアにも「日本へ行くと、道端に多くのペットボトルが置かれているのを見かける。」と紹介されるくらい現役である。もちろん、うちの散歩コースにもたくさんある「ペットボトル群」。ある時、「犬や猫って、ペットボトルの水が日光でキラキラ光るのが嫌いなのよ。」という説明を聞いた。私は心の中で、(じゃあ、曇りや雨の日は効果ないってことじゃないのか?そうだとしても、別にペットボトルじゃなくてもいいんじゃないのか?)と思ったのだが、それは心にそっとしまっておいた。
―実は危険な水入りペットボトルー
ペットボトルは効果がほとんどないというだけではなく、実は置いておくことで危険な場合もあるのだ。それは日光が水入りペットボトルを通ることで、水がレンズの働きをし、そこから発火する「収れん火災」の恐れがあるということだ。東京消防庁のホームページによると収れん火災は「陽射しが強くなる時期、そして太陽が低くなる冬場に多い現象」だという。また、収れん火災を引き起こすものとして鏡やメガネなどが挙げられており、その中には「水入りペットボトル」と明記されているのだ。
―あるサインも含まれているかも―
このような危険性もある水入りペットボトル。効果がないだけではく街の景観も損ねるし、避けたほうがよさそうである。ただ1つ、これらを置いている人たちの肩を持つならば、「それらが置いてある付近では散歩中のオシッコはさせないようにしよう」という目印になるということだ。我々飼い主は、動物が好きではない人たちもいるということも考え、最低限のマナーは守らなくてはならない。そうしないと犬や猫好きの人たちが、同じ犬や猫好きの人たちの首を絞めることになってしまい、動物との共存社会を自ら難しくしてしまうことにつながってしまうのだ。
そう考えると、日本から道路脇の水入りペットボトルが消えるのは、我々飼い主のマナーが浸透したときなのかもしれない。
さて、「水入りペットボトル」をエイプリルフールのジョークとして発信してしまったエイン・スカロウ氏は2013年にこの世を去っている。晩年の2009年に彼はTVNZで放送された番組でこう語っている。
「あれは冗談だったんだ。でもなぜそれを言ったのかはわからない。ただのノリだったんだよ。あれからイギリスの獣医からの電話が鳴り響いたよ。本当のところはどうなんだろうね。でも冗談っていうのは笑いを誘うものでなければならない。決して誰かを傷つけるものであってはいけなんだよ」と。
文/織田 浩次
参考資料/
STUFF/ Gardening guru Eion Scarrow passes away/ October 5, 2007
Neatorama/ Do Water Bottles on Sidewalk Discourage Dogs from Peeing?
The Side Eye: The Bottles – a story about nostalgia and dog poo
TVNZ/ Companies buy into April Fools’ pranks / Apr.01, 2009
THE STRAIGHT DOPE/Do jugs filled with water keep dogs off your lawn? / Sep.29 1989
DAVID MIKKELSON / Water Jars Keep Dogs Off Lawn
Sucked in / by NAOMI ARNOLD / Apr 01 2010
東京消防庁ホームページ