スコティッシュフォールドに多い「骨軟骨異形成」とは?
最近は空前の猫ブームと言われていますね。純血種ではマンチカン、スコティッシュフォールド、ラグドールが人気トップ3を占めていますが、スコティッシュフォールドに多い骨軟骨異形成を知っていますか?
骨軟骨異形成とは簡単に言ってしまうと骨が正常に成長しない病気のことです。特定の品種に多いのは、骨軟骨異形成による体の特徴をもとにその品種が生み出されてきたことが原因の遺伝性の疾患だからなんですね。では骨軟骨異形成の品種ってどういうものでしょうか?
まずは鼻がペチャっとした猫種。ペルシャやエキゾチックショートヘアー、ヒマラヤンなどが該当します。この鼻ぺちゃの品種は「軟骨形成不全」という異常によって鼻がしっかり成長せずにペチャっとしているのが特徴です。
次に耳折れや短足の猫。スコティッシュフォールドやアメリカンカール、マンチカンなどが該当します。これらの猫種は「軟骨異形成」によって作り出されています。軟骨が正常に成長しないことで耳が折れたり、足が短くなったりしているんですね。軟骨というのは骨のある場所であれば全身いろんなところに存在するので、耳や足だけではなく、他の軟骨も成長不良をおこすことがあるのが知られています。
骨軟骨異形成は生涯にわたって進行する子も!
ではどういった症状が現れるのでしょうか?多いのは成長期に発症する骨や関節の異常による疼痛です。通常は成長期が終わると病気の進行も停止しますが、生涯にわたって進行する子もいます。四肢や尾、そして背骨へと症状が出ることが多いようです。ひどい子になると骨増生と呼ばれる勝手な骨の増殖により、手根関節(手首)や足根関節(足首)の関節に骨でできた瘤のようなもの「骨瘤」ができてしまうこともあります。
関節の部分が固定されたようになってしまうため、関節がうまく曲げられなくなったり、周りの神経が圧迫されて痛みが生じるのが特徴です。特に耳の折れているスコティッシュフォールド同士の交配で生まれた子に多く見られ、また症状も重いことが多いと言われていますが、耳が折れていない子で発症がないわけではありません。
この「耳折れ」は優性遺伝形質であるため、耳折れスコちゃんは若いうちから病的な関節炎が進行し、耳折れではないスコちゃんも耳折れスコちゃんよりは進行はゆっくりではあるものの、関節炎が進行することが知られています。スコティッシュフォールドであるが故の病気と言えばいいでしょうか。
おじさんのような力の抜けた「スコ座り」と呼ばれる特徴的な愛らしい座り方も、この骨瘤により骨が変形していることで、楽な姿勢だからしているのだとも言われています。
鼻にこの病気が出た場合は鼻血がよく出ると言われています。もちろん他の病気(感染症、血液の凝固異常、鼻の中の腫瘍など)によっても鼻血が出ることはありますが、比較的若いスコティッシュフォールドで鼻血を出す子の場合は鼻腔内軟骨の異常が原因のことが多い様に思います。ただ、この鼻血に関しては根本治療はなく、対症療法と言って止血剤を投与するぐらいしか治療法はないのが現状です。
骨軟骨異形成の症状を改善する方法
この病気の診断は、まず猫の種類や特徴的な症状によってこの病気を疑います。続いてレントゲン検査で骨や関節の変形を確認し、他に同様の症状を引き起こすような原因がないかを血液検査などを実施して調べます。
残念ながらこの病気だと分かった場合に、治療はどういったものがあるのでしょうか?遺伝性疾患のため根本治療というのはありませんが、症状を改善する方法はいくつかあります。
1. 外科手術によって骨瘤を取り除く
2. 放射線を骨瘤に当てて骨の成長を抑える
3. 消炎鎮痛剤で痛みを和らげる
4. ビスフォスフォネート製剤(骨粗しょう症のお薬)の投薬
上記の4つが一般的な治療法になりますが、それぞれメリット・デメリットがあります。
1. 外科手術は、痛みの原因になる部分を取り除くので効果的だと言われています。しかし骨瘤は四肢すべてに発生していることが多いため、すべての骨瘤を取り除く手術となると猫ちゃんの負担も多くなりますし、当然全身麻酔が必要になります。
2. 放射線療法も効果的な治療法ですが、特殊な設備が必要になるため治療できる施設が限られていますし、全身麻酔が必要になります。
3. 消炎鎮痛剤の投薬は、症状の重い子の場合はあまり改善が認められないと言われています。また、痛みを抑えることができても骨瘤の成長は止まらないため、痛みのコントロールができなくなることもあります。
4. ビスフォスフォネート製剤の投薬は、まだ他の3つと比べると報告は少ないものの、消炎鎮痛剤と組み合わせることで症状を改善できると言われています。じつはこの骨軟骨異形成症は同様の病気が人でも知られていて、このビスフォスフォネート剤が治療に使われているんですよ。
その他、サプリメントなども併用することはありますが、効果の程は個体差があるように思います。
この病気は遺伝病なので、耳折れ同士の繁殖を避けるぐらいしか予防法はありません。症状の程度も猫ちゃんによって全く違うので、軽い子だと別の病気で処方した消炎鎮痛剤を飲んだらジャンプできるようになったから実は痛みがあったことが分かった、なんて子もいます。スコティッシュフォールドはとても魅力的な猫ちゃんですが、その魅力ゆえの持病があるのもまた事実です。
症状の軽い子の場合は飼い主さんが気づかれないことも多いので、昔と比べて動かなくなった場合は、実は関節が痛いからかもしれません。普段から気を付けて見てあげるようにして下さいね。
文/古江加奈子(獣医師)
パーク動物医療センター副院長。福岡県獣医師会、福岡市獣医師会、日本獣医がん学会に所属。言葉の話せない動物を治療するうえで、動物たちに聞く代わりに飼い主から沢山のことを聞き、飼い主とのコミュニケーションを最重視するドクター。http://parkanimal.jp/