犬や猫の遺物誤飲について
先日、こんな出来事がありました。
顔色を変えた飼い主さんが、ワンコを抱っこして来院されました。看護師が受付で問診したところ、「ついさっきボタンを飲み込んでしまったんです!」と慌てた様子で状況を伝えてくださりました。
ワンコが飼い主さんの洋服で遊んでいたので、その洋服を取り上げたところ、ボタンがなくなっていたと・・・。
この様に食べて消化できるもの以外を、「異物」と言います。異物を摂取した場合、その材質や形状、種類などでその対処方法は異なります。特に問題を起こしそうにない素材や形、大きさの場合は経過を見ることもありますが、腸閉塞を起こしかねないものの場合は処置が必要になります。具体的には催吐作用のある薬を使って吐かせる方法や、内視鏡を使って取り出す方法、場合によっては開腹手術が必要な場合もあります。
飲み込んだ直後で、果物の種だったりボタンのような丸い小さな物だった場合には、催吐作用のある薬を使って吐かせます。メリットは麻酔をかける必要がないので処置が大掛かりにならず、動物への負担も軽度なことです。
ただ、爪楊枝や竹串のような尖ったものや、硬い突起がついているようなもの、あまりにも大きな異物の場合は、吐かせる過程で食道を傷つけてしまったり、異物が途中で引っ掛かってしまい喉をつまらせたりするリスクもありますから注意が必要です。私たちが、催吐処置を行う場合は、催吐剤を注射後、きちんと吐ききることができるか、途中で喉に詰まらせたりしないかを注意深く観察します。
たまに、異物を飲み込んでしまったので、自宅で対処しようと、ネットで調べた方法として、食塩を大量に飲ませたり、オキシドールを原液で飲ませたりする飼い主さんがおられますが、私はあまりお勧めしません。自分の体に当てはめて考えてもらったら分かり易いと思いますが、塩を大量に飲んだり、消毒で使うオキシドールを飲んだりするのは相当苦しいですよね。
また、嫌がる動物に無理矢理飲ませようと、誤嚥(誤って食道ではなく気管に入ってしまうことです)させてしまった場合は命に関わります。くれぐれも注意してくださいね。
さて、飲み込んだものが、タバコだったり、農薬だった場合はどうすると思いますか?吐かせるだけでなく、胃内洗浄をして毒となる成分をできるだけ洗い流します。こうなった場合は当然麻酔をかけての処置になります。
ただ、成分が体に吸収された後だと洗浄をしても手遅れの場合がありますから、とにかく一刻も早く処置をする必要があります。動物病院に急いで向かうのは当然ですが、その前に、動物病院へ電話をかけて今から緊急で向かう旨を知らせておくことをお勧めします。そうすることで、病院についてすぐに処置ができるような体制を病院側が準備をしてくれます。
次に、尖ったり、突起のある異物の場合は内視鏡を使用して除去します。最近、私が内視鏡で取り出した異物はチェーンが垂れ下がったタイプのイヤリングとネックレスです。これらの異物では、下手に吐かせての食道を傷つけてしまうリスクを避けたいと思い、内視鏡を実施しました。
内視鏡での異物除去は限界がある
個人的には、内視鏡のカメラを見ながら、鉗子で異物が取れた時の達成感はクレーンゲームで景品が取れたような感覚です(クレーンゲームで取れたことはありませんが…)。看護師も「おめでとうございます!」と声をかけてくれるんです。ほかの病気や手術ではこういう言葉がでることはまずないので、内視鏡で異物除去をする時ならではだと思います。
ただ、内視鏡で異物を除去するにも大きさの限界があり、せいぜいゴルフボールくらいの大きさが限界です。また、それより小さいものでも形状によっては滑ってしまい取れない場合があるので、私は内視鏡で異物を取る際には、取れなかった時のことも考え、開腹手術になる可能性を飼い主さんに伝え、その準備をした上で内視鏡による摘出を実施します。
ところで、最初にお話をしたボタンを飲み込んだという飼い主さんのお話ですが、催吐処置を実施したものの、出てきたのは朝食べたフードだけでした。
ボタンは出て来ない...すでに胃を通過したのかと、もう一度エコー検査をしてみましたが、異物らしき所見はありません。ワンコはケロっとした顔で私を見ます。その時、ある事を閃いて私は飼い主さんにこうお願いしました。「もしかしたらということがあるので、もう一度ボタンをお家で探してみてもらえませんか?ベッドの下や机の下なんかに転がっているかもしれません。隅々まで探してもボタンがなかったら、造影剤を飲ませてボタンの位置を確認するなど次の処置を考えましょう」
飼い主さんが帰られて30分後。。。「部屋の隅に落ちてました!!お騒がせしました…」というお電話があったのでした。
文/古江加奈子(獣医師)
パーク動物医療センター副院長。福岡県獣医師会、福岡市獣医師会、日本獣医がん学会に所属。言葉の話せない動物を治療するうえで、動物たちに聞く代わりに飼い主から沢山のことを聞き、飼い主とのコミュニケーションを最重視するドクター。http://parkanimal.jp/